国防と装備技術力

松崎 充宏

(防衛技術ジャーナル 2013年7月号「展望台」より転載)

 幸いにして戦争経験のない自衛隊が「温故知新」に心し、特に先の大戦で懸命に戦った旧軍の状況を具(つぶさ)に学び、過去の失敗を乗り越えて国防の任を果たすことを念願しています。
 昭和29年4月、防大(当時の保安大)に入校、教官から「海軍はレーダとVT信管で米軍に負けた。軍事にとっては技術力が最も重要で、防大は東工大をモデルに理工系大学として創設された」と伺いました。昭和30~40年代初めには、自衛隊は若年幹部に国内大学院への留学を勧めていました。毎年4月に50(陸30、海空各10)名が防大に派遣され9月の入試に臨んでいましたが、この制度は昭和45年、安保条約改定時の全学連運動を切っ掛けに廃止されました。これが継続していたら自衛隊は装備品の技術力に一層強い関心を抱く集団になっていたものと思われます。
「先の大戦時の海軍にはレーダの必要性に関し賛否両論あって、開発・装備方針に一貫性がないのに対し、米軍は「戦争は科学であり技術である」の徹底した軍事思想の下、勝てる兵器、作戦、および後方支援を整えて戦場に臨んでいた感がある」と元技術士官から伺いました。平時から装備品の技術力が優り、後方支援が充実した防衛力を保有することが国防の基本です。平時に技術力が勝る防衛力、それを支える産業・技術基盤があってこそ戦争の抑止力になるのです。申すまでも無く、外交努力によって平時の武力対峙や小競り合いを解決することが先決ですが、外交力を発揮するにも後ろ楯に強い軍事力があることが世界の常識のように思われます。
 わが国の装備品に係る調達は原則として研究開発、製造を含めて一般競争契約を適用しています。汎用の民需品ならともかく、抑止力および戦闘力に使用する自衛隊のみが調達する特殊で数少ない装備品が一般競争契約であることに疑問を感じています。これでは装備品の機能・性能の秘匿が困難です。海軍工廠の元将官がかつて海幕の技術幹部に話されました。「昔の海軍には工廠があり、部隊の状況、用兵の運用要求をよく理解して装備品の開発・改修を行っていた。戦後はそれを民間会社に注文するのならば、運用要求、仕様書等の内容について、常時官民が対応して相互によく話し合わないと部隊が満足する装備品は得られない」と諭されました。これを実行するには装備品ごとに注文先を特定し、官民が常時対話して知恵を出し合う体制にすることです。特定すれば会社は安心して人の確保・質の向上および設備の充実等の先行投資ができるのです。一般競争では、最上レベルの開発・改修はとても期待できません。一般競争による経費節減は必ずしも国益になりません。装備品の技術レベルが高く、運用して戦闘に勝てることが国家にとり重要であり国益になるのです。担当会社は特定された装備品に平素から責任をもつことで官民一体となって経費節減の方策を見出し、監督・検査、原価監査、汚職防止を厳格に行うことです。官民の信頼関係を構築することが望まれます。時折、国産品と輸入品の比較がなされます。端的に言えば特殊な装備品を除き国産にすべきです。国産品が頼りになり、隊員の士気は高揚します。経験から申せば、輸入品は概して自国より低い性能、次回は価格上昇、故障時の対応不備、改造時には苦慮等の辛酸を舐めました。最近話題の武器輸出三原則の緩和は外国との友好親善、技術力の向上、経費節減に資するものと期待しています。この際も高い技術力を備えて外国との交渉に臨みたいものです。
 本年2月、防衛装備工業会・防衛技術協会共催の「列国海軍に関する MAST Europe コンファレンス、並びにスウェーデン海軍および会社訪問」報告会が開催されました。報告は会社の若手技術者が専用技術を超えて見聞きした成果であり、彼らが将来の防衛技術を担うものと頼もしく感じました。報告からは、小さな国家でさえも国防には懸命に努力する様子が窺えます。この会の参加者を見るに、概ね会社側であり、自衛隊側も参加して見聞すれば業務に役立つ好機なのにと感じました。
 自衛隊装備品の研究開発は技術研究本部(以下、技本という)が所掌し、独自あるいは自衛隊の依頼を受けて行っています。旧軍の轍を踏まずに三自衛隊の研究開発を一括担当することは共通技術の重複にならず一歩前進ですが、要求元の自衛隊からみて技本が遠い存在にならないことを願っています。このためには自衛隊、技本間で相互に意見交換、装備品・開発品の状況見聞、さらには技術に加え運用幹部の技本派遣等が望まれます。技本は昨年11月に「防衛技術シンポジウム」を開催しました。過去に比し内容が一層充実して盛況であり、自衛隊関係者も見聞すれば実務に資する良い機会との印象を受けました。
 宇宙戦、サイバー戦等が加わる中、自衛隊は役割と存在感を高め、平時に隙を与えない抑止力、有事に勝てる戦闘力を備えなければなりません。今後ますますの技術力を必要とする自衛隊は正に装備技術を駆使する技術者集団といえます。最後に、重責を担って輝く現役諸官のご活躍とご幸運を心から祈願致します。

(了)