翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

YS-11 (2)

 越浦一尉は、私が候補生で四空にいた時分、機長としてすでに活躍中であったパイロットの大先輩、私も何度か彼のコパイロットを務めたことがある。
 予科練に入隊したものの飛行機に取り付く前に終戦、しばらく故郷の新潟で漁師をしていたが、空への夢を捨て切れず海自に入隊してパイロットになったという人、少年航空兵を自称する(ただこの人を頭上から見た場合には多少の問題がある)元気一杯の万年青年である。
 まず構造、装備、飛行法などの座学、やがて飛行訓練に入る。基本飛行の段階を終わったところから、輸送や広報の任務飛行をこなしながらの実地訓練である。
 YSの巡航速度は二四〇ノット、一八○ノットのP2Vより六〇ノットも早い。速度が早いということは、遅い場合よりも操作やこれに伴う計算その他を早くこなす必要があるということである。後年、YSからP‐3に移ったときにも同じ経験をすることになるが、慣れるまでは大変である。
 上昇して水平飛行に移る。パワーをセットし直して次の変針点までの時間を計算する。そこが目的地上空なら進入着陸の手順、使用する無線周波数を確認する。必要のつど航法用の無線施設のチャンネルもセットし直さなければならない。すべてがP2Vの感覚でいると後手に回ってしまう。当初は随分とアタフタさせられた。
 ずっと楽になった部分もある。エンジンの扱いである。
 YSのエンジンはロールスロイス製の遠心式ジェットエンジンである。前から取り入れた空気を何段ものタービンで後方に押し込んで圧力を高めて行く軸流式ジェットエンジンに対して、こちらはタービンの軸近くに送り込んだ空気を遠心力で外側に振り出すことを繰り返して圧力を高める。
 いずれの場合も、ピストンエンジンに比べて、起動をはじめ取り扱いが格段に単純である。離陸のときのパワー操作も、ピストンエンジンの場合は、規定値でピタリと止める繊細さが必要であるが、ジェットエンジンではレバーを一杯まで押して、排気温度が制限値を超えないのを確認するだけである。プラグにカーボンが付着して点火が不安定になるということもない。
 その他は、機体の大きさもP2Vとほぼ同じ、着陸進入の速度も大差ないのでそれほどの違和感はない。

 輸送任務など外に出る予定のない日は、計器進入や離着陸の訓練である。
「ここで速度はいくらにセットするのだったかな?」
 教官の佃飛行隊長から質問。
「一二〇ノットです」
「一二三ノットあるな」
 それ以上は言わない。言われなくてもズンとこたえる。P2Vでは教官パイロットで、他人からとやかく言われることがなくなっていた。自分でも気づかないうちに、飛行に対する慣れが出てきていたのだと思う。
 ピタリと、決められた手順、諸元を守る、それがルーズになりかけていた。
「外部点検はやったかね」
「いえ、すぐに出発ですから……」
「着陸してエンジンを止めたら、すぐに出発だろうと翌日の出発だろうと、必ずひと通り外部点検をしなくちやいかん。離陸前に異常がなくても飛行中や着陸で異常が出ることもある」
 私は一言もない。
 こういった具合で、佃三佐には、YSの1P練成を通じて折りにふれしつけに類することから安全に対する考え方、妥協せずにそれを実践する習慣といったいわゆる「飛行軍紀」を叩き込まれた。残念ながら性格の軟弱さから、私がその後のパイロット人生でそれを貫徹できたとは言い難いが、この時期この人の教えを受けたことは非常にプラスであったと今でも感謝している。
 この二年後、YSも四機に増え、R4Dからの転換者に新着任の若いパイロットも加わってパイロット陣が充実したところで、佃三佐、越浦一尉は、共に民間航空会社の乗員養成所の教官として転出される。
 訓練は順調に進み、越浦一尉と二人揃って検定に無事合格。お互い右席、左席交替しながらソロ飛行を済ませた。

 YS二機にパイロットが四人、過不足なしである。
 連日のように定期便、臨時便で全国の飛行場を飛び回る。それに週末は募集のための広報飛行が入る。
 当時の定期便は、R4Dで三日間かけて各地を一巡する、通称「三日定期」であった。
 起点は当然鹿屋で、寄港地は大村、小月、徳島、羽田(厚木に海自部隊がいない時代なので、東京所在部隊関連の要務のために、連絡所が設置され数名の隊員がいた)、木更津(航空補給物品の搬出入が多い)、下総、宇都宮(教育航空集団、宇都宮教育航空群が所在していた)及び八戸である。
 当初YSによる定期便も、R4Dのそれに準じて飛行していたが、巡航速力がR4Dの倍近いYSの場合は非効率だということで、後に行程を二日に改めた「二日定期」に変更された。
 毎週一回か二回、決まりきったコースを飛行していると、航空路の針路、距離、無線施設の周波数などすっかり暗記してしまい、上層の風を聞いただけで瞬時に所要時間いくらいくら、と実際に計算した結果と寸分違わない答えが出せるまでになる。