遠 航 随 想
平成4年度環太平洋・オセアニア方面遠洋練習航海
(全14回) ― 練習艦隊司令部首席幕僚随想録 ―
第3回 ジャカルタ~ポートモレスビー

元首席幕僚  佐藤 常寛

6月24日(水)
快晴。0832、Pire116に左舷横付け。在ジャカルタ山本総領事、インドネシア海軍テルクラタイ基地リファイ副司令官の出迎えを受ける。岸壁ではインドネシア舞踊の女性4名による歓迎の踊り。1300から艦上昼食会。昼食会に先立ち、在インドネシア臨時大使高須閣下(國廣大使帰国中のため公使が代理)に対して栄誉礼を実施する。昼食会に招待したインドネシア海軍の高官はほとんど代理をたてたため、インドネシア側の出席は准将以下となる。1900から艦上レセプション。インドネシアの慣習として第2種夏制服(詰襟長袖)でのレセプションは暑さとの闘いとなる。
岸壁から眺める限りにおいては船舶、車両の動きに活気を感じる。ただし、公用車、借り上げバスの運行、燃料、真水、生料品の搭載等で、単純な錯誤に起因する混乱が一部散見され、計画性に乏しいインドネシアの国民性の一端を垣間見る思いがする。他方、多民族、多言語、多レベルの国民を抱えて、統一を図ろうと努力するインドネシアの悩みの一端に触れたようで、多様性の国の難しさを痛感する。

     ○ 「 誠実と 怠惰が混じる 多様性 」


岸壁での歓迎インドネシア舞踊

6月25日(木)
晴れ。午前、礼状等身辺整理及びヤヤサン会(残留日本兵会)の艦内特別見学を接遇す。午後、各艦長とともに市内散策。目抜き通りは近代都市の様相を呈し、23年前(昭和44年)に実習幹部として訪問した時とは雲泥の差があり、インドネシアの経済的発展を実感する。街の交通事情は信号機少なく、人と車とが道路に混在しており、車と車、車と人とが何となく譲り合い、避け合いながら行動しているところが、この国の国是「多様性の中での統一」を具現化しているようで面白い。
1900から國廣大使(本日帰任し、空港から直行される)及びジャカルタ日本人会共催の歓迎レセプション(於;サヒット・ジャヤホテル)。現地の音楽バンドの演奏で、合唱あり、ダンスありで会場盛り上がる。國廣大使自身も歌って心配りされる。

     ○ 「 テリマカシ(ありがとう) 心がなごむ 歓迎会 」

6月26日(金)
快晴。午前、スポーツ交換(バレーボール、テニス)の応援。終了後、テルクラタイ基地司令官主催(先方の都合で、ホストは副司令官)のコーヒーモーニングに司令官代理で出席。代理がまかり通る土地柄である。コーヒーとクッキーで歓談。副司令官のリファイ大佐が何かと気配りする。
午後、家族等に便りを書く。夕刻、久保防衛駐在官夫妻、堀警備官夫妻の慰労を兼ねて司令官とともにインドネシア料理で晩餐。
公式行事に追われのんびりする間の無かったインドネシア訪問であったが、現地の料理を味わいつつ鑑賞するインドネシアの舞踊に、束の間の憩いを得る。

     ○ 「 しなやかに 舞う踊り子に 娘(こ)を想い 」

6月27日(土)
天気晴朗。出港前、日本大使館の高須公使来艦。
0916、ジャカルタ出港。インドネシア海軍関係者、久保防衛駐在官夫妻、堀警備官夫妻の見送りを受ける。

     ○ 「 頬濡らす 駐在夫人の 労を謝し 」

6月28日(日)
快晴、海上平穏。
ジャカルタの思い出に艦内が騒々しいものの、航海を順調に再開する。ただし、現地での水当たり(レストランでの冷却用氷が原因)のためか、腹痛患者が発生。皆大事に至らぬ模様に安心する。
夕刻、ジャワ海海戦の洋上慰霊祭を挙行。
時刻帯変更(23時を24時に進める)

     ○ 「 ジャワ海の 夕闇渡る 鎮魂歌 」

6月30日(火)
曇りのち晴れ、波静か。
ジャワ海に別れを告げ、フロレス海からバンダ海に入る。針路は赤道に平行、一路真東。気温、海水温度共に29度C。
本日で6月も終了。内地では季節外れの台風3号が、太平洋沿岸に接近の模様。短波放送等により情報入手に努め、上陸の恐れはないとの予報に皆安堵する。

     ○ 「 南海に 身はありながら 家案じ 」


東インドネシア(西イリアン方面)の漁法

7月1日(水)
天気晴朗、午前、海上平穏、午後、僅かに白波立つ。
アラフラ海に入る。
定期昇任日。司令部の海曹士3名に昇任を伝達する。
司令官は「しらゆき」視察のため、0730、ヘリコプターで移乗。夕刻、 「かとり」に帰艦。
時刻帯変更(23時を24時に進める)。

     ○ 「 視察機の 安全祈り 帽を振る 」

7月3日(金)
晴れ、海上平穏。
夕刻から夜半にかけて、トレス海峡を通峡。
海峡はサンゴ礁が散在する海域を縫うように走っており、通常の狭水道とは趣を異にする。一見、広々とした海面下にサンゴ礁が横たわっているため、パイロットの助言と、点在する島のLt又は浮標だけが頼りである。狭水域の平均水深は20m以浅であり、潮流は最大7~8Ktに達する。このため、転流時の通狭を企図する。
パイロットの情報によれば、パイロットはシドニー所在の協会に登録した有資格者が、それぞれ個人契約でトレス海峡のパイロット・ステーションで就業しており、その宿泊地は海峡の西端入口付近のサースディ島(木曜島)で、約5ヶ月間は同島に単身赴任、その後1ヶ月間の休暇を取り家族の元に帰る生活サイクルとのことである。
なお、トレス海峡の気候は、11月~翌年5月までサイクロンの季節で風雨の日が多い由。
夜明け前、パプア湾(サンゴ海に広がる)に入る。

     ○ 「 星影に リーフ(サンゴ礁)を縫って トレス抜け 」

7月5日(日)
天気晴れ、波静か。
夜明け前、ポートモレスビーを遠望する。
スタンレー山脈の彼方から紅に燃え広がる朝焼けを背に、重畳と海まで迫る山並みは、朝霞の中に静謐として横たわり、あたかも一幅の墨絵の如し。
0802、ポートモレスビー港外仮泊。

     ○ 「 スタンレーの 朝焼け峰に 兵偲ぶ 」
      ※ スタンレー越えは第2次大戦悲史

[ 第3回 了 ]