翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

訓練・戦術・応急出動 (9)

 二度目の変針だったか、三度目か、次のコースに向けて旋回に入りながら左方を見た私の視野の隅を、オレンジ色をした何かがチラリと横切った。
 間髪を入れずバンクを水平に一戻し、操縦桿のボタンを押して発煙筒を投下する。
「一〇時の方向に何か見えた。距離は約ニマイル、まもなく正横のはずだ。よく見てくれ」
「見えました! 漂流者です。何人もかたまっているようです」
 旋回して近づく。
 うねりに見え隠れしているが遭難者の一団がはつきりと確認できた。木材かロープのような物に掴まって、細長い列にはなっているが全員まとまって波にもまれている。
 オレンジ色に見えたのは彼らが着けている救命ジャケットである。しばらくは疲労で溺れてしまうといった心配はなさそうである。
 司令部に報告を入れながら、位置表示のための発煙筒を投下する。
「風上に救命ボートを投下する。AO (機上武器員)、準備できたら知らせ」
「できてます。ハッチ開けます」
 P2Vの機体には、横からの出入り口がない。前部からは前輪の格納部分、後部からは胴体下面の上げ蓋式のハッチから出入りするようになっている。その上げ蓋式のハッチが、物量の投下口になる。
「投下用意、投下!」
「投下しました」
 確認しようと反転する。なんたること、風に流されて少しはずれた海面に着水した。これでは彼らの横をすり抜けてしまう可能性もある。
「拾えないかも知れないが仕方がない。それではさっきの漁船の誘導に行くぞ」
 レーダーに方位を確認させ、漁船に向かいながら発煙筒を二発、三発と投下する。誘導のための目印である。
 先に見た漁船が、うねりにほんろうされながらも波を蹴立てて懸命に進んでいる。
 船の直上から現場の方向に飛んで見せて、方向を示す。
「無線を聞いていましたので状況は了解しています。あと何マイルでしょうか」
「九マイルです。発煙筒をたどって下さい。何分かかりますか」
「四〇分、いや三五分です」
 漁船も目一杯急いでくれている。
 状況の確認に漂流者の上空に一戻る。特に変化はないようである。
「一九人、全員確認しました」
 前部見張りから声。
「よかった。もう少しですよ、頑張ってくださいよ」
 聞こえるものならそう大声で励ましたい思いである。
 そのうち海上保安庁のビーチが現場上空に到着したので、状況を知らせてやる。
 ようやく漁船が現場に到着。早速に漂流者の収容にかかる。ロープか何かで一人ずつ舟縁りから甲板に引き上げている。波に洗われながらの救助作業である。
 上空を旋回しつつ、後部に指示して救助の状況を撮影する。
「いま一〇人救助しました。健康状況に問題はないようです」
「これで一五人、間もなく全員収容します」
 漁船が逐一救助の状況を知らせてくれる。
 気が付くと、いつのまにか現場を離れたらしく、保安庁の航空機は姿がなくなっている。
「一九名全員救助を終わりました。これから鹿児島に向かいます」
「貴船の献身的な活動に敬意を表します。ご苦労さまでした」
 ともかくよかつた。機首を鹿屋に向ける。
「○○号機は福岡に直行し、報道陣に撮影したフイルムを渡した後帰投せよ」
 おやおや、くらいで別に面倒とも思わない良い気分で、針路を北に振って福岡に向かう。
 福岡でフイルムを渡し、ちょっとした記者会見をやって鹿屋に戻る。
 が、その夜のテレビにも新聞にも、我々の果たした役割に関しては報道もされず、残念なことに我々が撮影した写真も、海上保安庁機に先を越されたため、日の目を見なかった。
 昭和四十二年(一九六七年)二月のことである。