翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

訓練・戦術・応急出動 (2)

 さて、乗り込み方である。乗り込むには、大きな丸太のようなボートの縁を乗り越えなければならない。ボートの底から海中に垂れたロープを足掛かりに、エイヤッと身を乗り上げ足をバタつかせて中に転がり込む。舟に取り込まれるマグロのしぐさを自分一人で演じるわけである。二人目からは先に乗り込んだ者が漁師の役をやることになる。
 皆が乗り込んだところで、ボートの付属品の組み立てにかかる。これは本来は、四角いパッケージになって、ボートに紐でつながっているのだが、中古の訓練用の付属品なのでバラバラに積み込んである。
 シーアンカー。布製の底の抜けたバケツのようなものである。ロープに結んで海中に入れ、ボートが風に流されるのを極力防ぐ役目である。
 ボートの覆い。アルミ合金製の支柱を使って、カマボコ形のテントにする。太陽の直射による水分の蒸発、疲労を防ぎ、夜間の防寒にも有効である。
 レーダー反射器。折り畳み式の小骨に網状のものを張ってある。捜索レーダーになんとか探知してもらおうという知恵である。
 もちろん無線機もある。現在の物に比べると格段に無骨な代物であるが、なんと「ギブソンズガール」というニックネームがついている。その名は、筐体の中ほどが女性のウエストのようにくびれているところから来ているというのだが、真偽のほどは不明である。
 そのくびれた部分を両膝で挟んで、手回し発電機のハンドルを回しつつ送信する。このハンドルが、三分も回すと息が上がってしまうくらいに重い。この状態でガールを連想するとはよほど豊かな想像力の持ち主か、でなければ欲求不満であったかと思うしかない。
 送信用のアンテナがまたアイデア賞もので、なんと凧である。風が無いときはオールの先に付けて差し上げて使うように説明書には書いてある。漂流が長引いたときは、凧上げで遊ぶのもいい退屈しのぎになるかも知れない。
 そのほか、上空から視認しやすいように海面を着色する海染剤、合図用のホイッスル、鏡、海水を太陽熱で蒸発させて真水を作る装置、海水の塩分を抜いて飲用可能にする脱塩剤、さらには周囲の海水に溶かすとフカが寄ってこないという怪力乱神まである。
 一切合切を組み立て、セットしてしまうと待ちの態勢に入る。
 付近を通る船や捜索機を見逃さないよう、交替で見張りにつく。この辺はお芝居になるので、居眠りしても皆の運命を左右するような事態にはならないから気は楽である。
 他の者は、ボートの縁に背をもたせて座り、世間話などしながら時間をつぶしにかかる。
 ボートは波まかせでチャプチャプ、ユラユラ、一時間、二時間……。顔色が変わってくるのが必ず二、三人は出てくる。船酔いである。
 私もその一人。我慢し切れなくなると、海中に入る。揺れは揺れなのに、水に入ってボートにつかまっているぶんにはなんともないのだから、不思議と言えば不思議である。
「漂流訓練止め」
 警戒用にチャーターした漁船が、あちこちに漂流しているボートを船尾に数珠繋ぎにして、引っ張って浜に戻る。