翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

基本操縦課程「前期:T-34」―― 小月 (4)

 最後の段階が離着陸訓練である。
 ここ小月での訓練飛行時数は三五時間で、この時間以内に単独飛行(ソロ)に出ることが必須である。離陸や空中操作がいくらうまくても、着陸できなければ単独飛行には出してもらえないわけで、集中的に離着陸訓練が行なわれることになる。
 ここでの着陸は、矩形のパターンを飛行し、最後はパワーを絞り切って滑空状態で着陸する方式である。
 訓練は、着陸の度に航空機を停止させ(フルストップ着陸)改めて離陸するのでは効率が悪いので、接地したら再びパワーを加えて離陸操作に移る連続離着陸(タッチアンドゴー)である。
 ともかく単独飛行に出る日が来た。空中二〇分ほどの束の間の飛行である。
 教官がいないのをいいことに、離陸してすぐにガムを口に入れる。そこらをグルリと回り、すぐに引き返して、タッチアンドゴーを二回、そして着陸。すべて順調に行った。
 タクシーウエイ(誘導路)上で一時停止して、着陸後点検。見付かるとうるさいのでガムも忘れずに吐き出す。ところが飛距離が不足して、主翼の上にポトンと乗ってしまった。パワーを出して吹き飛ばそうと試みるが、しぶとくくっ付いていて落ちる気配がない。
 ま、降りるときそっと取ればいいか、とエプロンに進入する。エンジン停止の手順を実施しながらふと見ると、いつのまにか落ちてしまっている。やれよかったと思ったら、別のお叱りが待っていた。
「こら、ファイナル(最終進入)でパワーを使ったな。低いと思ったらパワーでごまかさずゴーアラウンド(着陸復行。着陸のやり直し)しろと言っただろう」
 教官が怖い目でにらむ。実は、わずかに低くなりそうなので、そっと、それも気持ちだけパワーを出したのだった。
 なんでバレたんだろうと不思議だったが、他の学生に聞いてみると、排気管からフワツと煙が出るのが見えたんだそうな。悪いことはできないものである。

 昭和三十六年(一九六一年)三月三十一日、課程修了。同日、晴れて三等海曹に昇任し、セーラー服が黒のダブルの制服に変わった。

 私はいま、これを航空界とは無縁の、つまりはシロウト衆を対象に書いている。言ってみれば、酒の席などで、私が元飛行機乗りと知っていろいろと質問して来る、好奇心旺盛な人たちに答えているつもりで書いている。
 当然に、航空界に身を置いている方、あるいは元飛行機乗りの方にとっては、航空用語の説明やアクロバットなどの記述は冗長であり笑止でもあろうと思うけれど、やむを得ない仕儀である。

 以下の記述にも関連してくるので、ついでにここで航空の分野で使用するいろいろな単位について、ちょっと触れておきたい。ともかくこの世界くらい、雑多な単位を使用する分野はないと言っていい。

 以下は、真剣に読むと頭痛発熱の恐れもあるので、軽く読み飛ばすことをお勧めしたい。
 まず、長さ。
 比較的大きな距離は、マイル(浬[海里]。 一マイル=一八五二メートル)で表わす。(以下「マイル」とあるのはすべて陸マイル[一哩=一六〇九メートル]ではなく、「浬」である)
 船舶、艦艇と同じく航空機の場合もその速度はノット(マイル/時)を使うし、また子午線上で緯度一度の海面上の距離は六〇マイルである。すなわち緯度一分= 一マイルということで、航法上も都合がいいのである。
 これが一マイル以内の距離になるとヤード(一ヤード=九一.四四センチ)になる。通常は一マイル二〇〇〇ヤードとして使用しているが、厳密にいうと一ヤードは三フィート、 一マイルは六〇八〇フイートなので、細かいことを言い始めるとややこしいことになる。
 高度を表わす場合には、常にフィートが使われる。ただし航空管制上では一五〇〇〇フィート以上になると一〇〇フィート単位のフライトレベルというのがあり、たとえば二〇〇〇〇フィートなら「FL二〇〇」という言い方をする。ただし航空法の条文には、各種制限などがメートル法で示されているので、いちいち換算して考える必要がある。
 その長さの単位も、寸法と呼べるような範囲に入ってくるとフィート、インチ(一フィート=一二インチ=三〇・四八センチ)になる。メートル法の単位が使用されることもある。
 次に重さ。
 ポンド(一ポンド=一六オンス=四五四グラム)が多用される(その下の単位であるオンスは、まず使用されることはない)が、トン、キログラムもときに顔を出す。
 離陸重量の計算などでは、搭載品の重量がポンドでわかっていたり、キログラムで表示されていたりするので、いったん単位を揃えて足し算をするという面倒がある。
 最も面倒なのが燃料で、刻々の燃料消費を示す燃料流量計は重量のポンドで日盛ってあり、タンク容量などは容積のガロン(一ガロン=三・七八五リットル)で示されることが多い。
 これには燃料の比重が温度によって変わることが関係している。
 その上、燃料補給の際に使用される単位は、キロリットルときているから、さらにややこしいことになる。
 最後に圧力。
 油圧、燃圧などは一平方インチ当たりのポンドで表わす。一ポンドの圧力は、一平方センチ当たり〇・〇七〇三キログラムになる。脚、フラップなどの作動機構に供給される油圧は、概ね一五〇〇ポンドとか三〇〇〇ポンドといったところである。
 また、気圧高度計の整合に使われる気圧の単位のように、水銀柱の高さをインチ(標準気圧=二九・九二インチ=七六・〇センチ= 一〇一三ヘクトパスカル)で表わすといった例外もある。
 ざっとこんな具合である。