遠 航 随 想
平成4年度環太平洋・オセアニア方面遠洋練習航海
(全14回) ― 練習艦隊司令部首席幕僚随想録 ―
第2回 横須賀~ジャカルタ

元首席幕僚  佐藤 常寛

6月4日(木)
天気晴れ、海上平穏。
出港の翌日にて休養日課。遠洋航海出港前の忙しさ故か、艦隊全体がじっと英気を養っている感強し。今日から20日間の長期航海が始まる。
一路、南西に針路をとる。

     ○ 「 ただ眠り 英気養う 獅子の群れ 」

6月5日(金)
曇りのち晴れ、波静か。
奄美諸島の東方海域にて実艦的対潜水艦訓練。
第1潜水隊「ゆうしお」が協力する。かって指揮を執った艦だけに感無量。

     ○ 「 火の鳥の 蘇り見る 頼もしさ 」
      (注;「火の鳥」は「ゆうしお」の愛称)

6月6日(土)
晴れ、海上平穏。
南大東島に近接の航路をとる。沖合3海里から見る島は、家ひっそりとして人影なし。時折、海霧過ぎ去り島影を隠す。

     ○ 「 南海の 孤島は初心(うぶ)か 霧の陰 」

6月7日(日)
晴天、海静か。
夕刻、ヘリコプター甲板にて「かとり」神宮祭。
御神拝玉串奉奠、神輿奉納を厳かに行い航海の安全を祈願する。
音楽隊は洋楽器で雅楽を演奏、雰囲気を盛り上げる。
2名の海士扮する巫女の化粧に思わず笑いをこらえる(失礼!)
実習幹部2名が積極的に神官を務めていたのは好感がもてる。

     ○ 「 大福を 思い出させる 巫女の顔 」

6月9日(火)
快晴、波穏やか。
北緯20度を超え南下。夏至に近づく太陽は艦隊の直上を通過する。
海水温度30度、甲板はジリジリと暑く熱帯に達したことを肌に知る。

     ○ 「 熱帯に 甲板は焼け 海滾(たぎ)る 」

6月11日(木)
天気晴朗、海静穏。
補給艦(AO)「さがみ」と会合、燃料及び生量品を補給する。
「さがみ」と並走しつつ油送管から燃料を貰う各艦の姿は、母の乳房に吸い付く乳児の如し。


ハイラインにより「さがみ」から生糧品を受け取る「かとり」

遥か遠く北緯16度線まで南下し、補給に努めた「さがみ」が頼もしく、かつ、有り難く、心から感謝する。
この補給により20日間の無寄港行動が十分可能となった。
内地向けの報告文を数通託す。

     ○ 「 遠路来た AO「さがみ」が 母に見え 」
     ○ 「 帽を振り 去りゆくAOに 手を合わせ 」

6月13日(土)
曇りのち晴れ、海上平穏。
20日間の長期航海も、丁度中間点を迎え、洋上での整備日課とする。
各艦は推進器を止め、機器の点検整備に努める。

     ○ 「 行き足を 止めて微睡(まどろ)む 艦(ふね)静か 」

6月16日(火)
快晴、ベタ凪。
右にミンダナオ島を見る。
休養日課、艦上綱引き大会。
優勝は3分隊Aチームが実習幹部Bチームを破り獲得。
機関科(3分隊)は日頃からエンジン関係の重量物を持って鍛えているから優勝は当然、とは負けたチームのぼやき声。
時刻帯変更(24時を23時に戻す)。

     ○ 「 綱を引く 海の男の 汗清(すが)し 」

6月17日(水)
天気晴れ、波静か。
SULAWEST(セレベス)海を航行。
夜毎に「さそり座」が昇る高度を上げ、南十字星がその美しさを増す。

     ○ 「 満天に ひときわ光る 十字星 」

6月18日(木)
晴天、ベタ凪。
右にボルネオ島、左にセレベス島を見つつ、マカッサル海峡を通過。20時26分01秒、東経118度48分の海上で赤道を通過する。
赤道通過時間は事前にクイズとして賞品がかけられ、全員が投票していたために、通過直前は艦内が興奮状態。

     ○ 「 赤道を 超える時間に 艦(ふね)が沸き 」

6月19日(金)
快晴、海静か。
夕刻、赤道祭り。「かとり」艦長が赤道神から赤道通過門の鍵を無事授かり、全員で門を潜り抜け正式に南半球に入る。


赤道門前で田代「かとり」艦長と筆者

引き続き、奉納カラオケ大会。1分隊の海曹2名による「SAY YES」がハーモニーもよく優勝。
21時45分、インドネシア海軍の哨戒艇が歓迎のメッセージを送って来る。
ジャカルタが近いことを実感する。

     ○ 「 「ようこそ」の 心の声に 友邦(とも)を知る 」

6月20日(土)
天気晴朗、ベタ凪。
ジャワ海を航行。
18時15分、溺者発生とスラバヤ放送を傍受する。位置は艦隊の前程約51
海里(南緯6度3分、東経115度10分)。増速して現場に向かう。
21時20分現場着。現場に他船舶の姿なきも、3艦を1、000ヤードの横列にして、サーチライト等を活用し約2時間捜索する(月齢18.8)。
残念ながら何ら発見できず、以後、予定のごとく行動する。

     ○ 「 海面を 探る灯りに 祈り籠め 」

6月22日(月)
快晴、ベタ凪。
商船、漁船等行き合い船増える。時刻帯変更(24時を23時に戻す)。
明日はいよいよジャカルタ沖に仮泊するため、艦内が何となく落ち着かない。
約3週間の航海も幸い天候に恵まれ、機器の大きな故障もなく順調であったことに感謝する。
ただ、昨夜発生した急性肝炎の患者1名(「かとり」の海士)を急遽帰国させねばならぬのは、本人の無念さのみならず艦隊一同が残念に思うところなり。
ジャカルタに近づくにつれ、油田の掘削ステーションが海上に点在し、資源に恵まれた国に対するささやかなジェラシーが胸を過(よぎ)る。

     ○ 「 錨うつ 明日(あした)に夢は 移りおり 」

6月23日(火)
天気晴朗、海面油の如し。
0800、予定通りジャカルタ港外に投錨。
停泊船多く商港としての活気を感ず。

[ 第2回 了 ]