翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

基本操縦課程「後期:SNJ」―― 鹿屋 (3)

 ソロ検定が近づくとトラフィックパターン内に、離着陸訓練が集中する。むろんまともにさばけるのは四、五機が限度なので、間隔を調整するためにダウンウインドレグを延ばされる。極端な場合は、 一〇キロ以上も先まで五機、六機と並んでダウンウインド(の延長)を飛行する。
 やつと許可をもらって旋回を終わって見ると、滑走路は十数キロも先である。こうなるとまるきり直線進入(ストレートイン)の訓練である。

 ソロ検定の日がきた。
「落ち着いてやれ、いつものとおりやれば大丈夫だ」
 担当教官の池田五郎三尉に励まされて、検定教官と共に飛行機に乗り込む。
 当時、総体的に厳しい教官ばかりの中でも、この池田教官ともう一人西條徹三尉の二人が一頭地を抜いていて、「虎の西條、蛇の池田」と学生の間で恐れられていた。しかし私にとっては、厳しいには厳しいが、特別に怖いということはなく親身に教えてもらった。後年ヘリコプターの事故で殉職されて、もう会えないが懐かしい教官である。
 ソロ検定のフライトは一応順調に終わった。が、降りて来るなり、検定教官は開口一番、
「あかんなあ。おまえ、次のクラスに落ちてでも続ける気があるか」
 どうも、自分で思ったほどうまくいつてなかったようである。
「はい。もちろんです。続けたいです」
 そこへ池田教官が気にしてやって来てくれた。
「どうでした、彼は」
 検定教官に質問する。
「いかんねえ。空中操作はいいが、着陸が駄目だ。滑り(横風に流されること)が止まらんのよ。滑りに気がつかんということだろうな。残念ながらダウン(不合格)だ」
「おかしいなあ。昨日まではしっかりできていたのになあ。おまえ、案外あがるタチなのかなあ」
 しかし不合格は不合格。あと一カ月ほど待って次のクラスと再スタートだ。
 差し当たってすることがなくなつたので、飛行場に出る。飛行場では検定に合格した連中のソロフライトが始まっている。ソロの飛行中は、着陸点のすぐ脇にモービルコントロール(略して「モーボ」と呼ばれるトレーラーが配置されている。教官がこの中からソロ学生の着陸を見ながら、無線で必要な助言や指示をするのである。
 同僚学生の着陸を見学しようとここまで来たが、ふいにその気が失せて、モーボの脇の草地に寝転んだ。
 ……空は広いや。人間も飛行機も小さい小さい。くよくよすることはないよな。
 そんなことを思っているうちに寝込んでしまったらしい。ふと気がつくと頭上に人が立っている。
「さっき不合格と言われたばかりなのに、こんな所で大イビキとは良い根性だな」
 慌てて立ち上がると、さっきの検定教官である。大目玉と思いきや、
「実は池田教官とも相談して、 一応ソロに出すことにした。いいか、何回ウエーブオフ(着陸復行。空自や民間では「ゴーアラウンド」という。後にウエーブオフの語は使われなくなった)してもいい。自信のある着陸をやれ。さあ行け」
「はい」
 思いもかけない不合格の撤回に、私は躍り上がって駆け出した。
 ソロは存外にうまくいった。