衣の下の鎧ー習近平の真の狙いを探る

山内 敏秀

(本論は、雑誌「丸」に投稿したものを同誌の了解を得て、加除したものである。)

 最近の東シナ海、南シナ海において日本あるいはベトナム、フィリピンと中国との間で緊張が高まっている。
 また、中国戦闘機による自衛隊機あるいは米軍機に対する妨害行動も頻発している。これら一連の行動に対する中国の主張から中国の本音が垣間見えるように思われる。
 最近の中国の動きに共通する背景を探り、そこから中国が何を目指すのかを考えてみたい。

1 東シナ海、南シナ海の緊張を高める中国

 今、東シナ海、南シナ海をめぐって中国とわが国をはじめフィリピン、ベトナムとの緊張が高まっている。
 事象を追ってみたい。5月3日、中国交通運輸部は5月2日から8月15日の間、北緯15度29分58秒、東経111度12分6秒に石油掘削リグHD981を設置し、掘削作業を実施すると発表するとともに周囲1海里の立入を禁止した。さらに5日には立入禁止区域を5海里に拡大している。
 掘削リグの設置に当たっては人民解放軍海軍(以下、中国海軍という)の艦艇7隻を含む80隻の海警局等の公船が随伴しており、ベトナム側の公船との間に衝突が生起した。
 この掘削リグの設置位置はベトナムが既に設定している2カ所の鉱区の縁辺にあり、相当量の石油、天然ガスが発見された鉱区118,119の近くでもある。
 ベトナムは中国が設置した掘削リグは国連海洋法条約(以下、条約と言う)に基づくベトナムの大陸棚の上にあり、同法によりベトナムはその大陸棚に存在する鉱物資源、炭化水素資源に排他的権利を有すると主張している。
 これに対し、中国は「掘削リグは:完全に中国の西沙諸島海域の中にある:」と主張している。
 一方、東シナ海では5月24日、続いて6月11日、尖閣諸島周辺を飛行中の自衛隊機に対して中国軍のSu-27戦闘機が異常接近した。
 米国務省は、11日の異常接近を受けて国際空域での飛行の自由を妨げようとする行為はいかなるものでも地域の緊張を高め、想定外の衝突の危険性を高めるとして中国を非難した。
 一連の尖閣諸島周辺海域における異常接近事案の淵源は前年11月23日の中国国防部による東シナ海における防空識別圏(以下、ADIZという)設定発表と東シナ海防空識別圏航空機識別規則(以下、規則という)の公告である。
 この中国のADIZ は報道されたように日本のみならず韓国のADIZとも競合し、両国の他、米国、オーストラリア等がこれに異議申し立てを行ってきた。
 ADIZとは領空を侵犯する可能性のある針路にある飛行目標を余裕のある段階で何者であるかを確認するものである。今回の中国による東シナ海のADIZには日本の固有領土である尖閣諸島が含まれる。中国もまた、領有権を主張しており、競合するADIZ内の飛行目標に対し両国が戦闘機を対処のために発進させれば不測の事態が起こる危険性は極めて高いと懸念されてきた。今回の異常接近はその懸念が現実になってきたものである。
 さらに遡ってみると、2013年11月には南シナ海において米中の海軍艦艇が衝突寸前の事態が生起した。11月26日、中国初の空母「遼寧」はミサイル駆逐艦2隻、ミサイル・フリゲート2隻を伴って青島を出港し、各種の試験、訓練のために南シナ海を行動していた。米海軍の「タイコンデロガ」級イージス巡洋艦の「カウペンス」が公海上において「遼寧」の訓練状況を監視し続けていた。12月5日、中国海軍の1隻が「カウペンス」に無線連絡し、海域を離れるよう指示したが、「カウペンス」は公海上にあると応答し、変針を拒否した。すると、中国海軍の1艦が「カウペンス」の艦首500メートル未満の至近距離を突然横切り、「カウペンス」は衝突を避けるために緊急の回避行動を取らざるを得なかった。
 2009年3月8日には南シナ海の公海上を行動中の米海軍所属の音響測定艦「インペッカブル」に対し中国の艦船5隻が妨害を行ったが、うち2隻は「インペッカブル」艦首のわずか15m先で妨害行動を行った。さらに2001年には海南島沖の公海上を情報収集であった米海軍のEP-3電子戦偵察機と中国海軍の殲-8戦闘機が衝突し、戦闘機パイロットは行方不明、EP-3は機体を損傷して海南島に緊急着陸し、搭乗員は11日間拘束された。

