「ある会社顧問(防衛省元将官)の独り言」
 第28回 教育と訓練について

堀口 紀博

 新年度を迎えて新入社員教育が始まります。自衛隊では教育訓練が主軸とされ、基本教育と練成訓練に区分されます。基本教育は学校等で行われ、練成訓練は一般部隊で行われます。基本教育は階級(幹部、陸曹、陸士)毎に其の地位に応じて行われます。陸士の教育は新隊員前期教育3ヶ月、ここでは自衛官としての最低限の躾事項、体力練成等を行います。職種決定後は後期教育3ヶ月(16職種の基礎教育)があります。前期教育終了後の変化の一つは、今までは挨拶も出来なかった子が帰宅時「ただいま」と挨拶ができることだそうです。これは教官、助教(10名に1名)が24時間体制で熱意を持って教育、指導しているからです。親は驚き、自衛隊の教育はなんと素晴らしいと感激します。
 日本の義務教育、高校教育は無駄なことをしていると思えます。挨拶、掃除、身を清潔にすることなど、いわば当たり前のことを教えていません。知育教育一辺倒、教師が労働者だと言い出したことの弊害です。
 幹部候補生(一般大学及び防衛大学卒)のために幹部候補生学校(久留米市)があります。一般大卒の者は新隊員同様に自衛隊を全然知らないので、自衛隊向きに教育をするわけです。自由気ままに学生生活を送った人たちを団体生活(同じ釜の飯を食わせる)に慣らし、体力をつけさせ、自衛隊の規則、法律を学ばせ、基本的な戦術を教える等幹部としての素養を身につけさせます。この教育課程は約1年あります。教育はまず外見から中身に入ります。各種制服を与え、全員同じ格好をさせます。教育とは「鋳型」に嵌めるもの、強制力を持って行うものです。更に教育で必要なことは余分な時間を与えないことです。常にやらなけらばいけないことを次から次へと与え続けます。ゆとり教育など百害あって一利なしです。これが高じると洗脳教育になりますが。個性を重視した教育などと耳に聞きよい言葉がありますが、歌舞伎の名優の話では、百回演じて百回同じように演じることが出来るようになってから、ほんの少し自分が考える動作を加えるのが個性である。一回ごとに違う動きしかでき無い者が「個性です」などとは笑止千万である。候補生は1年後幹部になり、各職種(戦闘職種から後方職種まで16職種)に区別されます。各職種学校では更に半年以上の教育期間(幹部初級課程)があり、5年後には幹部中級課程(半年以上)教育があります。
 ここまでが幹部自衛官の義務教育です。更に試験選抜による幹部上級課程(1年から2年)があり、1佐以上に昇進のための選考選抜の幹部高級課程(1年)があります。その外、国内外留学、外国軍への教育派遣等沢山あります。教育は金が掛かり、其の成果が判然としないものも多く、投資ではなく、投機であるとの言い方もあります。失敗例の多いものです。「めだかは育ててもめだかにしかならず、鯨にはならない」という教育の限界もあります。
 民間企業等ではこの様な長期間の教育は必要としません。短期間で、濃密で、効率的、効果的な教育が準備されます。更なる教育は自学研鑽しかありません。自分で金を稼ぎ、自分に投資することを求められます。今日の日に来た新人は、明日には即戦力として期待されます。新人諸君の継続性ある頑張りを期待します。

(続く)