「ある会社顧問(防衛省元将官)の独り言」
 第47回 何とかせい

堀口 紀博

 指揮官・管理者になった時、部下に任せることが出来る仕事の範囲を常にチェックする必要があります。私が部隊長として赴任後直ぐに、ある業務上の問題が出てきました。部隊のこともまだ良く分かっていない新品指揮官でした。
 年長の副隊長は私を気遣って「隊長任せてください、私が処理しますから」との進言、いささか心配もありましたが、任せてみました。
 結果は私が想定したものとは大いに異なり、私の評価基準から言えば3-4割の出来でした。「出来ると」言われている副隊長の「任せてくださいのレベル」がこの程度ならば、副隊長以下の部下の任せてくださいは「任せられないレベル」であることを学びました。
 当然事後は任せる範囲を吟味し、各行動の指針を与えると共に、途中経過を常に報告させ業務を遂行しました。
 部下は往々にして「だろう」「よかろう」の仕事をします。「多分」出来るだろう、あいつならやれるだろう、この程度で隊長も納得するだろうと言う「だろう」です。また、こんなもんでよかろう、前と一緒だから概ね良かろうの「よかろう」もあります。
 任せてくださいの結果ですら隊長としては不十分過ぎるのに、部下の「だろう」「良かろう」の結果は事後大いに無駄作業をさせられることになります。
 これとは逆に上司から部下への仕事の命令・指示をする場合、特に切羽詰った時、部下に対して「なんとかせい」とか「何とかならんか」の不適切なものがあります。自分がなんともならない問題を部下に丸投げするわけです。
 しかし、この時優秀な部下は「何とかしてしまいます」、何とか出来ない部下は「出来ない」部下でもあります。
 何とかしてしまった事は、合規、合法でないとか、倫理・道徳規範違反の虞が大いにあります。何とかなったことに安心して、阿吽の呼吸よろしく、これらの違反を無視することはその後に大いなる禍根を残します。
 東芝の粉飾事案、マンションの杭打ち不正事案、血液製剤の違法製造等は何故起こったのでしょうか?日本人の凄く優秀な人たちの組織でも日本人の勤勉、真面目、正直などの性質が大いに壊されているからかもしれません。
 上記事案の本質は組織内の「何とかせよ、だろう、よかろう体質」の蔓延とも考えられます。多少の不正には目を塞ぎ、これまでもバレていないから、先輩も同じようにしてきたから、少しの事で・誤差範囲だから、誰も損する人はいないから、社内だけの事柄だから、必達目標はどうしても死守・達成しなければいけないからと、自分を・組織を騙していく理由が後からダンプカーに載せるくらい次々と出てきます。
 たった一人の「王様は裸です」と言う正義がどんな優秀な人からも出てこないことが人間の弱さを表しているのかもしれません。
 「上からは何とかせい」下からは「任せてください」では、どちらも無責任であり、指導者・管理者の姿が見えません。信じられないことが起こる、起こす、組織の特徴です。
 与えられた責任と権限の基「任せる・丸投げする」のではなく、きめ細かく部下を指導し、常に目的・目標を明確に示し、行動方針を確立し、実行段階においても、報告を求め続ける執念が必要です。
 何とかせいと言わずに、部下と共に今が良いだけでなく、明日にも正義であるような施策を編み出しましょう。

(続く)