翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

訓練・戦術・応急出動 (1)

 ここらで少し時系列を離れて、別の切り口で部隊生活を振り返ってみようと思う。テーマ別に書いてみようというのである。
 その方がより明確に、当時の部隊の様子が見えてきそうな気がする。

 救命生存訓練
「サバイバル」とは「生き残り」ということである。搭乗員の世界では、遭難した場合に救助されるまでを生き抜くことをいう。
 搭乗員は一朝一夕に養成することはできない。サバイバルの知識と技術は、搭乗員の減耗防止という意味で非常に重要である。特に、洋上を行動の舞台とする海上自衛隊航空機の搭乗員の場合、海上不時着を想定した飢えや渇きに耐えて生き残る訓練は不可欠のものである。
 で、各部隊ともそのための訓練を、毎年夏、冬の二回実施する。夏の訓練では主として洋上で遭難した場合を想定した訓練、冬のそれは厳冬期に、人家を遠く離れた山地や荒野で遭難した場合の訓練である。

 夏。
 我々訓練部隊は海岸に進出する。
 海が荒いと臨場感は出るが、犠牲者も出る恐れがあるので、大体は錦江湾や志布志湾のような湾に面した風波の影響を受けにくい海岸である。
 訓練は、平素一緒に飛行作業をやっているフライトチームを単位として行なわれる。リーダーは機長である。
 我々若手機長は、頭では知っているけれど技量が伴っていないので、実質訓練を指導するのは機上武器員(「エア・オーデイナンス」略して「AO」)である。
 AOの仕事は、魚雷、機雷、爆弾、ロケットなどの攻撃武器、聴音用ソノブイ、発煙筒、信号弾などの火工品、カメラなど光学機器の扱いであるが、それだけでなくパラシュート、救命ボートとその付属品といった救命装備品も彼らの所掌である。
 したがって、救命装備品の構造、機能、用法に関する知識、技術を持ち、サバイバルに関してはウデもチエもある専門家である。
「漂流訓練、かかれ」
 号令一下、 一二人乗りの救命ボートを膨らませにかかる。
 P2Vの翼の中に格納されている状態のボートは、着水後コパイロット席横のレバーを引くか、海水で通電するかしたらCO2ボンベが作動して自動的に膨らむようになっている。
 が、この訓練で使用しているものは耐用命数が来たのを転用したものなので、エッシエッシと手動ポンプで空気を注入する。
 なにしろ一二人乗りである。浮力体の部分の太さが一抱えもある。フウフウ言いながら交替でなんとか膨らませて、海上に押し出す。
 我々は、飛行服を着たまま、ボートを追ってザブザブと海に入る。飛行服は洗濯すればすむが、靴はそうはいかないので、やや現実性には欠けるが靴は履かずに裸足である。
 海に出てからの訓練は、ボートに乗り込むところから始まる。これがあるので最初からボートに乗ったまま海に出ることをさせないのである。ついでに言えば、内緒でおやつやタバコを持ち込もうとする不心得者が出ないようにする意味もある。
 洋上のサバイバルでは、最初の二四時間は一切飲み食いしないというのが原則である。
 ではあるが、たかが訓練じゃないか、ということでポケットにしのばせて来る不届き者もいるので、服のまま海に入れれば、隠匿物資は水に漬かってパアという計算なのだが、ビニールにくるんだりして対策を講じる用意周到な者もいて、油断はできない。
 足が届かない水深のところまで出ると、乗り込み開始である。
 意地の悪い訓練指導官にかかると、ボートが裏返った状態から始めさせられることもある。飛行制服のままで立ち泳ぎしながら数十キロもあるボートを引っくり返すのは、なかなかの難事である。