翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

P2V‐7 (6)

 映画は、今ではテレビにその座を明け渡しているが、この時分は娯楽のうちでも上位に位置していた。我々も外出のときは、よく映画館に足を運んだものであった。
 ところで、戦争映画の撮影となると、どこの国でも軍隊が協力する例が少なくない。自衛隊も同様で映画撮影に協力した事例は多い。
 石原裕次郎主演の「零戦黒雲一家」という映画では、二〇一教空のSNJが教官操縦で多数出演していた。SNJは全体の形がなんとなく零戦(零式戦闘機)に似ているので、迷彩塗装を施してそれらしい感じを出していた。
 実は私も、映画撮影協力のフライトをやったことがある。写る側ではなくて写す側の協力で、主人公が急降下爆撃の訓練をやるシーンに入れる機外の風景の撮影である。
 真珠湾奇襲攻撃に先だって、航空攻撃部隊が錦江湾(鹿児島湾)で猛訓練を行なったことは、よく知られている。そこで鹿児島県地方が撮影地に選ばれたという次第。
 まず近代的な建物や道路の少ない海岸線を飛行して撮影。
「次は、急降下のシーンを機首の見張り席で撮ります。思い切り突っ込んで下さい」
「急降下と言っても、これは戦闘機じゃないですからね。ロケット攻撃のときのダイブ程度、せいぜい二五度くらいですが、いいですか」
「二五度ですか。四〇度くらいまでなんとかなりませんか」
「とんでもない。そりや無理です」
「仕方ありません。じや二五度でやってみて下さい」
 佐多岬の灯台を目標に二五度の降下角で突っ込む。とたんに前方の見張り席から、キャアだかヒャアだかとてつもなく大きな悲鳴が上がったと思うと、下の通路からカメラマンが大慌てで這い出して来た。
「もういいです、いいです。レンズのズーミングで感じを出しますから」
 スキー場の斜度でも二五度といえば結構な傾斜である。飛行機の場合は前が空間であるだけ、初めての人の目には、真っ逆様という感じに映る。
 特に機首の見張り席は、椅子自体が完全に透明なプラスティックドームの中に突き出しているから、空中を落ちて行くような気がしただろう。気の毒なことをした、と思いつつも笑いを噛み殺すのに苦労した。
 後日、招待券が送られて来て、公開されたその映画を観に行った。
 主人公は今は海上自衛隊のP2Vのパイロットで、雲上飛行をしつつ回想するところから映画は始まる。ところがその雲上飛行のシーン、実はエプロンに発煙筒を焚いて、その白煙の中を地上滑走して撮ったのである。これが見事に本物に見えたのには、驚くより呆れてしまった。
 肝心の私が協力したシーンの方も、まあまあの感じに撮れていて安心した。