翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

P2V‐7 (4)

 話を着陸法に戻す。
 視界がきかないとき滑走路を見失わないよう、通常の半分の高度(五〇〇フイート)で、しかも滑走路との間隔を狭くとってダウンウインドレグを飛行し、急角度のバンクで回り込むのがクローズイン・ランデイング。
 そしてシングルエンジン・ランデイング。P2Vは補助用のジェットエンジンを持っているので、これを一方の正常なエンジンに釣り合うように使用するので、まあそれ程難しくはない。
 私自身も機長になってから何度か実際のエンジン故障に見舞われたが、事実上四発機の三発状態ということで、それほど重大な事態になったと認識したことはない。
 問題は、片側のエンジンとそれと同じ側のジェットエンジンも使えない状況になったときである。こんな事態は滅多に起こるものではなく、事実これを実際に経験したという話も聞いたことがないが、ともかく万一に備えて、訓練のメニューには入っている。
 この場合は、飛行に必要な出力を正常エンジン一発に頼ることになる。(ジェットエンジンももちろん使えるが、使用すると機体を振り回そうとするモーメントが大きくなりかえって不利である)
 当然、推力の左右不均衡のために、機首が故障エンジン側に振られようとする。これを方向舵でウンショとこらえる。膝がガクガクするほどの力が必要である。
 さらに再度離陸上昇するためには、ジェットエンジンの加勢も必要になってくる。そうなると方向管制がほとんど不可能なので、着陸のやり直しはきかないという一発勝負である。
 これらの片エンジン着陸の訓練は、いかに勇猛果敢な自衛隊でも実際にエンジンを停止してしまうことはない。故障と想定したエンジンの出力を絞るだけである。
 実際にエンジンが故障すると、空気抵抗を減らすためにプロペラブレードを機体と平行の状態にする。風圧でプロペラが回ってこれに接続された故障エンジンが回されて更にひどいことになるのを防ぐ意味もある。これを「フェザリング」という。
 こうすると、エンジンを絞り切った状態よりもずっと空気抵抗は少なくなる。したがって訓練の場合も出力を絞りきるのではなく、空気抵抗がフェザリングした状態と同程度になる出力まで絞る。
「次、○○ランディング」
 教官パイロットから、次の着陸法を指示される。
「了解、○○ランディング」
 と慌てず騒がず、諸元を間違えずスムーズに対応できるようになると、ソロの許可が出る。
 前後してベーパーチェック(なぜかわが業界では、試験のことをテストともイグザミネーションとも言わず「チェック」というのである)もある。
 晴れてソロ、形態からして「単独飛行」とはいえないので「独り立ち飛行」ということになろうか。必要最小限のクルーだけにして(何やらカンぐりたくなるが)、2Pは古参候補生の信頼のおける人物が充てられる。
 一人きりの「ソロ」に比べると、数人の命を預かっていると思うと緊張は禁じ得ない。でも機内に、自分に命令する人がいないというのはいいものである。
「お山の大将」ならぬ「お空の大将」。やったね、飛行学生時代のメンターやSNJでのソロとはまた違った感慨がある。
 それは曲がりなりにもパイロツトとして独り立ちできたという喜びであり、これから一人で飛行任務をこなさなければならないという責任の自覚でもある。と、大層に言ってみても当面は新前機長でグレード(練度レベル)「C」、「平易な状況下」で「平易な任務」を与えられて、クルー訓練、チーム訓練の明け暮れである。(1P、2P、3PそれぞれにA、B、Cのグレードがあり、Cは駆け出し、Bで一人前、Aは上級、1Pの「A」は教官パイロットである)