翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

基本操縦課程「後期:SNJ」―― 鹿屋 (5)

 このSNJ いかにもヒコウキーツという感じで、操縦する醍醐味もある代わり、ブレーキの使い方に代表される扱いにくさもあった。特に着陸後のグランドループによるオフランウェイは、けっこう頻繁に起きていた。
 ただし、我々が教育を受けていた昭和三十六年(一九六一年)四月からの半年間で、SNJの事故として記録されているのは三件のみで、他は機体に大きな損傷がなかったために事故として記録されていない。
 記録を見ると、前記の半年間にSNJによる事故は三件である。うち一件はグランドループによりオフランウェイして機体が裏返しになり中破したもので、あと二件はいずれもわがN‐四七期の学生によるものであった。
 一件は、ソロによる夜間離着陸訓練中に起こった。
 私が最初の着陸機で、誘導路に出て着陸後点検を済ませ、ふと振り返ると後続のソロ機が着陸しようとするところである。
 学生にとって他の学生がどんな着陸をするかには、やはり興味がある。停止したままで見守っていると、どうしたことだ、着陸滑走する機体の後方から花火のように盛大な火花の尾が伸びている。飛行場灯火が点々と見えるだけの夜景の中に、それはとびきりの鮮やかさであった。
 やがて機体が停止すると同時に、火花も消えた。寸秒をおかず、サイレンのうなりが起こり、消防車の赤い回転灯が疾駆しはじめる。
 エプロンに戻って聞くと、脚を出し忘れたまま着陸したのだそうで、機体が損傷しただけで乗っていた同期生の身は無事で安心した。
 しかし、クレーンで吊り上げた機体の下面を誰かがドライバーでちょんと突いたところ、ツーとガソリンが流れだしたと聞いて肝を冷やした。
 機体がもう少し滑ったらタンクの底に穴が開き、漏れたガソリンに火がつき……。脚がないだけならただのダルマだが、火ダルマになったら、命さえも危ないところであった。

 もう一件の方はノーズオーバーである。
 SNJでの飛行訓練の最後の仕上げは、場外飛行つまり他の飛行場に着陸する飛行である。
 目的地は小月基地、お里帰りの意味合いもある。
 半数はソロ、半数は教官同乗である。帰りは、ソロで進出した方の機に教官が同乗する。
 私は行きが同乗で、同乗教官は「虎の西條」こと、西條徹三尉である。
 ところが到着する少し前から、風が強くなった。学生の技量では限度ぎりぎりの強風である。それでもなんとか次々に着陸、私も最後から三機目くらいに着陸、エプロンに入ってエンジンを停止した。
 やれやれと機から降り立ったそのとき(どうも、こういう巡り合わせになるらしい)、後続の飛行機が、妙に歪んだ姿勢で着陸するのを見た。
「危ないんじやないか、あれでは」
 見守るうち、三度、三度、跳ねるようにしたと思うと、いきなり尾部が持ち上がり、真っ逆様に立ち上がった。あつトンボ返り、と思う間にスローモーション画像のようにゆっくりと戻り、思わせぶりにユラユラした後、シャチホコ立ち状態で停止した。
「おおい、早く出ろ、早く。何をもたもたしてるんだ」
 人の気も知らず、機外脱出にいやに時間がかかった気がしたのは私だけではなかつた。万一、火が出たら人間バーベキューである。
 後でそのことを彼に言うと、
「いやあ、早く出ようと必死だったんだけど、なにしろ宙吊りだもんだから、シートベルトもパラシュートもなかなか外せないんだ。焦ったよ、まったく」

 ともあれ、わがN‐四七クラスは、メンターの課程から通算すると、技量不足、身体不調による減員が六名(課程開始初頭の身体検査不合格による減員六名は含んでいない)、おまけに二機のSNJをおシャカにするという惨憺たる結果ながら、二〇一教空の課程を終了したのであった。
 身体検査での不合格、技量、適性不足、身体不調による学生罷免が最も多かったのが、この小月、鹿屋と続く基本操縦の課程である。去って行く者、次のクラスに落ちて行く者、前のクラスから落ちて来る者、クラスの構成は目まぐるしく変わった。
 そのせいもあって、同じクラスでありながら、いつ、誰がどうなったのかということが、さっばり思い出せない。これを書くに当たって他の連中に問い合わせてみたが、誰も彼も大同小異で、さだかに覚えている者は誰もいなかった。
 本当にあのころは、自分のことだけで精一杯という状況だったのだな、と改めて感じずにはいられなかった。
 先日、小月の二〇一教空で調べてもらったところ、この期間のわがN‐四七クラスの消長は次のとおりであったと判明した。
 N‐四七要員として着隊二〇名
 メンターの課程開始   一四名 (身体検査不合格六名)
  同  課程修了    一一名 (技量不足による罷免三名)
 SNJの課程開始    一三名 (前クラスから編入二名)
  同  課程修了    一〇名 (技量不足による罷免二名身体不調による罷免一名)