みね姉の見た「防人たちの素顔」 その12:「艦長」という存在(1)

峯 まゆみ

 が海上自衛隊との関わりが増え、艦隊勤務のことが色々と分かるようになってくると、その艦の全責任を負う「艦長」について、興味が高まってきました。同時に、海上自衛隊関係者のたくさんの友人・知人が増えたことで、組織マネジメントにおいて、「艦長」に求められる能力や資質などについて、現在部下の立場の方や現艦長職の方、元艦長職であった方など、多方面から様々なお話を聞くことができるという、ありがたい機会に恵まれました。
 私は、もともとコンサルティングの仕事をしていた経験があり、様々な業界の経営者や役員と接する機会が多く、組織におけるリーダーシップのあり方やマネジメントに関しての知識は多少なりあると思っているのですが、これを自衛隊と比較・観察することはとても面白く、私なりに気づいた事がたくさんありました。中でも「艦長」という職務、これは極めて特殊であると感じています。
 特殊であると感じた所以は、通常業務における決裁者という意味において、会社の経営者と似ていますが、「艦長」が背負っているものは、どんな大企業の代表取締役よりも大きく、細微に至るからです。なんと言っても、「艦長」は艦そのものの全責任を負っているのはもちろん、乗組員全ての生活と命そのものを預かっており、かつ、その航海が海外に及ぶ場合は国家をも背負っているのですから、「艦長」にかかる責任の幅広さは他に類を見ない種類と重さではないかと感じました。一隻の艦で仕事と生活を共にしていて、「艦長」は「お父さん」でもあり「代表取締役」でもあり「国家を背負う外交官」でもあり「命を預ける存在」なのですから。
 特にその「艦を預かる」「乗員の命を預かる」という点で、航海中、「艦長」はほとんど睡眠を取ることがないと聞き及びます。一度艦長室を拝見した事がある方はご存じだと思いますが、艦長室のベッド横には送受話器等様々な通信器具があります。これは、部下からの報告、そしてこれに対する命令・指示を明確にかつ遅滞なく伝えるためのもので、艦が「艦長」の決定なく何人なりとも勝手に動かす事は出来ない、「艦長」が艦の唯一無二の意思決定権者である、ということを示しています。したがって、ベッドで横になっていても熟睡できる時間はほとんどないということになります。この事から、「艦長」には相当の気力と体力が必要である事が分かります。
 この2年間で様々な「艦長」や艦長経験者とお会いして感じたことなのですが、皆さま、とても個性豊かで、一人として同じタイプの方はいらっしゃらないようにお見受けいたします。ですが、明らかな共通点として、私がこれまでにお会いして来た様々な会社経営者よりも、ずっと人間的魅力に溢れていて、厳しさと暖かさを併せ持っている方たちであるという点が挙げられます。要は「この人の下で働いてみたい!」と思わせる方が少なくないのです。複数の役割が求められるのですから、単に仕事ができればいいというわけでも、一般的なリーダーシップ性があればいいというものでもないのですから、当然と言えば当然なのかもしれません。
 そしてそれからよく思うようになったのが、「艦長」という職務にあった方の多くは企業において、経営者やリーダー育成など向いているのではないかということです。民間企業のマネジメントスキルやノウハウだけでは欠けている部分を、艦長経験者は経験値として持っているからです。
 そう思っていると、ちょうど先日、退官後は企業で「リーダーシップ」についての講演をされている元艦長さんからお話を伺う機会を頂きました。その内容が私自身の好奇心が満たされただけではなく、とても素晴らしかったので次回以降でお届けいたします。