みね姉の見た「防人たちの素顔」 その17:自衛隊を支えるスペシャリストたち

峯 まゆみ

 れまで、幹部(士官)、特に防大や一般大卒の幹部たちを取り上げて来ましたが、当然のことながら、彼らを支えているさらに多くの「曹」(下士官)たちの存在を抜きにしては、自衛隊は語れません。自衛隊に「階級」が存在していることを知らない人はいないと思いますが、イメージだけで「階級」を単なる上下関係だと思い込んでいる方が少なくないということに、違和感を覚えます。何故なら、「階級」は単なる上下関係ではなく「役割の違い」と言えるものではないか、と私は考えているからです。
 その違いを簡潔に表現するなら、幹部はゼネラリスト、曹はベテラン・スペシャリストと言えるのではないでしょうか。幹部の場合は、指揮官になるという特質上、全体のことをある程度知っておく必要性から、若手のうちは様々な業務を経験して広い視野を養うけれども、曹の場合は任務を正確に完遂するために、一つの技能について可能な限り精度を高めていく必要があるのだと推察します。
 自衛隊の仕事は専門的な職種に分かれていますが、その専門職種を究めているベテラン・スペシャリストが、曹の方たちなのです。対して、幹部は様々な職種を経験した後に、凡その専門分野に就くようで、異動の度に転職していると言っても良いくらいに、仕事内容が変わる方をよく見かけます。なので、そういうことから幹部と曹の違いとは、役割の違いではないかと私は感じました。実際に、陸海空を問わず曹の方は職人気質の人が多く、その事に誇りを持っており、「自分たちが自衛隊を支えているのだ」という矜持で、日々の任務や訓練に携わっていらっしゃるように感じます。
 ある海上自衛隊をテーマにした映画で、幹部だけが艦に残ってその後もミサイル発射や航海を続けるなどの場面がありましたが、違和感と同時に軽く不快感も覚えました。映画の話ではありますが、あれだと、幹部だけで自衛隊の仕事が成り立ってしまうような印象を与えかねないのではないか、と危惧したからです。現実的には、海曹、海士なくして艦を行動させるなどということは不可能ですし、当然、陸上自衛隊も、航空自衛隊も、幹部だけで任務を行うことは不可能です。
 指揮官は重要な決断を下す立場にあります。したがって、その責任の重さは計り知れないものがあると思います。指揮官のすべきことは決断、部下の仕事はその決断を正確に実行することだと、私は思いました。指揮官の決断に基づく命令を、正確に実行するための練度の高いプロフェッショナル集団がいてこそ、クオリティの高い作戦行動ができるのであり、それを支えている人たちが、曹の方たちです。
 豊富な現場経験を積み重ねている方たちなので、広報の時などにお話を伺うと、ベテラン・スペシャリストならではの、おもしろいお話が聞けます。どちらかというと「マニア」と呼ばれる方たちの好奇心を満たしてくれるのは、彼らの方ではないかと感じます。また、ある艦長さんが「自分と幹部が全員いなくても、この艦はなんの問題もなく出港できるんじゃないかと思うくらい、ウチの海曹たちは優秀」と笑いながら話されていた事があります。
 いささか極端なのかもしれませんが、ベテラン・スペシャリストたちは、艦長からそれ程までに大きな信頼を得ているという証左でしょう。他にも、災害時のご遺体の捜索活動において、ある連隊長さんが「自分は立っていただけ。がんばってくれたのは部隊のみんなだよ」と言われました。それを聞いた陸曹さんが「いいえ!連隊長の指示通りに捜索したら、ご遺体を発見できたんです」と返された時、お互いの強固な信頼関係の素晴らしさに感動しました。
 自衛隊は様々な任務や演習・訓練に従事しており、国内はもとより海外からも高い評価を受けています。そうした世界屈指の高い水準の任務完遂能力は、ベテラン・スペシャリスト集団抜きにはあり得ないということを、知って頂けるとうれしいです。