翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

訓練・戦術・応急出動 (7)

 音波を発振するソノブイもあった。これだと、そのブイからの方位距離がわかって、苦労いらずであるが、高価で滅多に使わせてもらえなかった。
 そこで、もつと安価な手段を、というわけでもなかろうが、米海軍でかなり賢い方法が編み出された。ソーナー音波を発振する代わりに、普通のブイの側に発音弾を投下するのである。
 ややこしくなるが頭の体操代わりにその一端を説明する。(図参照)
 投下したA、B二本のブイのうち、Aのブイに発音弾を投下する。当然Aのブイでは爆発音を感知する。そして潜水艦が近くにいれば、ある時間をおいて潜水艦からの反響音を感知する。この秒時に音速を乗じて二で割ればAブイから潜水艦までの距離が判明する。
 このときBブイには、爆発音がABのブイ間を伝わる時間だけ遅れて届き、次いで潜水艦を経由してきた音(反響音)が届く。爆発から反響音の到達までの秒時に音速を乗じて求めた距離が、Aブイ―潜水艦―Bブイの距離ということになる。
 そこでAブイとBブイを中心にそれぞれ潜水艦までの距離を半径とする二つの円を描けば、二つある交点のうちの一つが潜水艦の位置ということになる。
 P2‐Jの時代に入ると、ソーナー発振できるブイが比較的潤沢に使えるようになり、この戦術は徐々に使われなくなった。
 P-3Cの時代に入ると、コンピューター処理によって、複雑な分析、処理が可能になって、はるかに高度な理論に基づく追尾戦術が可能になっている。
 ともかくそんな風に、あの手この手を駆使して、潜水艦の位置、針路、速力を掴むことに努めるのであるが、これを攻撃に結びつけるには、やはり正確な点としての位置、ピンポイントが必要である。
 MAD (磁気探知機)がその手段として使われる。
 潜水艦は鉄の塊なので、当然そこに地磁気の乱れを生じる。これを探知しようというのがMADで、探知距離が短いぶん正確な位置を知ることができる。
 それまでの戦術で得られた位置、針路、速力に基づいて、予測位置に向かって進入する。
「MADコンタクト(探知)!」
 この声の響き渡るときこそが、皆の待ちわびた瞬間である。
「魚雷投下!」
 あとは魚雷の自動追尾能力に期待することになる。
 P2Vの場合、胴体下と翼の下に魚雷、爆弾、ロケットを組み合わせて搭載する。いずれも対潜用の攻撃武器である。
 そのうち対潜ロケットは潜水艦の少なくとも一部が海面上に出ている場合しか効果がないし、対潜爆弾も潜航深度がそれほど深くない段階でしか効果が期待できない。
 したがって通常、潜航中を捕捉して攻撃する場合は、魚雷が唯一無二の攻撃手段である。
 通常、訓練は海自の潜水艦を目標として実施するが、その場合、攻撃は発音弾の合図で表示する。潜水艦では、爆発音の遠近によつて攻撃が有効であったかどうかを判定するのである。

 とまあ、戦術の流れに沿って述べては来たが、世の中そうそう甘くはない。海中という複雑極まる環境の中では、あるはずと思える探知が得られないこともしばしばだし、水深が浅くて思う戦術がとれなかったり、頼みのソノブイが作動不良だったりもする。
 だがなにより問題なのは、相手の潜水艦が常にこちらを出し抜こうと狙っている存在だということである。
 あの手で来るか、この手で来るか、ウラを掻く気か、ウラのウラを読むべきか。空中と海中の知恵くらべ、キツネとタヌキの化かし合いがこれからも続くことになる。装備の近代化を背景にして、優勢劣勢ときに所を変えながら……。