翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

S2F‐1 (2)

「これこそヒコウキーッ」
 SNJでは、操縦のカンどころがわかるようになってそう感じるようになったものであるが、S2Fでは初めてコックピットに座ったとたんにそう思った。
 新しい飛行機の、自動車感覚のスッキリした計器盤、小振りで機能的なスイッチ類などもそれはそれで悪くない。ただ愛着が湧かないというか血が通わないというか、何かよそよそしいのである。
 このS2Fはどうだ。計器、スイッチ類、レバーのたぐい、無骨でスマートではないが、いかにも信頼感があってどこか温かいのである。
 スイッチポンのジェットエンジンと異なり、クインクインクインとスターターを回して掛けるエンジン起動も、いかにも自分が起動したという実感があり、さあひと踏ん張り頼むぞ、という思い入れがある。飛行気乗りとしてはいささかアナクロながら、実感である。
 S2Fは空母搭載用の機体なので、いくつかの特別な装備がある。
 まず、折り畳み式の主翼。
 艦載機は格納場所が狭いので、大抵の機種は主翼(ヘリであればローター)が折り畳める構造になっている。S2Fの場合もレバーの操作ひとつで油圧が作動して、両エンジンのすぐ外側から主翼が折れ曲がって背中で交差する形に畳まれる。蝶番の角度が少し違えてあるので翼同士がぶつかることはない。
 自衛隊の各基地で行なわれる航空祭などの行事に、地上展示機として参加したときなど、指定の展示場所に停めたところでおもむろにこれをやると、これが結構受けた。
 蛇足ながら、飛行中に折れ曲がって墜落という事態にならないよう、主脚が降りていてしかも機体の重量が車輸にかかった状態でなければ、レバーが動かないようになっている。
 次に着艦フック。
 数万トンの巨大空母でも、着艦した飛行機がのんびリプレーキで停止できるほど飛行甲板は長くない。そこで甲板上にワイヤーを張っておき、着艦した航空機は尾部につけたフツクでこのワイヤーを引っ掛けて停止する。ワイヤーの両端には緩衝装置が付いていて、ワイヤーが切れたり乗員が怪我をするほどの急停止が起きない仕組みになっている。
 S2Fの着艦フックは格納状態では地上数十センチの位置にあるが、着艦する(海上自衛隊ではそんな機会はないが……)場合にはスプリングの力で甲板上路面に押し付けられ、ほぼ一〇〇パーセントの確実さでワイヤーを掴み止める。
 じつは岩国、厚木の飛行場の滑走路にも、訓練のためとブレーキが故障したジェット機の緊急用に、このワイヤーが張ってある。ワイヤーはゴムの円盤で滑走路面一〇センチほどの高さに浮かせてある。
 離着陸する場合、S2Fはフックを下げることはないので、張ってあるワイヤーに掛かることはない……はずなのだが、これがしばしば起こるのである。
 その原因はゴムの円盤にある。タイヤが、浮かせて張ってあるワイヤーを踏むとゴムの円盤がたわんで一瞬後ワイヤーと共に跳ね上がる。跳ねたワイヤーが、タイミング良くというか悪くというか、上を通り掛かったフックに掛かる、というわけである。
 連続離着陸。
「ようし、今の着陸は良かった。レッツゴー!」
 パワーを一杯に入れて離陸に移る。
「あ、全然加速しない。ん?止まってる……ああ、あれか」
 といった具合で、ノーショック、ワイヤー両サイドに付いた緩衝装置の威力は絶大である。
 米軍の係員が駆けつけて来る。後始末に約二〇分、この間、飛行中の航空機は付近で待機を余儀なくされる。ごめん、でもわざとじゃない。