翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

P2V‐7 (3)

 FODの話が出たので、もう少し余談を続けたい。
 バード・ストライク(鳥との衝突)は、航空機にとって好ましくない事態のひとつである。それが直接の原因で墜落に至ることはめったにないが、それでも当たりどころが悪いと由々しい事態に陥る可能性がある。機体に衝突すると外板を凹ませる、あるいは破孔を開けることもある。
 P2Vの機首部分は透明なプラスティックのドームになっていて見張り員席があるのだが、ここに大型の海鳥が衝突して大穴を開けたことがある。
 無事帰投した機体を見に行ってみると、衝突場所付近には血が飛び散って、凄惨な有様であったが、幸い見張り員は肝をつぶしただけで済んだということであった。
 プロペラ機では、プロベラがガードの役をするのでエンジンのカウル部分にまで入り込むことは少ない。
 が、まれにはT ‐5練習機での事例のように、大型のトンビがカウル部分に収まっていたということもある。このときは、どう見ても開口部よりも鳥の方がかなり大きいので、みな首をひねったという、)
 ジェツトエンジンの場合は、エンジンの空気取り入れ口が前面にポツカリ開いているので、吸い込む確率は高い。ムクドリやスズメなど小型の鳥の場合は、確かに吸い込んだと思っても何の徴候も起こらず、排気口からヤキトリが出ることもないので、多分跡形もなく燃え尽きるらしいのだが、大きな鳥であれば停止することもあるだろうと思われる。
 アメリカでは、ムクドリの群れを吸い込んだためエンジン不調となり、慌ててこれをシャツトダウンしようとして正常側のエンジンを止めてしまい、操縦不能になって墜落したという事例もある。
 我々の側からすれば、同じ空を飛ぶ仲間として、できれば鳥と衝突などしたくないのだが、これがしばしば起こる。それも離陸直後、着陸直前といったクリテイカルな状態のときに起こる。なぜと言って、飛行場が鳥の生息に好適なのである。
 昭和四十年代の海上自衛隊の飛行場ときたら、どこの基地も例外なく滑走路、誘導路の周囲を除いて、すべて潅木、カヤ、雑草の生い茂る草やぶであった。鳥の習性として外敵から身を隠しやすいため丈の高い草原の方を好むのだそうで、スズメ、ヒバリ、キジ、ヤマドリ果ては野ウサギまでが住み着いていた。
 夜間、地上滑走中、誘導路を横切ろうとしたキジをプロベラではねたことがあつた。横断歩道でもないのに無理やり横切ろうとした相手が悪いので、良心の呵責などは感じなかったが、
「どうでした」
 現場を見に行ってくれた運航隊(飛行場の運用を担当している)の隊員に聞くと、
「いや、異状ありませんでした」
 本音は、キジの遺体を引き取ってねんごろに供養を営みたかったのだが言えなかった。その夜、運航隊で鍋の会があったかどうかは聞きもらした。
 よく当たる鳥は、カモメ、アジサシ、チドリなど中小型の海鳥である。群れをなして飛ぶために、被害に遭いやすい。トンビもよく衝突する。
 唯我独尊といった風情で、のんびり飛んでいるうえに、道を譲ろうとしない頑固さを反省する必要があろう。
 その点、カラスは賢くて、衝突する例は少ない。
 こちらの針路を予測して、鮮やかに避ける。昭和五十年代後半から、機械化による草刈り作業の効率化と、鳥が住み着くのを防止するため、各基地とも飛行場の整地が行なわれて、アフロヘアが丸坊主になつたほどに様相が一変した。
 しかし案に相違して、鳥との衝突はなくならない。住み着く鳥は減ったらしいのだが、よそから飛んで来ては餌をついばんだり遊んだりする鳥が増えたのである。草の丈が短くなって餌を見つけやすくなるせいであろう。
 特に草刈りが行なわれた直後に多いのは、地中の虫ケラやミミズが掻き出されたか、驚いて飛び出したかして地表に出ているからと思われる。食欲の前には外敵への恐怖も影がうすいというわけか。
 間欠的な爆発音、風でクルクル回るプロペラ、猟銃での成嚇、スピーカーで危険を告げる鳥の声を流すなど、あの手この手の駆鳥対策も決め手がないまま、いまだに鳥との衝突は航空界の頭痛のタネのひとつである。