中国海軍雑学

山内 敏秀

今、手元に1冊の本があります。中国海軍司令部が編纂した『中国海軍軍人手帳』というもので、読んでみるとなかなか面白いのでその内容の一部を雑学的に紹介したいと思います。
 まず、お断りしておきますが、タイトルに中国海軍と書きました。正しくは中国人民解放軍海軍と書かなければならないのでしょうが、本の表題にも中国海軍となっておりますので、この文の中では中国海軍で通させていただきます。

中国海軍軍人にどのようにしてなるの?

 中国海軍軍人と書きましたが、大きく2つに区分されます。軍官と士兵です。軍官は将校に当たります。軍官は小隊長(排級職)以上の職務あるいは初級以上の専門技術職にあって、相応する階級を付与された現役の軍人とされており、軍事軍官、政治軍官、后勤軍官装備軍官と専門技術軍官に区分されています。
 軍官の階級は上将(大将)、中将、少将、大校(大佐)、中校(中佐)、少校(少佐)、上尉(大尉)、中尉、少尉となっており、海軍ではそれぞれ海軍上校とか海軍中尉というように頭に海軍が付きます。
1999年に中国人民解放軍現役士兵服役条令が制定され、志願兵役制と義務兵役制の併存という現在の体制ができあがりました。その条例に基づき、志願兵役制の士兵は士官と呼ばれるようになりました。したがって、士兵の階級は義務兵である列兵と上等兵、士官である初級士官である1級及び2級士官、中級士官である3級及び4級士官と高級士官である5級及び6級士官に区分されています。
 ここでは徴兵された新兵さんについて簡単に紹介します。
 軍営に入営した新兵さんは、政治的適合性の再審査と身体再検査を受けます。
 これらに合格した新兵さん2ヶ月~3ヶ月の基礎訓練を受けます。内容は概論的な政治教育、軍事の基礎知識、基本教練と躾教育です。
 政治教育には中国海軍の優良な伝統に関する教育、軍人の職責に関する教育、愛国主義に関する教育などとともに時事政治教育が行われています。今頃は尖閣諸島に関する教育が新兵さんに行われているのかも知れません。
 これらの訓練に合格し、再度政治上の審査、身体検査を受けた後、心配さんが軍籍に登録されます。この時、軍人としての宣誓を行います。
軍人誓詞と呼ばれる人民解放軍の宣誓文は次のようなものです。

 私は、中国人民解放軍の軍人としてここに宣誓する。
中国共産党の指導に服従し、誠心誠意人民のために奉仕し、命令に服従し、規律を厳守し、勇敢に戦い、犠牲を恐れず、職務に忠節であり、勤務に努力し、敵を倒す技能を磨き、断固として任務を完遂し、いかなる状況下においても、決して祖国に背かず、決して軍隊を裏切りません。

 ちなみに自衛隊の宣誓も紹介しておきたいと思います。

 私は、我が国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。

新兵さんが海軍に入隊し、軍籍に加わるまでの過程を見ていて注目されるのは、やはり政治的審査でしょうか。中国共産党一党支配が続く中国で、中国共産党の絶対的な指導を受け入れている中国海軍ならではという印象を持ちました。

中国海軍軍人の義務

 中国海軍軍人、というより人民解放軍の軍人すべてに当てはまることですが、国民としての義務のほかに軍人として守るべき義務が課せられています。
 1つは国家の安全、栄誉、利益を守る義務です。祖国に忠誠を尽くし、祖国を保護することは軍人の根本的な義務であり、第一の職責であるとされています。
 第2は、遵法の模範となることの義務です。憲法の維持と法律の遵守の模範となり、軍事法規を厳格に遵守し、軍事命令を執行し、規律を厳守することが求められています。
 第3は、軍事秘密を保全する義務です。言うまでもないことですが、中国でも軍事秘密を保全し、軍事利益を維持する義務の重要性が強調されています。
 第4は武器装備の愛護の義務です。武器装備は敵を倒し、自分を守る道具であり、軍人の第2の生命であるとして武器装備の愛護が謳われています。
 第5は中国海軍の優良な伝統を発揚する義務です。

