みね姉の見た「防人たちの素顔」 その29:数字と戦う戦士たち

峯 まゆみ

 「字を背負う」という言葉があります。これは、主に営業職において、必達のノルマを抱えていることを指すのですが、この言葉は、およそ、公務員には無縁のものです。しかし、自衛隊には、数字を背負って戦っている人達がいるのをご存知でしょうか。それは、地方協力本部に在籍する自衛官です。
 彼らは、未来の自衛官となるべき人材を集める「募集活動」を行っているのですが、なかなか厳しい数字を背負っており、「数字と戦っている」と言っても過言ではないでしょう。特に、昨今、少子化である上に、集団的自衛権の行使や安保法制について、メディアが意図的に歪曲して報道することから、国民に誤解されていることが多く、募集活動においては逆風が吹いているので、日々厳しい戦いを強いられていることは間違いありません。ましてや、これまで営業経験皆無の自衛官が、こういった営業活動を行うことがどれだけ大変なことか、営業畑で生きてきた私には、非常によく理解できます。
 そういう彼らが、どんな想いで、どのような活動をしているのか、なかなか見えない世界なので、少しでも知っていただけたら、と今回はこのテーマで書くことにしました。そこで、ある元広報官に「活動において、一番大変だった事」について質問すると、「地域を知ること」との事でした。「広報官には自分が受け持つ割当て地域があり、知らない土地だとその地域の道を覚えるだけでも大変なのですが、加えてその土地の風土・歴史などを踏まえた上で、地域の方々とコミュニケーションを取って日々活動します。この様な複数の事象をいち早くキャッチして身に付けなければならないことに、一番苦労しました。」ということなので、これが苦手だと広報官としては苦痛の日々になってしまうのだそうです。
 ですが、地域を知ることで「第2の故郷ができる」という喜ばしい側面があるようです。地域を回り広報しているとその土地に愛着が生まれると共に地域との人間的な絆も深まり、一般部隊では先ずできない経験ができるということです。「一緒に地域の方と汗を流して防衛思想の普及活動をし、その後は盃を交わしながら、熱い防衛談義を沢山しました。力を貸してくださった方が亡くなり、涙した日もありました。」ということですので、一般部隊よりも、民間人との関わりは非常に密度が濃いものと言えます。
 この方のリクルートスタイルのポリシーは、「試験に落ちた人が自衛隊受験を通して良かったと思える広報」だったのだそうです。「落ちた受験生へのフォローは受かった人より何倍も大変で、また自分自身にとっても本当に辛いことでした。そんな中で、担当させてもらった受験生達から『自衛隊を受験することで、あなたを通して自衛隊を知ることができて本当に良かったです』と言ってもらえて、逆に励まされ勇気を貰う事もありました。この様な繋がりで、私を迎え入れてくれた地域と、そんな素晴らしい機会を与えてくれた組織に本当に感謝しております」
 この話を知って、単に、数字を追うだけでなく、彼ら広報官は自衛隊の窓口・顔として、新たな自衛官を増やすだけでなく、自衛隊の支援者・理解者も増やしているのだと感じました。関係者の中には「最近は、自衛隊が国防に従事していることをよく理解しないで入ってくる者が多い」と危惧する人もいます。しかし、様々な自衛官と接して感じたのは、彼らは最初から「自衛官」だったのではなく、自衛官に「なっていく」のだということです。おそらく、皆そうだったのではないかと思います。なまじ、最初から国防意識が高い人や、自衛隊に憧れを持っている人は、去っていく確率が高いとも聞きます。それには、様々な理由があるとは思いますが、自衛官としての矜持は、現場で培われていくのが自然なのではないでしょうか。
 募集活動には、逆風が吹いている中、数と質の両方を負うのは極めて厳しく、数だけ追うのも困難なのが現状だと考えます。そんな中でも、必死に、未来の自衛官を集めている人たちがいることを忘れないでほしいと思う次第です。