2 事件の背後を探る

 南シナ海における石油掘削リグをめぐる中越の衝突、東シナ海でのADIZ設定と尖閣諸島周辺空域での中国戦闘機の異常接近事案、「カウペンス」、「インペッカブル」への異常接近あるいはEP-3と中国戦闘機の接触事故は一見脈絡のない個別の事案のように見えるが、その間に通底する原因があり、その原因を通して中国が目指すものが見えてくる。それはいかに中国が「微笑み外交」を展開し、友好親善のために艦艇を派遣しても、その衣の下から透けて見える鎧と言って良いものである。
 まず、それぞれの事象の原因をまず見ておきたい。
 中越の衝突は海洋資源をめぐる対立であり、その背後には西沙諸島に対する領有権の争いがある。
「カウペンス」あるいは「インペッカブル」の事件は情報を取りたいものと保全したいものの衝突である。未完の空母として中国に売却された旧「ヴァリヤーグ」は中国へ回航のため黒海を出た時から注目を集めており、今回の出港は就役後初めてミサイル駆逐艦、ミサイル・フリゲートを随伴させた部隊行動を行っており、中国のメディアは空母戦闘群と評するものもあった。当然、米国としてはその実情を把握するために艦艇を派遣し、情報収集に努めたのに対し、中国としては情報を収集されないよう「カウペンス」の排除に努めることになる。
「インペッカブル」の事案もまた、情報を取りたい側と取られたくない側の衝突ではあった。この頃、中国海軍の新しい「晋」級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦が海南島に配備され、海上試験が行われていた。対潜水艦戦に不可欠な「晋」級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の音響情報を収集するため「インペッカブル」は派遣されていたものと思われる。
 潜水艦から放射される音が海中の雑音よりも小さければ潜水艦は音響的に海洋の背景に紛れて探知されることはない。逆に潜水艦の雑音が海中の雑音よりも大きければ探知されることになる。「晋」級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の雑音はおそらく後者に属し、「インペッカブル」に探知され、情報を収集されるレベルであったと推測される。このため「インペッカブル」の周辺に漁船等を置いて周囲の雑音のレベルを上げ、「晋」級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の雑音を上回る周囲の雑音を作り出す必要があった。
 注目したいのは、中国がこれらの行動を採った理由として当然のことながら、情報収集を理由とはしていない。いずれも中国の排他的経済水域(以下、EEZという)における軍事行動を理由としてあげている。EP-3と殲-8戦闘機の衝突事故も中国のEEZ上空での事象であり、中国は米国がEEZ内で軍事的情報収集を実施したと非難している。一方、米国の側は、例えば「カウペンス」が中国艦艇から海域を離れるように言われたのに対し公海上にあることを理由に拒否したようにEEZにおける軍事行動に制約を受けないとの立場を取っている。
 世界の海は大きくは国家が領土と全く同じように主権を行使できる領水と公海と二分けられる。現在、世界の海に関わる基本的な国際的取り決めは国連海洋法条約(以下、条約という)であり、条約第87条では「公海上は、沿岸国であるか、内陸国であるかを問わず、全ての国に開放」されており、公海の自由として航行の自由、上空飛行が明記されている。
 しかし、この公海のうえに重複する形である分野について沿岸国の主権的権利を認める海域が規定されている。条約第55条では排他的経済水域は領海に接続する水域であって、沿岸国に天然資源の探査、開発、保存及び管理のための主権的権利並びに排他的経済水域における経済的な目的で行われる探査及び開発のためのその他の活動に関する主権的権利を認めている。ここで問題となるのがEEZ内で軍事的行動、特に監視活動が認められるかということであり、これに対して米中は正反対の立場を採っている。米国は条約に加盟してはいないが、条約内容を尊重しており、多くの国と同じようにEEZ内における監視活動に沿岸国の許可は必要ではないとしている。これに対し、中国は「インペッカブル」が行ったようなソナーの探査は軍事的にも科学的にも利用可能であり、沿岸国に主権的権利として認められた海洋の科学的調査に含まれるものと主張しており、EEZを領海と同じと考え、監視活動を行う外国軍隊は沿岸国の許可を必要と考え、実際に要求している。
