「ある会社顧問(防衛省元将官)の独り言」
 第2回 指揮官

堀口 紀博

 「隊長、自衛隊は良いですね!{右向け右}と言ったら全員が右向きますね。」と、ある社長から言われた事があります。「とんでもないですよ!儀式では号令に従いますが、死ぬか生きるかと言う時に号令だけで動くわけがありません。
 号令に従うように、指揮官の意志を実行できるように、部隊を指揮するには、時間と忍耐が必要ですよ、日本人で構成されている組織は貴方の会社と同じで、号令だけでは動きません」と答えました。指揮官が号令すれば部下が素直に従うような組織はありません。
 部下が指揮官の命令を聞くのは心の底から信頼している(心服統御)か、権限を嵩にきて威圧する(威圧統御)かです。心服統御は時間がかかり、指揮官が良く出来た人でないと無理です。最高の形は信仰的な結びつきになります。
 しかし、部下が失敗したとき「お前達のせいだ」と怒ったり、部下の方を見ずに上を見たり、「私」を重視して指揮をすると大事な場面では動きません。中々思いどおりには指揮は出来ません。普通は、心服と威圧を混ぜながら指揮をしています。自分は心服統御により部隊指揮をしていると、美しい誤解をしながら任務に励んでいるのが現実でしょう。
 指揮官の中には、決済をしない、出来ない人がいます。この場合はどうとか、あの場合は如何だと、評論家に成りたがります。決められない人が指揮官になると不幸です。職務には指揮官と幕僚があります。良いか悪いかの判断(案)は幕僚の仕事です。指揮官の責務は適時適切に決心をする事です。「決心」とは実行を命じることです。しかし、決心をすればそれで終わりではありません。実行が予定通り進んでいるのか、部隊(現場)に自分が直接行くか、幕僚を派遣して監督、監査を行わなければいけません。部下が指示、命令を誤解する場合、能力以上の仕事量の場合等があります。問題点は速やかに是正しなければいけません。予定通りに物事が進むことは、まず無いと思った方が良いでしょう。
 決心が間違った!と思う事があります。そのときは直ぐに「決心変更」、決心を変更して、新たに決心すればよいのです。間違いの無い判断や実行がいつも出来るとは限りません。神様ではありませんから。
 決心が遅れることは、幕僚の仕事が遅れることです。更に無駄作業をさせる事にもなります。任務達成が遅れます。部下が喜ぶのは決心の早い指揮官です。
 指揮官の色々を紹介しましたが、人間の社会ですから、多分どの組織でも似たものでしょう。指揮官は方針を明確に示し、適時適切に決心をし、部下には情と理でやさしく厳しく接する。やらせなければいけないことは絶対にやらせる、事ではないでしょうか。一番厳しく対応しなければいけないことは、自分自身に対してであるようです。私自身は最良の、最高の指揮官ではありませんでしたが、決心は極めて早かったと思っています。
(了)