救助犬大和の挑戦(3)
「一人発見!しかし、・・・・」-第3回試験奮闘記-

さすらいの老ハンドラー  矢見野 降男

 回11月の国際救助犬試験における暴走事案は、飼主一家にいっそうの訓練不足を認識させ、否応なく次回4月の試験までS訓練士の所で特訓することになった。そこは車で30分くらいの距離であるが、大和号は原則として週末しか帰宅を許されない。飼主はこのような場合を想定して癒し犬として甲斐号を飼っていて良かったと改めて思う。その甲斐は日課の格闘訓練の相手がいなくなりしばらく寂しそうにしていたが、そのうち飼主一家の寵愛が自分一身に注がれているのを感じてか、わがままぶりを見せ始めた。大和は週末に帰宅するが、飼主はその度に大和の成長ぶりに刮目した。心なしか所作に落ち着きが出て体格も逞しくなってきた感じがする。甲斐は久しぶりの闖入者に対して威嚇し格闘を挑むが、小一時間もするとお互い疲れ果てて寝込んでしまうのが常であった。
 大和がいないくなり飼主一家の行動は比較的自由になり、年末は甲斐・三毛猫のサキ、セキセイインコのルリを連れて車で四国松山に帰省した。平成25年の年が明け、1月、2月は神奈川県愛川町に、3月は長野県富士見高原まで大和の瓦礫捜索訓練を見学に行った。愛川町の訓練場はゴルフ場近くの山中にある工事用資材置き場で比較的平易な場所だったが、大和の練度は着実に向上している。富士見町には嫌がるカミサンをドライブにと誘って行ったが、前々回の試験では同じ場所の瓦礫の中に入れなかったのが、曲がりなりにも進入できた。しかし、被災者発見の咆哮告知(アラート)は不十分で、思わず1カ月後に控えた試験に対する不安がよぎった。
 その後、特訓の合間、週末ごとに帰宅して来る大和の顔や体つきは心なしか逞しくなっているように見えた。そして、4月末の連休前半の第18回国際救助犬試験を迎えた。この時期は例年長野県の富士見高原で行われ、3日間のうち1日は必ず雨や雪の悪天候に遭遇するのだが、珍しく今年は期間中好天に恵まれた。
 回の審査員はスイス陸軍のF氏とチェコのS氏の2名。瓦礫捜索はF氏が担当したが、事前の現場状況の付与や指導手の情勢判断等には実際の災害現場に即したものが求められ、これまでの試験とはやや趣を異にしていた。大和号の試験は、「服従・熟練」が1日目、「瓦礫捜索A段階」が2日目に行われる。今回の指導手(ハンドラー)はS訓練士自身が実施し、飼主は見学の位置。まず、「服従・熟練」はかなりミスをしたが、70点でかろうじて合格する。


「瓦礫捜索」は15分以内に規定の被災者2名のところを1名のみの発見、100点で不合格という成績であった。大和号は1人目の発見、告知は捜索開始後数分と非常に早かったが、2人目の捜索に集中できず指導手の指示通り動かず課題を残した。しかし、今回は瓦礫の中には臆することなく入って行き、確かに鼻を使って捜索を実施していた。1名発見後の捜索は、指導手の指示しない方向に勝手に向かうので何度も呼び戻され、そのうち捜索意欲を失って行ったようにも見えた。
 練時にはいつも発見・告知の「ご褒美」としてボールが出てくるので、それで更にモチベーションが高まり2人目の捜索に移行するのだが、試験の場合はご褒美をやれないので犬の捜索意欲を持続向上させる一工夫が必要である。
 ここで最もKeyとなるのが人と犬の連係、コミュニケーションだ。この人と犬の関係の根底となるのは要するに信頼関係。最悪の場合はハンドラーの立ち入れない危険な場所に犬だけが入って捜索を行うことも当然あるからだ。
 救助犬に限らず、人と犬との関係は先ず犬が人の命令指示に従うという服従関係から始まる。次にこの関係が確立できたところで瓦礫や広域の捜索訓練に移行する。足場の悪い現場をくまなく捜索するためには、倒壊家屋や土砂、崖、はしご、トンネル等の障害を乗り越える機動力と、動けないでいる被災者を感知、発見する捜索能力が不可欠となる。災害現場は一般に人が入れない危険区域や狭隘な場所が多いので、いきおい犬の自主的な機動力と捜索能力に頼ることになる。
 しかし、いかに優秀な犬でもその能力の及ばない捜索戦術の立案や実施がまずければ長時間掛かったり、発見できない場合もある。現場の被害状況、被災者の人数や危険物の有無、風向き等により戦術は大きく影響される。要するに、迅速確実な被災者の捜索・発見には犬の自主的捜索能力と人の情勢判断、指導力の絶妙なコンビネーションが不可欠なのである。従って、救助犬は犬とハンドラーの(ペア)で必ず評価して、人・犬ともにこの域に達して初めて実際の出動に耐えうるチームとして認定される。

 回の試験もいつもと同様五十数頭が受験し、合格犬は適性2頭、瓦礫捜索A段階5頭、瓦礫捜索B段階6頭という成績であった。このうち、A段階合格のリヒト号(ジャーマンシェパード)とルナ号(ラブラドールレトリバー)の2頭は成績優秀につき、引き続きB段階受験を許可され、見事これも合格するという快挙を成し遂げた。オーストリア生まれのリヒト号はまだ3歳の若さであるが、IRO公認審査員の資格を持つNPO法人理事長のM訓練士が指導手で、約1ヶ月間の里帰り特訓から帰国したばかりだ。前回の試験では瓦礫捜索の成績は大和と同じくらいのレベルであったが、今回は皆刮目するほどの連度向上ぶり。僅か半年の間に人・犬のコンビネーションの成果は見事であった。リヒト号の血統、救助犬のメッカ、オーストリアでの生まれ育ちの故もあるが、地道な訓練の積み重ねがその才能を開花させたのか。いずれにせよ、わが大和号の救助犬への道は遼遠で険しい。(第3回了)