御嶽山火山噴火に伴う救助活動について
 過酷な高標高地でのヘリコプター救助活動

元陸上自衛隊航空学校長
山根峯治

はじめに

 平成26年9月27日(土)午前11時52分に御嶽山が噴火し、多くの登山者が被災して取り残された。自衛隊は14時31分長野県知事からの救助要請に基づき災害救助活動を開始した。防衛省のHP(10月2日2030現在)の活動状況によれば、人員延べ約2010名、車両延べ約495両、航空機延べ73機が出動している。
 高標高山岳地域での救助活動は、空気密度が薄いこと、稜線などは岩場が多く、狭い為行動に制約を受けることなど通常の考慮要件があるが、今回は、火山噴火によって有毒物質を含む火山ガスや降灰の影響で大きく救助隊の行動が制約される中での活動である。自衛隊だけではなく、警察や消防の山岳救助や化学防護の専門家も加わって、防塵対策や有毒ガス検知等をしながらのチームプレイで救助活動が行われている。一人でも多くの方々の救助が行われることを願っている。
 今回の高標高地での火山噴火活動の困難性を特にヘリコプター救助活動に焦点を当てて、過去の経験を基に述べてみたい。

1.山岳救難の困難性

 北アルプスの槍ヶ岳山荘の横にある救助ヘリポートを使用して急病人を搬送した例を紹介してその厳しさを理解して頂ければ、今回の御嶽山での救助活動がどれだけ厳しいことかが理解して頂けると思うので、事例を紹介する。

図1 当時のHU-1B

 昭和50年代のことである。当時北・南・中央アルプスなど3000メートル級の山岳救難の多くは、警察の山岳救助隊と陸上自衛隊の東部方面航空隊等が協力して任務を行っていた。現在は各自治体の警察や消防に高性能のヘリコプターを装備しているので、日ごろの山岳救助活動は専ら警察や消防防災の任務として行われている。図1は、当時任務を行っていたHU-1B型機である。
 昭和53年の夏、北アルプスの最高峰である槍ケ岳で若い看護士さんのパーティのうちの一人が肺炎をこじらせて重体であるという。立川飛行場を離陸して松本駐屯地に推進した。飛行隊長を機長とする3~4名のチームであった。立川から松本に至る飛行間にマニュアルを読み上げながら性能の限界と操作の手順の再確認を行っていた。燃料を最小限に抑えて軽くしても、夏場の槍ケ岳の山頂付近は約3100メートル以上あり、救助ポイントとなったヘリポートでのホバリングの能力は無かった。機長は速度のある状態で山の頂上から十分に高く飛行した。夏場とは言え山頂付近での西風は30ノットを越えていた。山頂付近では山岳波による下降気流で頂上に着くまでに山に叩き付けられて激突する恐れがあったからである。後は着陸のために慎重に相対速度を減らして高度を下げる。失敗しても急上昇するだけのパワーの余力はない。副操縦士が速度計、高度計、トルク計、エンジン回転計、ローター回転計等を事前に打ち合わせた順に従って読み続ける。機長は着陸点を見ながら読み上げるデータを判断して徐々に降下させた。ピッチを引いてパワーを上げようとすると直ちに回転計が下がり機首振れの状態が生起する。ヘリコプターにとって最も危険な状態となるのである。もし着陸に失敗したら、岐阜県方向の谷に一度機首を下げ、機首を突っ込んで速度を獲得してから残燃料があれば再度アプローチすると言うのが機長の腹案であった。幸いに機長の適切な判断と優れた技量のおかげで一回目のトライで槍ヶ岳山荘横の狭いヘリポートへの着陸に成功した。重体の看護士を一人で乗せるわけにはいかない。付添いの看護士も乗せることにした。離陸のための重量をオーバーしていることが十分に予想された。あとは最後の手段で、緊急の際の離陸数秒間だけ許される最大許容限界パワーを使用するしかない。また機長に促されて計器を読み始めた。今度は時計の秒針に注目が集まっていた。エンジンの音が少し変わったかなと思った瞬間にふわーっと浮いて前方の谷底をめがけてダイビングした格好になった。60ノットの速度を回復して何とか限界近くの高標高地からの離陸に成功したことを実感した瞬間であった。高標高の山岳救助活動は、航空機の限界との戦いであり、まさに薄氷を踏む思いの救助活動なのだ。あれほど苦しかった救難活動はなかったのかもしれないと思うことがある。何故こんな仕事を選択したのかな・・などと自問したこともあった。
 現在陸上自衛隊が保有するUH-60JAやCH-47JAは、極めて大きなエンジン出力を持ち、3000メートル級の高標高地でも十分パワーを発揮できるが、空気密度が低い高山や降灰のある空域での性能低下は十分考慮して慎重に行動しなければならなかっただろうと推測する。ヘリコプターにとって3000メートルを超える山岳地域でのホバリングを伴う運用は、厳しい環境下での運用であることには間違いない。彼らのプロ集団としての高い能力に敬意を表するとともに、日ごろからの地道な訓練を欠かさない隊員の皆さんに感謝したい。