 すなわち、米中の対立の根底にあるものは条約に対する理解の対立と言うことができる。
 中越の対立の一つの側面もまた、条約に関わる問題である。
 中国が設置した石油掘削リグはベトナムの沿岸から約120海里にあり、ベトナムのEEZと大陸棚の中にあるというのがベトナムの対中批判の骨子である。これに対し、リグは「完全に中国の西沙諸島海域の中にある」と中国が主張していることは既に述べた。この西沙諸島海域にあるという主張の背景には西沙諸島は中国の領域であるという主張がある。西沙諸島が中越いずれに帰属するのかは両国対立の別の側面ではある。国際司法裁判所の裁定に委ねれば全てが中国領とはならない可能性が高いが、ここではこれ以上踏み込まないことにする。中国の報道官は、リグは中国の領水内にあるとして、ベトナムとの協議は必要がないと主張する。しかし、リグから12海里の所には西沙諸島を中国領と仮定しても領海を有する中国の領土は存在しない。中国南海研究院の海洋法の専門家も指摘するようにリグはトリトン島(中国名:中建島)から17海里の距離にあるが、同島は人間の居住という条約第121条の島の要件を満たしておらず、したがって、同島はEEZを有していない。一方、先の専門家はリグが中国の接続水域内にあるから海洋資源に対する主権的権利があると主張する。接続水域は条約第33条で領海に接続し、幅員24海里を超えない範囲で設定される海域で領土あるいは領海において通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令違反の防止、あるいは違反の処罰を行うことができるとされている。したがって、接続水域内にある海洋資源に対する沿岸国の主権的権利について規定していない。
 ADIZの設定もまた、条約に関わる問題である。
 ADIZの設定は国家が領空侵犯に有効に対処するための方策であり、設定自体が非難されることではない。
 中国は、規則第3条でADIZを飛行する航空機は東シナ海のADIZを管理する機構またはその機構から権限を受けた機関の指令に従わなければならいとしており、さらに、ADIZを飛行する航空機が中国の規則に従わない場合、中国軍は防御的な緊急措置を執る(中文:位于東海防空識別区飛行的航空器、・・・対不配合識別或不服従指令的航空機、中国武装力量将採取防御政緊急処置措施。)としている。
 この規定は自らも加盟している条約の第87条第1項の公海における航行及び上空飛行の自由の規定を侵犯するものであり、他国の権利を侵害しているのである。
 さらに、中国は飛行計画提出を義務づけた。「東シナ海防空識別圏航空機識別規則(中文:東海防空識別区航空器識別規則)」第2条には東シナ海のADIZを飛行する航空機は飛行計画を中国外交部または民用航空局に通報しなければならない(二 飛行計画識別 位于東海防空識別区飛行的航空器、応当向中華人民共和国外交部或民用航空局通報飛行計画)」としている。民間航空機が飛行する場合、有視界飛行で遊覧飛行をするようなものを除き、計器飛行で指定された航空路を飛行するが、日本も中国もこれを批准している国際民間航空条約では飛行計画の提出が求めており、その提出先は通過するFIR(Flight Information Region)範囲を管轄する当局が指定する機関になっている。日本の空域は条約の定めにしたがい、福岡FIRが管轄している。今回の中国が設定したADIZ範囲は国際民間航空条約に基づく福岡FIR範囲と競合しており、飛行計画の提出の要求は同条約により日本に付与されている航空交通管制の権限を侵害するものである。
 これまで見てきたように中国は国際条約に加盟しながら、特異なと言っても良い解釈に基づいて国際社会と向き合ってきている。
 その第一段階は、1992年に「中華人民共和国領海及び接続水域法」を公布した時である。第6条に外国軍艦が中国領海に入るときは中国政府の許可が必要として、条約で認められた無害航行権を否定する国内法を制定している。条約批准の際には外国軍艦に対して領海通航の際必ず事前に許可を得る権利を妨げないことを言明していた。
 さらに、条約ではEEZ沿岸国の経済上の利益を侵害しないよう求められているが、中国が1998年に制定した「排他的経済水域及び大陸棚」では本来の経済上の利益に安全保障上の利益を加えており、EEZ内における軍事行動を規制している。