軍人の優遇措置

 中国には軍人撫恤優待条例というものがあります。
 軍人が戦闘や公務において負傷した場合、その程度に応じて部隊は負傷費というものを支払うこととされています。また、後遺障害(中国では残疾と言います)が残った場合には軍人残疾等級評定標準に基づき1級から6級までが認定されます。
 死亡した場合、逝世喪事費と呼ばれる葬儀費用が部隊の財務部門から遺族に支払われます。これには葬儀(中国では悼念活動とよばれています)、火葬(遺体火化と言うそうです)、納骨(骨灰安放と言うそうです)の費用や親族が遠方から部隊に来た場合の交通費、宿泊費も含まれています。
 さらに、遺族が居住するところの民生部門から死亡の性質(烈士の称号が与えられる死亡なのか、公務中の死亡なのか、病没なのか)と死亡時の収入を勘案して一時撫恤金が遺族に支払われます。また、その遺族が居住地の住民の生活レベルと同等の生活ができるようその地方の民生部から毎月固定の撫恤金が支払われます。さらに、海軍の政治機関が承認すれば特別撫恤金が支払われます。
 このほかに軍人保険制度も整備されてきているようです。
 中国軍人の優遇措置の1つとして、現役及び後遺障害のある軍人は国内で運航される列車、船舶及び長距離運行の車両、民間航空機に乗るときには乗車船券、搭乗券を優先的に購入することができます。そして、後遺障害のある軍人はその市内で運航される交通機関を利用する場合には50%の割引が受けられ、現役軍人も地方政府の定める割引を受けることができます。また、遊園地、博物館、名所旧跡等に入る場合も規定の割引を受けることができます。

軍人の結婚はどうなっているの?

 まず言えることは、中国海軍では晩婚が奨励されていることです。男性は25歳、女性は23歳だそうですが、今の日本ではとても晩婚とは思えないのですが、中国の婚姻法の規定にも合致しているのだそうです。晩婚の奨励は、1979年に開始された一人っ子政策とも関係するのでしょうか?
 軍人の配偶者の条件は第一に政治的に信頼がおけることが上げられています。これも共産党の絶対指導下にある中国海軍あらではと思います。第二は思想が進歩的で、中国国民として品行が端正であることが続きます。艦艇乗組員、航空機搭乗員及び秘密事項を扱う部署に勤務する者の配偶者については特に留意が必要と強調しています。そして、現役の軍人は外国人との結婚は禁止されており、香港及び澳門特別行政区並びに台湾在住者との結婚も原則的に禁止されています。
 また、社会の公徳心を尊重することから、未婚者が同居したり、結婚していないのに性的関係を持つことはあってはならないとしています。したがって、最近の日本の芸能界でよく聞くできちゃった婚は中国海軍ではあり得ないことになります。
 そして、結婚するためには申請を提出し、団級(連隊に当たります)以上の政治機関の審査を受けて、合格すると登記機関に登記されるとともに概機関から結婚証書が発行されます。

船乗りの基本:ロープの取り扱い

 海上自衛隊でも最初に受ける訓練の1つが結索法というロープの結び方です。これを覚えていないと船の上での勤務に支障をきたしますし、危険でもあります。
 その中でも一番覚えさせられたのが舫結びという結び方です。キング・オブ・ノットと呼ばれるほどに代表的なロープの結び方で、力がかかっても解けることはなく、そのくせ硬く締まって解けにくいということもないのです。海上自衛隊では万一、海に転落して艦から投げられたロープを受け取って艦に引き上げてもらうときに、単にロープに掴まっただけでは滑って、また転落することもあるので、片手でロープを握り、片手でロープの端を持ってからだに回し、舫結びができるまで訓練させられます。
 今回取り上げるのは、中国海軍では別の結び方をしているということではなく、同じ結び方を中国海軍ではこのように読んでいるのかという興味からです。
 先の舫結びは中国海軍では単套結と呼んでいます。ただ、この結び方の使用法の1つとして艦船の外舷での作業をするときに体を保持するために使用するとなっていますが、海上自衛隊では腰掛け結びという結び方があって、こちらを使用することが多いと思います。
 その他の結び方では、円柱に簡単に、しかししっかりと結ぶことができる結び方に巻き結びというのがありますが、これは中国海軍では丁香結と呼ぶそうです。また、太さの違うロープをつなぐときに使用される二重つなぎ、カッターを他のカッターの外側に係留するときに艇首側の舫索を結ぶときにも使用するのですが、これは旋圓両半結と呼ぶのだそうです。
 もう一つ、ロープに関する話題で艦艇が岸壁に係留するときのどのように舫索を使用するかということでは海上自衛隊と中国海軍とでは違いがあるようです。

 上の図は海上自衛隊の護衛艦が岸壁に係留する場合の舫索の取り方の例を示したものです。数字は舫索の番号で、艦から見て艦首側から順番に番号が付けられています。2番と4番舫は昇り止めといって外力を受けて艦が前へ動こうとするのを防ぐための舫で、3番と5番舫は下がり止めといって艦が後ろの方へ動こうとするのを防ぐ役割をします。1番と6番は艦が岸壁から吹き離されようとするのを防ぎます。
 これに対し、中国海軍の係留の仕方は下の図のようになっています。

 数字は海上自衛隊の場合と同じく舫索の番号ですが、中国海軍では舫索のことを帯纜縄と呼ぶのだそうです。各帯纜縄には次のような名称が付いています。
 1番は首纜、2番は首横纜、3番は首倒纜、4番は尾倒纜、5番は尾横纜そして6番が尾纜です。
 今回はまさに雑学的、とりとめもなく紹介しましたが、とりあえずこの辺までとしたいと思います。また、機会があればご紹介したいと思います。
(了)