ある公認会計士の世界情勢分析
【最近の中国の動きについて】

笹本 憲一

1.習近平への権力集中

 今年3月5日に始まった全国人民代表大会で中華人民共和国憲法が改正され、国家主席の2期10年という任期が撤廃されました。これで習近平は3期目以降も国家主席に留まれることになり、習近平の独裁体制が整ったと世界中に衝撃が走りました。これまでも習近平への権力集中を色々な形で進めてきていますが、例えば習近平の神格化を企図した次のような運動があります。

①「梁家河」大学問という研究課題の推進
 文化大革命時代に習近平が下放された地である「梁家河」(りょうかが)を聖地化して、この地で習近平が学習し大志を抱いたことを学ぼうという運動です。これは1936年に毛沢東が共産党幹部や軍幹部の養成を目的 として延安市に大学を作り、文革当時は「延安に学べ」をスローガンにしていたのを王滬寧(政治局常務委員NO5)がパクッて企画したものと言われています。
 中央テレビ局CCTVでも熱く宣伝し、ラジオでも『梁家河』を12回連続ドキュメンタリー番組として放送しました。

② 映画「すごいぞ、我が国」が上映された
 今年3月5日からの全人代(全国人民代表大会)開幕に合わせて、3月2日に封切られた映画で、これは昨年、CCTVで報道された連続ドキュメンタリー番組「輝煌中国」を一つにまとめたもの。
 興行収入7億円と報じられていますが、実際は共産党員や学者等がチケットを強制的に買わされた「組織的動員票」だったようです。「お粗末としか言いようがない映画」など、数々の不満がネットにも充満したとのことです。



2.習近平の個人崇拝の挫折

 しかしながら、8月恒例の「北戴河」会議直前の7月に次々と異変が起こりました。

① 習近平ポスターへの墨かけ事件
 7月4日午前6時40分過ぎ、上海の海航ビルの前で、壁に大きく貼られた習近平のポスターに墨汁をかけた女性が、その様子を自撮りしてネットにアップしました。女性の名は董瑶けい(「けい」は王へんに「京」)で、湖南省出身の29歳。上海の不動産業関係の会社に勤務していたようで、事件後すぐ駆け付けた警官隊に逮捕されました。噂では精神病院に収容されたとのことです。

② 7月9日と12日および15日の3日間、中国共産党機関紙「人民日報」1面見出しには、習近平の文字が一つもありませんでした。これは異常な現象です。 

③ 7月11日の夜遅く、中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」に「華国鋒は自分の過ちを認めた」として、「華国鋒が個人崇拝を戒めた」過去の記事(1978年)が突然現れ、それはまもなく削除されました。

④ 7月12日の北京時間夕方7時のニュースでは習近平に関する報道のときに、いつもはその前に付ける「中共中央総書記」「国家主席」「中央軍事委員会主席」という長い敬称を全て省いて、ただ「習近平」とのみ称してニュース原稿を読み上げました。そしていきなり、ニュースキャスターの前に頭から黒い布で体を覆った黒装束の男(の後ろ姿)がテレビ画面に飛び出してきて、キャスターに「差替え原稿」を渡した。女性キャスターは3回目の「習近平」から、いつも通り名前の前に「中共中央総書記」「国家主席」「中央軍事委員会主席」を3つとも付けた。4回目は「習近平」のみ。5回目は「習近平総書記」、6,7,8回目は「国家主席・習近平」。男性キャスターが9回目の「習近平」を言ったときに「習近平総書記」と言おうとして、「習近平」と「総書記」の間に、一瞬の間合いが生じました。

 この直後
 ※7月12日何と習近平自らがこの研究課題「梁家河大学問」の推進を禁止しました
 ※北京市内の習近平のポスターを撤去するよう警察に指示しました。北京市内からは次々と習近平のポスターや写真が撤去されたということです。



3.習近平の独裁体制への反発

 トランプとの貿易戦争、一帯一路計画の頓挫、海外への資源開発投資の失敗等、このところ次々と習近平の政策の失敗が表面化してきており、独裁体制と自らの神格化を推進する習近平への風当たりは相当激しくなってきています。この辺の「空気を読んだ」のか、いきなり神格化をトーンダウンしている様子が見て取れます。
 チャイナ・ウォッチャーの中からは習近平の失脚の噂もささやかれていますが、今すぐ習近平がその座を追われるかどうかは分かりませんが、明らかに反対勢力の巻き返しの動きは始まっているように思われます。特に習近平の懐刀で、一帯一路計画の立案や数々の神格化の企画推進をしてきた王滬寧(政治局常務委員NO5)の身が危ないのではないかという識者も多いようです。
 北戴河会議でどのような話し合いが行われたのか全く分かりませんが、当面は中南海の動きから目を離せないようです。

(平成30年9月20日:笹本)