2.降灰による出力低下の危険性

 雲仙普賢岳火山噴火災害に於いて出動中のV-107が任務中に急遽出力低下を起こし、畑に不時着した事例がある。火山噴火における火山灰は、風に乗って広く拡散するが、この火山灰は、タービンエンジンを持つ航空機にとっては大変厄介なものである。特にヘリコプターは、離着陸する際にホバリングするが、その際地面の砂塵を舞い上げてエンジンに吸い込む場合が多いのである。もちろん砂塵による影響を軽減するための装置は装備されているが、火山噴火の際の降灰は、粒子が小さくてエンジン燃焼室に入り、エンジンの出力低下あるいはエンジン停止を起こす危険性が高いのである。

図2 不時着したV-107

 雲仙普賢岳は平成2年11月17日に198年ぶりに噴火をし、間もなく活動は低下したが、平成3年2月12日に再び噴火が始まり、5月15日には水無川で最初の土石流が発生、5月24日には最初の火砕流が発生し死者不明者が43名に達した。この災害では、第16普通科連隊を主力とする陸上自衛隊災害派遣部隊が、行方不明者の捜索や火山活動の情報収集に活動している。平成3年6月6日災害派遣活動中のV-107が第一エンジンの回転数が低下するトラブルで、雲仙普賢岳山麓南木場町のタバコ畑に不時着した。図2は、不時着したV-107である。

3.御嶽山における救助活動で見事な連携プレイ

図3 救助活動に向かう部隊
(防衛省HPから)

 地上から派遣された救助部隊は、陸上自衛隊第12旅団の中でも山岳任務に強い第13普通科連隊がまず出動して救助活動をしている。ヘリコプター部隊は、相馬原に駐屯する第12ヘリコプター隊のUH-60JAが主力となって第13連隊の隊員や警察消防の隊員と緊密に連携して高標高地での救助活動を実施している。ヘリコプター部隊は、28日6時51分に剣ヶ峰山荘付近で地上部隊が救助した2名をホイストで吊上げて救助した。頂上付近はヘリコプターが降着できる地積もないことや降り積もった降灰のため着陸せず、ホイストによる吊上げ救助を選択している。高標高地でも十分な出力を持つ中型ヘリコプターだからこそ実施可能な任務であった。その後石室山荘、二の池本館小屋などを捜索、覚明堂周辺からも順次救助が行われた。その後も火山性微動の状況や噴火による熱とガスの状況を監視しながらの厳しい救助活動が続いている。
 その後徐々に降灰による影響が少なくなった地域に於いては、大型ヘリコプターCH-47を投入して一度に多数の心肺停止者等の空輸を行った。
 先にも述べたとおり、大型ヘリコプターのホバリング時の風圧は大変大きいため、山上のヘリポート周辺の降灰はもちろん小石も飛ばしてしまう威力である。そして巻き上げた降灰によって地上の救助部隊や要救助者への影響も大きい恐れがある。当然ヘリコプターにとっては、降灰を吸い込んでエンジントラブルが発生する恐れがある。

