みね姉の見た「防人たちの素顔」 その13:「艦長」という存在(2)

峯 まゆみ

 ある元艦長さんから、いろいろと貴重なお話を伺う機会がありました。その方は、多くの艦の艦長を経験されており、十数年前に海上自衛隊を定年退官されています。艦長の職務・職責というものを肌で知り尽くしていらっしゃることから、現在は本業のかたわら企業等の依頼を受け、リーダーシップに関する講演をされている方でもあります。前号で書いたように、常々、艦長が企業のリーダーシップ育成に非常に向いているのではないかと思っていましたので、そこに関連したお仕事をされている方からお話を聞くことができたのは、とても幸運でした。。
 まず、「リーダーシップの観点から」艦隊勤務の特色についてお話してくださいました。幹部は3尉に任官すると、「通信士」「砲術士」「機関士」等幹部としては最下級の職務につきますが、初心者であっても直ちに20~30人の部下を持つことになるのだそうです。
 さらに部下は自分よりも遙かに実務経験を積んでいる海曹たちとのことで、その大変さは容易に想像がつきます。
 そうして実務経験を積んで1尉~3佐になると、「船務長」「砲雷長」「機関長」など科長と呼ばれる配置につき、多ければ50~60人くらいの部下を持って、それぞれエキスパートとしての道を本格的に進んでいき、戦闘や任務達成に必要なリーダーとしての力を養成していくのだそうです。
 以上に加えて、部下の身上把握など内務面の監督責任も負うので、3尉で任官して以来、20代半ばからすでに大きな責任を持って部下を統率しているのです。その「部下統率」は幹部自衛官にとって、「軍人としてのライフワークであり終わりはない。なぜなら、戦場において、指揮官に部下が命を委ねることとなるので、当然のこと」と、その方は仰いました。そういった職責に対する覚悟を養い、3尉任官から約15年ほどの下積み次第を経て、艦長として、艦の頂点に立つのだそうです。
 艦の頂点に立つ艦長の使命は、「あらゆる任務を完遂できる、真に役に立つ強い艦をつくり、もって国家防衛に寄与すること」とのことで、言うまでもなく、極めて重いものです。その方は「艦長は多くの権限を持っているが、権限の行使以前に責任の遂行が必須」であり、これがまさに海上自衛隊のリーダーシップの原点である。そして、艦長には「艦という装備品・国家財産を守るとともに、部下の命を守るという覚悟」が要求されるということを強調しておられました。
 この部分から、前回も書いたように、「リーダー」という点や「決裁者」という点においては、企業経営者と似ている部分があるものの、国家財産はもとより、特に部下の命を一手に預かっている点において似て非なるものであり、その差は歴然としています。背負っている責任の重さはあまりにも大きく違うと言えます。
 先日、ある艦の副長さんから聞いたのですが、「うちの艦長がいつも『戦闘になっても絶対に負けない、そして、必ず一人の欠員もなく全員で帰還する』ということを言っています」という言葉です。やはり、艦長の任にある方は、それぞれ語る言葉は違っても、同じ思いでいらっしゃるということを感じました。
 海上自衛隊の服務規則に「艦長は一艦の首脳である。艦長は、法令等の定めるところにより、上級指揮官の命に従い、副長以下全乗員を指揮統率し、艦務全般を統括し、忠実にその職務を全うしなければならない」という事が書いてあるということを教えて頂きました。ここにおいても、「一艦の責任はすべて艦長にあり」ということが明記されているのです。その短い文章に込められた責任の重さを感じずにはいられません。
 それほどの職責を担っている艦長が、部下(若手幹部)をどのように育てていくのか、ますます興味深く感じます。その内容についても詳しくお聞きしましたので、また次号で書かせて頂きます。