「ある会社顧問(防衛省元将官)の独り言」
 第14回 指揮官の第六感について

堀口 紀博

 組織において、指揮官はもっとも重要な地位を占めます。部下は常に指揮官の行動、言動を見ています。指揮官が弱ってきたら部隊は弱ってきます、指揮官が溌剌としていれば、部隊も溌剌と元気に行動できます。部隊の精強性は指揮官の行動、言動に左右されると言えます。そんな組織も同様でしょう?
 衛生隊長の時、部下は約100 名でした。冬のある金曜日、戯れに入院をしたことがあります。少し風邪気味であり、単身赴任であり、食事をしに行くのもおっくうになり、知り合いの医官にお願いをして、自衛隊の病院に入院しました。月曜日の朝に部隊に行けば良いと考え、まさに戯れに入院をしたわけです。入院をすると、本当によく眠れるものです、三日間何も考えずに食事以外はぐっすりと眠れました。日頃の業務が過酷な訳ではありませんが、看護師が言っている「入院すると一週間は寝てばかり」が良く分かりました。ところが、退院をして部隊に帰ってから、部下がやたらに入院し出しました。やれ盲腸だ、雪で滑って骨折だ等、三か月ばかり入院患者が途切れることがありませんでした。これは重大事故の前触れかと不安になりましたが、訓練事故や自動車事故はありませんでした。自衛隊における事故は指揮官の交代時によく起こります。特に、単身赴任の指揮官が異動内示を受けた後は、要注意です。「面に表れ、背に溢れ」という言葉がありますが、背中から見ると、足元が踊っており、注意散漫になります。異動内示が出てからは特に、指揮官は自分が駐屯地を一歩出て、指揮転移が完了するまで責任を負っていることを意識しないといけません。
 部隊が不安全な状態になってくる予兆の一つは入院患者が出てくるか、増えてくるか、また指揮官の心の動揺を部下に察知されているか否かにあります。
 これらの事項には、はっきりとした因果関係は証明されません。偶然の出来事かもしれません。しかし、自然界、人間界の出来事で、偶然に起きることは本来ありません。現在の常識、知識からまだ分からないだけです。原因があって結果があります(因果の法則)。原因は分からないが、それを原因ではないかと感じられる、何らかの予兆があるものです。それを感じられるのが「指揮官の第六感」であります。指揮官に必要なものはこの様な感覚です。「なんかおかしい」「なんか臭う」を察知する、事前に起こる何らかを「予兆」として感じる感覚が必要です。経験により持てる事もありますが、これが無い指揮官は、悪い結果が出てから初めて感じ、そのときには全ての事が手遅れになっています。

(続く)