みね姉の見た「防人たちの素顔」 その22:「カレーバトル」に見る海軍魂

峯 まゆみ

 年12月、予想以上に海上自衛隊のカレーを頂く、多くの機会に恵まれました。今や「海軍カレー」として、旧海軍及び海上自衛隊のカレーは、人気知名度共に極めて高く、「ブランド化」していると言っても過言ではないでしょう。海軍=カレーというイメージは、あまり自衛隊のことを知らない方にも浸透しており、佐世保、呉、横須賀で行われているカレーイベントは、大変な人気です。
 カレーイベントは、各艦艇で実際に作られたカレーが、乗員さん達の手で振る舞われる、「佐世保形式」と、各艦のレシピを地元の飲食店に渡して作ってもらうという「呉形式」とがあります。「佐世保形式」は、実際に艦艇内で作られたカレーを食べられるものの、人数に限りがあるので、どうしても食べられない人が出てきてしまう、一方で、「呉形式」は、お金さえ出せば確実に食べられるものの、地元の飲食店で食べるので「艦艇のカレーを食べている」という感覚は薄くなるという、それぞれに一長一短があります。しかし、いずれの形式であっても、必ず「バトル」と名がつき、各艦でおいしさを競わせる形になっていることに、海上自衛隊らしさをしみじみ感じます。
 佐世保や初回の横須賀のように、乗員さん達が必死になって競い合っている様子を見ると、「それがたとえカレーであっても、負けるのは嫌」という意気込みや、昨年の佐世保において、陸上自衛隊も参戦していた時も、「まさかカレーの戦いで、陸上自衛隊にだけは絶対に負けるわけにはいかない!」という気合いが伝わってきて、客観的に見ていると非常におもしろく感じます。同時に、そこまで負けず嫌いなのかということに、思わず「負けじ魂、これぞ船乗り」という言葉が脳裏に浮かびました。この言葉の意味は「他者に負けない」という意味合いではなく、自身の身の上に起こる困難に負けない、という、自分自身と戦うという意味であるようですが、結果的に、他者に負けることも潔しとしない、という気風にもなっているように感じます。
 海上自衛隊では、訓練において艦艇ごとに戦技を競い合っていますが、残念ながら我々民間人がその様子を実際に見学することは叶いません。従って、各艦艇が本気で何かを競い合う様子を実際に見る機会は、通常ありません。その意気込みを民間人が感じられる、唯一の機会がこのカレーバトルになっている、というと、いささか大げさに聞こえるかもしれませんが、私は会場に足を運ぶ度にそう感じます。
 その証拠というわけでもありませんが、ある乗員さんが「戦技で好成績を修めるより、カレーでいい成績とる方が、艦長が喜んでくれます」と、笑いながら仰っていました。また、ある艦では、確実に優勝を手にするために、自艦の乗員にすら手の内(カレーのメニュー)を明かさないという徹底ぶりでした。バトル出場となると、普段の忙しい任務や訓練の上にこの準備が係ってきますので、非常に乗員さん達の負担になっているのは間違いないと思うのですが、それでも、出場するとなったら必ず勝ちに行く!という意気込みで、どの艦艇も出場していることが伝わってきます。
「たかがカレー、されどカレー」・・・カレーバトルにここまで本気になる意味はなんなのかを考えてみました。ある海自幹部さんに「船乗りって、本当に負けず嫌いな人が多いですよね」と言ったところ、「そうじゃないと、戦争で負けちゃいますからね」と笑って言われた時に、ようやく私は気づいたのです。いささか極端かもしれませんが、国を護らねばならない彼らは、敵に負ける事は当然許されず、そのために自らに負ける事も許されません。同時に、訓練においては、切磋琢磨する仲間に対しても負ける訳にはいかないのでしょう。なので、結果的に、一見意味のないような勝負ごとであっても勝ちに行く、手を抜かない、というメンタリティが育ち、負けず嫌いに見えるのではないかと感じた次第です。
 人気による集客力から、「町おこし」としても有効なイベントになり得ているので、今後こうした機会は増えてくることでしょう。例え商品化され、店頭に並んでいる物であっても、そこに艦名が記されている以上、当人達には少なからず「他に負けたくない」という気持ちがあるようです。たかがカレーかもしれませんが、そこにも秘められた海軍魂が存在していることを感じ取って頂けることを期待します。