3 衣の下の鎧

 中国の条約に対する特異な理解と地域の緊張を高めるこれまでの海洋における行動一つの要因として海に対する中国の認識の変化がある。
 中国が海を見る原点として、毛沢東の「有海無防」が示すように、海があったにもかかわらずそれを守ることをしなかったために近代中国の屈辱の歴史があるという基本的歴史認識がある。この海を見る視点に変化をもたらしたのが1978年の11期3中全会で決定された改革・開放政策であり、海そのものが中国の発展のために開発・利用しなければならないものと理解されるようになった。そして、国家には伝統的な地理的国境の他に総合国力に応じて設定される戦略国境があると徐光裕は主張した。
 もち論、戦略国境は理念的なものではあるが、地理的国境と同じ重みを持って受け取られるようになり、その結果、2000年頃には中国が管轄権を主張する海洋について「藍色国土」という表現が使用されるようになってきた。すなわち、EEZも中国にとって領土と同じように主権を主張しうる国土との理解である。
 しかし、「藍色国土」だけでは最近の中国を理解できない。そのヒントをもう少し探ってみたい。
 本年4月、中国の青島で開かれた西太平洋海軍シンポジウムで「洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準(the Code for Unplanned Encounters at Sea :CUES))全会一致で採択された。洋上での不測の事態を回避するための方策として海上事故防止協定の規範が必要とされてきたが、中国が法的拘束力のある規範には反対してきたため合意に10年の歳月を要し、採択された基準は法的拘束力のないものとなった。
 また、南シナ海における領有権問題等解決のためにASEAN諸国と中国との間で行われた話し合いにおいても2002年、南シナ海における関係国の行動規範に関する宣言がASEAN諸国及び中国によって署名され、「南シナ海及び同上空における航行の自由の尊重と約束を再確認」し、「領土及び管轄に関する紛争を軍事的圧力や武力に拠らず平和的に解決」が約束された。そして、翌年に「平和と繁栄に向けた戦略的パートナーシップ宣言」が署名され、2004年には「平和と繁栄に向けた戦略的パートナーシップ宣言」に基づく行動計画が合意されたが、この計画で目指した行動規範の最終的な採択は中国の反対のために前進を見ていない。そもそも、中国は南シナ海における領有権問題解決は2国間問題であるとして、多国間枠組みでの話し合いを否定してきた。その思惑は、中国に比べ圧倒的に小さな国々であっても一つにもまとまればそれなりの力を発揮することになり、これを防止して、1国1国を個別に屈服させていこうとするものである。さらに、南シナ海の安定に強い関心を持つ米国が介入してくることを阻止するだけでなく、ASEAN諸国に対し、米国は頼りがいがないということを印象づけようとしている。
 そして、その先に見えるものはGDP世界第2位の経済力、近代化の進む軍事力、特に2000年以降、空母を含む新しい世代の艦艇を建造し、戦力化することで米海軍にも対抗できると思われるほどに増強された海軍力を背景に大国として国際ルールを作る側には立ち、これまでは総合国力が劣るために他国、特に米国が作ったルールを押しつけられてきたが、これからはそれに従わないとする姿勢である。
 ある国家が力をもって秩序を作ることは覇権を握ることに他ならない。中国は、2004年のインド洋大津波に対する対応で日本にすら後れを取ったことへの反省として時宜にかなった人道支援、災害救援は地域の覇権を確立するうえで必要であるとしている。しかし、覇権の確立は中国の目指すものとは少し違うように思われる。覇権を確立するのであれば基軸通貨などの国際公共財の提供も必要である。しかし、中国の元に対する姿勢からは国際公共財を提供しようとする方向性を見出すことは困難である。
 それでは、中国が目指すものは何か。
 それは、中国を頂点とする階層的な国際関係の構築である。南シナ海をめぐる行動規範の策定において中国が見せる規範は作るが、これに拘束されたくないとする姿勢、南シナ海の領有権紛争解決を多国間枠組みではなく2国間問題として他の関係国の連携を阻み、個別に中国の意に従わせようとする姿勢は階層構造を特徴とする帝国の構築である。
 そのための中心的役割を担うと考えられるのが近代化が促進される中国海軍である。
 英国のK・ブースは、海軍は軍事的機能、外交的機能及び警察的機能の三位一体の構成物であるとしたうえで、その外交的機能に着目した。中国は、平時に海洋を遊弋する空母戦闘群は国家の声望と威信とを象徴し、軍事外交、プレゼンス(顕示存在)、危機の抑止等の強力な影響力を発揮すると認識している。
 今後、中国海軍は新しい階層的国際関係構築のため、親善訪問と砲艦外交という「アメとムチ」の役割を演じていくことになろう。(了)

参考文献:

中国人民解放軍軍兵種歴史叢書―海軍史編委編『中国人民解放軍軍兵種歴史叢書 海軍史』解放軍出版社、1989年。
Cole, Bernard D., The Great Wall at Sea: China’s Navy Enters the the Twenty-First Century, Annapolice: Naval Institute Press, 2001.
徐光裕「追求合理的三維戦略辺境ー国防発展戦略思考之九」『解放軍報』1987年4月3日付
李敬坡「我海軍首批護航編隊凱旋 伝送胡主席批示」『解放軍報』2009年4月29日付
Carl Thayer, ‘USS Cowpens Incident Reveals Strategic Mistrust Between U.S. and China’, The Diplomat, December 17, 2013.
Carl Thayer, ‘China’s Oil Rig Gambit: South China Sea Game-Changer?’, The Diplomat, May 12, 2014.
Nong Hong,’ China vs Vietnam: A campaign for public relations’, Globaltimes, May 27 2014.