翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

訓練・戦術・応急出動 (8)

応急出動

「第一航空隊、応急出動用意。任務、遭難漁船の捜索救助。状況、屋久島西方海面で一九名乗り組みの漁船が遭難、脱出するとの連絡を最後に消息を絶った。パイロット、ナブは直ちに司令部に出頭せよ」
 構内スピーカーの声に当日の応急出動クルーに当たっていた私は、側で机に向かっているコパイロットを促し、椅子を蹴って立ち上がる。廊下に出たところで航法バッグを抱えて一階から駆け上ってきたナビゲーターと合流、揃って司令部作戦室に入る。
「レディ機○○号機長岡崎三尉参りました」
 当直幕僚に報告する。群司令、隊司令の顔もすでに見えている。
「状況を説明する。鹿児島の第一〇管区海上保安本部からの情報によると、本朝〇六三五ごろ、屋久島の西にある臥蛇島西方約二三マイルで、宮崎県南郷町の漁船第二一昭徳丸(三九トン。一九名乗り組み)が横波を受けて浸水、沈没の恐れがあるため脱出するとの連絡を最後に消息を絶っている。君たちの任務は一一管本部長からの要請による遭難漁船の捜索、発見したら所要の救助物件を投下するとともに付近の船舶に知らせて救助を依頼、現場に誘導する。なお同船は救命ボートも救命いかだも搭載していなかったとのことで、全員が救命ジャケツトだけで漂流していると思われる。気圧配置から見て現場付近では北西の風が二〇ノット前後、波、うねりがかなり高いと思われる。オフステーション時刻(現場を離れる時刻)は無線で指示する。質問はあるか」
「現場の捜索兵力はどうなっていますか」
「巡視船が指宿の山川港を出港して現場に向かっているが、到着は午後になる。鹿児島空港(旧鹿児島空港、鹿児島市内にあった)から海上保安庁の航空機も出るようだが、まだ予定の詳細は入っていない」
「付近の船舶、海保機との連絡は救難用の二一八二キロサイクル(当時の言い方。キロヘルツという言い方はずっと後のことである)のA3 (音声をいう。いわゆるトンツーはA1という)でいいですね。司令部への報告は何を使いますか」
「こちらでも二一八二のA3を傍受する。連絡はそれでしろ。搭載物件はいいな」
「はい。遭難漁船捜索用の装備キットを搭載して行きます。それでは出発します」
 群司令、隊司令に出発の報告をして、作戦室を飛び出し、駆け足で飛行場に向かう。
 エプロンでは装備の搭載も終わり、他のパイロットがエンジンを起動してくれている。交替して座席ベルトの装着もそこそこに、地上滑走を開始する。
 後部席ではナビゲーターが、チャートにかがみこんで進出コースの決定、針路、所要時間の算出にかかっている。
 離陸する。
「パイロット、ナブ。針路○○○、ETE(予想所要時間)○○分。ETA(到達予想時刻)○○○○」
「了解」
 鹿屋から現場までは、約一三〇マイル、四〇分余りの航程である。クルーに対する状況説明、捜索要領などの指示、打ち合わせをやりつつの進出である。
 現場に近づく。視程は問題ないが、海上はかなり荒れている。波高も三、四メートルはありそうで、自波がうねりの頂上を洗っている。
 機内ではすでに無線のチェックも終わり、レーダーマンは食い入るようにスコープを見守っている。前部見張り、後部見張りも席に着いて海上に目をこらしている。
 報告のあった位置に誤差があったり風波で流されたりして、意外な場所で発見する可能性もあるのである。
「レーダー、パイロット。現場付近に何かいるか」
「海面反射であまり状況は良くないですが、現在は何もいない模様です。一五マイルほど離れた所に小目標があります」
「よし、それを確認しておこう。誘導」
「了解、針路○〇〇、距離一四マイル」
 漁船だった。現場に直行している模様である。無線で呼び出して聞くと、海上保安庁からの連絡を受けて現場に向かっている途中とのこと。これで発見後の救助は目途がついた。
「最後の報告位置を中心に方形拡大捜索に移る。ナブ、準備はいいか」
「できてます。レグ(直線部分)の間隔は一〇マイルでいいですか」
「いいだろう。捜索中心にマーク6 (長時間持続型の発煙筒)を投下してから始める」
 方形拡大捜索とは、中心から四角形を描くように徐々に外側に捜索範囲を広げていく方法である。レグ間隔は、目視で発見可能な距離の三倍弱にとる。