翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

基本操縦課程「後期:SNJ」―― 鹿屋 (2)

 エプロンを出て誘導路に入ると、前方を確認するため浅いジグザグを描きながら進む。前輪式なら前輪操向装置(ハンドルか方向舵ペダルで方向をコントロールする)がついているが、この飛行機の場合は、方向舵とブレーキだけで方向管制をしなければならない。
 ブレーキの使用も前輪式と違って、左右同時に踏み込むと勢い余って逆立ち、悪くするとデングリ返る事態も起こる。(この実例は、ここの課程にいる間に実見した)
 かといって片方だけ強く踏んでしまうと、機体がぐるりと回ったり(グラウンドループ)、あさってに向かって突っ走って滑走路から飛び出したり(オフランウエイ)する。(これはよく起きた。珍しくもなかったと言っていい)
 したがってブレーキは左右交互に、しかもチョイチョイとごまかしつつ使わねばならない。
 鹿屋飛行場には二本の滑走路があり、メインランウエイ(主滑走路)が約二四〇〇メートル、これに平行して約一五〇〇メートルのサブランウェイ(副滑走路)がある。SNJの飛行教育には主としてサブランウエイが使われる。
 滑走路手前の誘導路上でエンジンの暖機と離陸前の点検を行なう。
 いったん飛行機を誘導路の端に寄せ、風に向けてぐるりと方向転換する。毎回のことながら、これが案外の難物である。目測を誤ると、方向転換の半ばでゴトンと音がして機体が動かなくなる。尾輪が誘導路を外れたのである。
「すみません、教官。尾輪が落ちました」
 情けない表情で後席の教官を振り返る。「申し訳ありません」をせいぜい表情に出さないと、
「バカヤロウ、当たり前のような顔でおれを使うのか!」
 ヘタをすると、
「おれは知らん。おまえ自分で直せ」
 とソッポを向かれる羽目になる。おおむね悔恨の意思が通じると、教官は「このバカめ」に「しやあないな」をミツクスした顔で、セーフテイベルトを外し、パラシュートを外して機外に出る。
 やおら尾翼の下に潜り込んで、背中でヨイシヨと持ち上げる。私はすかさずパワーを出して機体を前進させる。飛行後のブリーフイングがどうなるかはともかく、これで一件落着である。
 離陸。
 これがまたメンターとまるで要領が違う。前輪式だと機体がほぼ水平だから、走り出して規定の速度に達したら、やおら機首を上げればそれでいい。
 ところが尾輪式の機体は、機体が上を向いているので、そのままでは空気抵抗が大きく加速に時間がかかる。そこで舵の効く速度になったら、操縦桿を押して尾部を持ち上げていったん機体を水平にし、規定の速度に達したところで操縦桿を引いて機体を浮揚させるのである。
 離陸してしまえば、以後の操作や特性は、機種の違いによる差異はあっても前輪式と尾輪式の違いによって生じる差異はない。
 ここでSNJでの着陸の方式について述べる。
 一般に航空自衛隊や民間では、小月での着陸がそうであったように矩形のパターンが使用される。
 しかし海上自衛隊でのそれは、空母での着陸パターンを踏襲した、陸上競技場のトラックのようなその名もレーストラックパターンを使用する。
 すなわち、ダウンウインドレグと呼ばれる滑走路と平行に風下に飛行する経路から、最後に滑走路に向かって進入するファイナルレグまで、高度を下げつつ半円を描くように飛行する。
 矩形パターンの場合は、九〇度旋回してベースレグと呼ばれる直線を飛行した後、さらに九〇度旋回してファイナルレグに乗る。
 連続離着陸訓練などの場合の、離陸後上昇してダウンウインドレグに乗せる場合も同様に、レーストラックパターンの場合は半円を描くし、矩形パターンの場合は旋回、直線、旋回の方式をとる。
 現在も海上自衛隊では、唯一小月基地のKM-2、T-5による飛行教育で矩形パターンを用いているほかは、すべての基地すべての機種で、このレーストラックパターンを使用している。小月の場合は、訓練機数、地形的条件、それに騒音問題に対応するためであって、例外である。
 またSNJの着陸で他と違う点は接地である。ある程度パワーを使用し、機首を上げて失速寸前の状態で滑走路に進入する。ニメートル程の高度でパワーを絞り切る。二つの主車輪と尾輪の三つが同時に接地するような姿勢(三点姿勢)でドスンと落下する。完全な空母着艦方式である。
 もちろん滑走路上のどこに接地してもいいわけではなく、接地すべきスポットが滑走路上に直径一〇メートルばかりの黄色い円で表示してある。この円の中にピタリと接地したときの気分は、手が放せるものならVサインでも出したいほどである。