図4 ヘリコプター救助
(防衛省HPから)

 これらを十分認識して機種を状況に合わせて適切に選んで運用されているのである。図4は救助活動中のUH-60JAである。
 陸上自衛隊は、大型機を装備しているのになぜもっと早くから使わないのか?などとその特性を知らない方々からのお叱りも受けるようだが、機種特性を熟知するプロが、運用環境によって使用する最適機種を選んで救助活動を行っていることをもっと理解して欲しいものだ。
 今回当初は、ダウンウオッシュの影響が比較的少ない中型機であるUH-60JAを運航して、少しづつ降灰を飛散させ、ブラウンアウトなどの危険性が少なくなったところで、大型機も運航しているのは適切な選択であったと思う。
 テレビ報道で見るだけであるが、極めて劣悪な環境にもかかわらず、自衛隊・警察・消防等の各機関が連携協力して迅速に行動しており、素晴らしい成果を収めて頂いていると確信している。鍛え上げた集団の連携プレイを大変心強く思う次第である。

4.自然には勝てず、ただ克つのみ

 我が国は、地震、風水害、火山噴火災害等自然の猛威を受けることが多い。山岳救難や雪山での救助活動などを経験した操縦士が、自らの行動を冷静に見つめて任務を行うため、「自然には勝てず、ただ克つのみ」という言葉を旭川時代の部下に話したことを思い出している。吹雪の中を飛行任務するのも命がけであった。ホワイトアウトにも何回か入りそうになった。雲・海霧の中の飛行を余儀なくされて計器飛行に切り替えて命が助かったこともある。
 御嶽山火山噴火災害での救助部隊も、日ごろからの命がけの厳しい訓練を行って、体力練成や科学技術に関する各種知識を体得している要員が十分に育っているからこそ整斉と高標高の山岳救助任務が達成できると信じている。また、高標高地での厳しい任務を交代もせずに長期間連続して行動することは不可能である。スキルレベルの高い交代要員を確保して、順次休養させながら次々と新たな部隊を投入してこそ困難な連続運用が可能になる。今回の高標高地での厳しい任務を教訓として、防衛警備行動はもちろん各種災害救助活動に於いても「スキルレベルの高い予備戦力の重要性」を再認識して頂ければ幸いである。これが「自然に克つ」重要な方策だろうと思っている。

5.無人機の活用

 有毒ガスが噴出する火山災害においては、長期間、安全且つ常続的に監視するのに欠かせないのが、無人機システムであろう。有珠山の噴火、三宅島の噴火などで赤外線センサーやサーモグラフィを搭載した無人機が観測のために運用されている。今回も数年に及ぶ火山活動の監視などのためには、無人機単体ではなく無人機システムを運用して、常続的に監視する必要もあると考えている。麓または近隣の市町村から飛行させて3000メートル級の山々の上空においても運航できる無人機システム(合成開口レーダ、可視/赤外カメラ、線量率計を搭載)は既に自衛隊で装備化されているので、今後さらに無人機システムによる観測も活用すべきだろうと考える。

おわりに

 最近の一般的社会的傾向として、専門職の技術者は、何処の機関でも定数を減らされており、連続長期間の運用が困難になりつつあると聞いて心配している。そして短期の成果を重視するあまり、中長期的な人材育成を計画する余裕さえ無くしているところもあり、少子化時代の到来も相俟って、各職域で若手専門技術者の不足が危惧され始めているのである。
 防衛警備等枢要な任務を担う自衛隊や警察・消防においては、懸命にその技術者の育成に努めていると認識しているが、今回の御嶽山火山噴火に伴う救助活動を教訓として予備力の強化が図られることを願っている。