「ある会社顧問(防衛省元将官)の独り言」
 第41回 敬礼、欠礼、答礼そして無礼

堀口 紀博

 どの国の軍隊であれ、上級者に対しては敬礼をする規則になっています。自衛隊では「礼式に関する訓令」により決めています。規則とは「マナー」以上のものです。
 規則にすると極めて厳密になります。敬礼には「各個の敬礼」と「隊の敬礼」があり、「各個の敬礼」は、姿勢を正す敬礼(気を付けの姿勢)、挙手の敬礼(着帽時)、10 度の敬礼、45 度の敬礼があり、「隊の敬礼」は姿勢を正す敬礼、着剣捧げ銃の敬礼、捧げ銃の敬礼、挙手の敬礼、45 度の敬礼、頭右(左、中)の敬礼、指揮者のみの敬礼と沢山あり、覚えるのも大変です。憲法の第一条が「天皇」であるように、「天皇に対する敬礼」が最初に示されています。皇太子殿下同妃殿下が冬の国体視察時、真駒内駐屯地の外周沿いを通過されるので、当時最先任連隊長の私は1000 人以上の隊員の「と列部隊指揮官」として「頭右(かしら・なか)」の号令をかけた経験があります。車中の妃殿下はとても気品ある方でした。
 敬礼とは敬する心を表すもので、敬うことを明確に表すための動作です。敬うことを強制的にさせることは、死地において、上官の命令に進んで従うことを日ごろから訓練しているものと考えられます。
 さて、敬礼を受ける側の上司は答礼をしなければいけません。敬する態度には、礼で答えなければいけません。それが「答礼」です。駐屯地内では「黒塗り」と称する連隊長以上の指揮官車が見えた場合、どんな遠くからでも隊員は敬礼をしなければいけません。車中の指揮官は駐屯地に入ったならば何処からの敬礼であれ、答礼をしなければいけないので、四方八方に目配りをしています。答礼をしない上司はとても「無礼」であり、部下から信頼されなくなります。
 さて、上級者に敬礼をしないことを「欠礼」と言います。これは重大な規律違反であります。欠礼をする隊員がいる部隊はその精強度を疑われ、指揮官の部隊指揮能力の欠如と判断され、上級指揮官から厳しく指導を受けることになります。
 指揮官の地位が上がるに従い、自由度は極端に狭まります。極端に言えば、「トイレに行く」と断らないとトイレにもいけないのが指揮官です。学校長時代、校長副官及び庶務室は常に私の行動を把握するのが任務の一つでした。
 学校長として各部を事前の連絡無く訪問する場合があります。これは本来してはいけない「不意打ち・チャレンジ査察」です。
 このような場合、校長が部屋に入れば、校長を認めた者は、階級に関わらず、「校長入場 気をつけ」の号令を発します。他の者は各自、その時の状況のまま、姿勢正す敬礼を行います。
 このように、不意打ちであれ、指揮官に対する対応は、きめ細かく定めてあります。そうでないと、部下も困るし、指揮官も無視されてはいささか気分を害してしまいます。
 指揮官の行動を事前に連絡しなかった副官等はその後厳しく各部長等から指導を受けることにもなります。
 会社では、マナーを教えますが、会社内の動作については「常識の範囲」であると考え、決めていないのかもしれません。しかし、 常識の範囲は近頃とても幅広くなっており、マナーとして、各種の行動を示しておくことは全員の幸せにつながるかもしれません。
 社長が部屋に不意に入ってきた場合、各部において行動が斉一でないならば、行動をルール化する必要があるかも知れません。
 自衛官のように階級章が襟元や肩に明確に示されていない社会ではとりあえず、「頭を下げておく」ことが無難でしょう。そう言えば、子供の頃道で誰に出会おうとも、例え電信柱にでも頭を下げておけと親には指導されました。

(続く)