ビッグレスキューかながわ(神奈川県・平塚市合同防災訓練)予行を見学して

山村 洋行

 平成25年9月20日(金)神奈川県平塚市湘南海岸公園(ひらつかビーチパーク)で実施されたビッグレスキューかながわ(神奈川県・平塚市合同防災訓練)予行を見学することができた。
 本防災訓練は神奈川県が平成25年度に計画している7件の防災訓練の一つで、大規模災害発生時の初動対応における救急医療等を主体とした実践的訓練を通じ、自衛隊と神奈川県医療関係組織等との連携の強化を図るとともに、自主防災組織を中心とした地域防災力の強化と防災意識の高揚を図る、ことが目的とされ、訓練には神奈川県、平塚市、陸上自衛隊、海上自衛隊(輸送艦及び横須賀地方総監部)、神奈川県警等が参加するものである。
 筆者が本訓練を見学しようと思い立ったのは、ひさしぶりに海上自衛隊LCACの活躍が見られること、とりわけ日ごろはビーチバレーなどのスポーツ、レジャーで賑やかなひらつかビーチパークで、初めてLCACオペレーションが実施される、ということからである。
 筆者は輸送艦「おおすみ」初代艦長でありLCACオペレーションを海上自衛隊で初めて実施したのであるが、「おおすみ」就役時の平成10年当時はLCACからの発生音が :騒音:として捉えられ、自衛隊が管理する硫黄島海岸、陸上自衛隊との協同演習の際の北海道の海岸そして米軍と共同使用の沼津海岸を除けば、LCACクルーの技量維持・向上のための最も重要なLCAC上陸訓練を行う海岸すらなかったのである。
 また、「おおすみ」の母港である呉においても湾内のLCAC航行はできない有様で、LCACの慢性的な訓練不足が続いたのである。  
 近年は、特に東日本大震災における自衛隊の活躍もあり、各地における防災訓練には輸送艦・LCACの参加要望が増加しているようであり、防災訓練においてLCACオペレーションの訓練を兼ねて実施できるので、訓練不足は「おおすみ」就役当時に比べれば少しは改善されていると思われる。

 予行当日の様子をLCACオペレーションを中心に紹介することとしよう。
 今回の参加輸送艦は「しもきた」、「おおすみ」型輸送艦の2番艦であり、LCACは「2103」と「2104」の2艇である。
 天候は快晴、沖合から海岸に向けてのやや弱い南風、波なしの海上模様で、LCACの発進・収容、航走、上陸(ビーチング)すべてについて不安なく実施できる好条件である。「しもきた」は沖合約6㎞に停泊しており、LCACはここから発進、海岸に上陸することとなる。


(輸送艦「しもきた」)


 LCACが上陸する海岸は下写真のとおりで、海岸線の傾斜は約3度で問題ない、しかし、海岸の奥行は約50m程度、かつ、そこからの傾斜は急で、LCACは上陸したら直ちに艇を左に方向転換する必要がある。そして、方向転換の際、海岸線傾斜3度のため艇が横滑りすることとなり、LCACの操縦員(クラフトマスターという。飛行機のパイロットと同じ。)の腕の見せ所というか、高度の技量が必要とされる海岸である。
 波が高いと横滑りした時にLCACが波にたたかれ、重大な事故になることも予想される海岸の形状である。


(LCAC上陸海岸;赤旗と青旗の間にLCAC2艇が上陸する。)
 (海岸から50m奥は傾斜が急で、平坦な場所はない。上陸したらLCACはただちに方向転換しなくてはならない。)


 当日のLCACオペレーションは14:00~16:00の予定で行われた。以下はLCAC発進、航走、上陸の一連の写真である。


(LCAC 「しもきた」から発進)



(LCAC 海岸向け航走)



(LCAC 海岸向け航走2)



(LCAC 間もなく上陸)



(LCAC 上陸)



(LCAC 上陸2)



(LCAC 上陸・間もなく方向転換)



(LCAC 上陸完了)


 LCACは上陸するとLCACを浮揚させていたエアーを抜き(オフクッションという)車両等搭載のため、下写真のとおり前方のランプを卸す。


(LCAC ランプ降下、搭載準備)


 準備完了したところで、当日は自衛隊車両と警察車両の搭載訓練(車両の種類によっては、LCACへの搭載が不可能なものもあるので、LCACへの搭載検証も兼ねていたようだ)を行った。(下写真のとおり)
 海岸の砂地が柔らかいため、警察車両がスタック(車輪が砂にはまって動けなくなる)するなど難渋していたようであった。 鉄板等を用意し、この上を車両が通過できるようにするなどの対策が必要だろう。本番においてこのような対策がとられたかどうかは分からないが、海岸での防災訓練は過去にも経験している筈なので、訓練計画サイドの準備不足と脇の甘さを感じたのは筆者だけだったろうか。


(自衛隊車両の搭載)



(警察車両を搭載)


 ところで、「チャンネルNippon」との連携も深いRDTA(救助犬訓練士協会)も今次訓練に参加(救助犬2頭及びハンドラ―3名)した。 本予行では、航走するLCACに乗艇しての訓練はなかったが、21日の本番では「しもきた」からLCACに乗艇して海岸に上陸するようである。RDTAのメンバーは、事務局顧問兼救助犬ハンドラーの山田海自OBの尽力により、救助犬も含め輸送艦への乗艦、LCACへの乗艇・移動など海上自衛隊との協同訓練はルーティン化しており、東日本大震災においても海自ヘリに搭乗、海自救助犬チームと協同して被災地での生存者捜索活動に従事したところである。下の写真は予行に参加したハンドラーの美女と野獣、そして救助犬である。



 約2時間の防災訓練予行の見学であったが、:RESCUE FROM THE SEA: :OPERATION FROM THE SEA:を久しぶりに見ることができた。
 LCACオペレーションも天候に恵まれ、順調に推移した。さらに筆者の元部下のLCACクラフトマスターとも言葉を交わすことができた。
 ところで、予行には神奈川県、平塚市、自衛隊、警察など多種の機関が参加していたのであるが、LCACオペレーションの開始とか、車両搭載等の実施とかの案内・連絡など、どこもイニシアティブをとって行われていないような感を強くしたのは筆者だけだっただろうか。
 イベントが何となく始まり、何となく終わる、このような状況で災害本番に対応できるのだろうか。
 予行のみの見学であったが、予行でうまくいかないのに本番で、ましては実災害で各機関が円滑に共同できないのではないか、防災訓練が単なるイベント訓練に終わっていないか、その思いを強くして帰路についた。

(追記)
 後日、9月21日実施の防災訓練本番の様子を前述の山田OBに伺ったところ、警察車両のLCACへの搭載は実施されず警察参加者(機動隊員)は陸自車両に分乗し訓練に参加したとのこと。実災害対応で緊急を要する時に、このようなことで良いだろうか?訓練のための訓練になっていないか?との思いを抱いた。
 また、陸自車両が海岸の砂地にスタックし、人力で動かさざるを得ない状況が生起したとのこと。 本件は予行においても生起した事象であったのだが、本番にあわせ急遽鉄板等を準備する工夫はされなかったのか? さらには2008年、四国・伊予市の森海岸におけるLCAC参加の四国・中国ブロック緊急消防援助隊合同訓練における消防車両の砂地へのスタック事案の教訓等を艦側は神奈川県等に伝えていなかったのか?
 防災訓練、実災害から得られた教訓、ノウハウを、自衛隊・自治体等が共有しておくことが急務ではないだろうか。   (了)