「ある会社顧問(防衛省元将官)の独り言」
 第23回 今何をなすべきか

堀口 紀博

 自衛隊では「今何をなすべきか」を指揮官等幹部に常に厳しく教えています。「」とは、過去と未来の交わる一瞬であります。過去とは過ぎ去り時であり、未来とは未だ来ない時であります。聖徳太子は10 名の訴えを瞬時に聞き分け答えを出したと言われていますが、そんなことは凡人には絶対にできないことです。今この時には一事のことしかできません。敵が目の前に来たとき、まさに「今」が大切であり遅疑逡巡している暇はありません。部下は指揮官の命令を待っています。昨年の東日本大震災では、地震と聞き、すぐに高台に逃げた人は助かり、そうでない人は不幸な目に会いました。その場の責任者が「逃げよ」の一言を言えなかったばかりに集団で不幸な目に会った例もありました。
 「何をとは」何でしょう。やらなければいけないことは沢山あります。その中で今一番重要なことが「何」です。これを決定するためには、優先順位をつけなければいけません。優先順位をつけるためには評価基準が必要です。沢山ある中でひとつを選ぶ事は日常生活では常に行っています。例えばある場所に行く手段として、車、電車、バス、飛行機、徒歩が考えられますが、評価基準には時間、金額、利用の容易性、エコロジーなどが考えられます。TPOにより評価基準の重用度は常に変化します。
 「なすべき」とは「考える」事ではなく、実行せよと言うことです。考えることは事前に十二分にやっておかなければいけないことで「今」そんなことをやっていてはいけません。東日本大震災において、自衛隊東北方面総監(現陸幕長)はまず「非常呼集」をかけたと新聞紙上で話しています。指揮官は「今」が来たとき、考えていてはいけないのです。行動をしなければいけません。しかし、行動するため、させるためには事前に各種計画を立てておかなければいけません。実行できる計画とは、事前訓練を十分行い、命令が実行できる体制を伴っていなければいけません。さもないと、単なる机上の計画であり、「今」には役立ちません。非常呼集計画は勤務時間内、外、特別休暇時等により変わってきます。呼集の基本は電話連絡です。女性隊員の場合非通知電話(部隊の電話は非通知)は無視され連絡が途絶えました。通じない時の処置を示してない、隊員家族に非常呼集連絡網を教えていない場合も連絡が途絶します。携帯電話は地震等で不通になってしまいます。非常呼集程度の事でも、実際やって見ると、指揮官の意思通りに動かすのは大変です。
 「実効性ある計画」とは、事前訓練をしっかり実行し、不都合な部分は是正してあるものです。優秀な人の計画は実行段階では問題点が多々見つけられます。優秀な机上計画は学校教育の場でのみ優秀である場合が多いようです。「今何をなすべきか」の1点でも沢山のことを考え実践しておかないと、実戦には役に立たないものです。

(続く)