「ある会社顧問(防衛省元将官)の独り言」
 第36回 高級幹部の教育法

堀口 紀博

 幹部教育(人材開発・育成)は、組織に必要とするスペシャルリスト(専門職)とジェネラリスト(総合職)に区分(第1区分)して行われます。民間では能力適正区分(第2区分)は営業・販売、研究・開発、企画・総務、人事、法務等に区分されるでしょう。
 陸上自衛隊では幹部の適正を「指揮官」「幕僚」「教官」「研究員」に区分します。高級幹部はこれらの4区分を全て経験させ、ジェネラリストになります。時間がかかります、例えば、連隊長を作るのに20年以上かかるといわれます。
 幕僚には専門幕僚、一般幕僚の区分があります。
 専門幕僚は衛生、補給、武器、輸送、施設、通信等があり、一般幕僚は作戦、情報、人事、教育・訓練、監理等に区分されます。
 旧軍の陸軍大学に相当する幹部学校では、一般幕僚及び指揮官(中隊長クラス)養成として2年間の「指揮幕僚課程」、技術系専門幕僚養成は修士、博士を受験資格とした、1年間の「技術高級課程」があります。要員(30代前半)は選抜試験(ペーパテスト、 面接、体力検定)で選ばれます。更に、連隊長以上の高級幹部を養成するため約1年間の高級幹部課程があります。選考選抜(勤務成績、進展性、各職種考慮等)により要員(40 歳前後)は選ばれます。
 高級幹部養成の教育法は「問いを考えさせる」「学生間で切磋琢磨する」に代表されます。「正解」は必ずあるものでもありません、「正解の無い問い」の方が実生活では多いのではないでしょうか?
 教育の第一は、大学教授、作家、官僚、実業家等による一般教養です。
 第二はグループ(班)による課題作業です。この目的は班長としての統制・統率力、班員としての全体作業に対する寄与度、協力態勢の実行度等を判定します。
 課題終了後全学生の前で発表し、他の班による厳しい質問、判定を受けます。優秀作は教官、部長、時には校長の前で御前講義を行います。発表の成否は発表班のみならず、課程全般の評価になります。更に担当教官の評価に影響を与えます。
 教育に必要な事は、評価基準(組織の要求)と達成基準(最低到達度)を定めておくことです。また、組織的教育を継続的に行うためには、「教官育成教育」が重要です。素晴らしい教官は素晴らしい学生を育成できます。
 第三は個人作業です。演題は自分で決めます。「問いを作る」作業です。限られた時間内で発表にまで持ち込むためには、「自分の中で答えのあるもの」「時間内で出来るもの」「他の人を納得させられるもの」を選ばないといけません。あまりに膨大な演題を選べば時間切れで、失格です。学生は全員から厳しく質問されます。質問が無い学生は「問題意識」が無い、「全体を見通せる力量」が無いと判定されます。
 個人発表においても優秀(教官、学生の判定による)作は御前講義をします。「恩賜の軍刀」は頂けませんが、名誉なことであります。
 第四の最終段階は、想定(シナリオ)対応の問題解決です。それだけでは何も判断できないような(例;敵が来襲している、貴官のなすべき事項は?売上が下がってきた、貴方の対策は?)問題を与えます。問題を判断できる形にするために、足りない部分(例;どこから?いつ頃?どの程度の敵か?また、どの地域が下がっている?過去の実績は?等)を教官に問いたださなければいけません。時間は限られています。時間管理を出来ないものは失格です。
 教官は第二、第三と適時に状況を付与します。問題を解きながら、更に問題が深くなってきます。夜も眠らせず、徹底的に、心理的にも追い詰めます。戦場では緊要な時期には眠れません。ほとんどの事象は不明です。各種の兆候から自分で判断しなければいけません。この判断が勝利(部下の命)を分けます。
 高級幹部教育はジェネラリストにする為の教育です。その後、指揮官になり、生きた状況下で更に実践練磨していくことになります。
 平時に有事を考えて教育していますが、本当に有事に役立つか否かは分かりません。幸いにも、有事での実戦教育はありませんが、海外派遣(PKO等)された隊員、部隊長は平時の自衛隊教育が役立ったと証言しています。

(続く)