翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

S2F‐1 (3)

 S2Fの戦術はMAD抜きには語れない。
 私は臨時雇いのVSパイロットで、戦術飛行は一応経験してはいるが、熟達しているとは言い難いので、アウトラインのみを述べる。
 MAD戦術は、目には見えないけれどグラウンドのそこらをウロウロしているはずの一匹のアリを、ロードローラーで礫いてやろうというのと同じである。
 ついさっきまで居た場所がわかれば、その周囲をグルグルと回って円周を横切ろうとするところをMAD探知する。ただ円が大き過ぎると、通過と次の通過の合間に通り過ぎられてしまう、ということもある。しかし、同じ円周上を二機、三機で回っていれば、ほぼ確実に捕捉できる。
 S2Fの場合は、三機、四機での行動が多いので、MAD戦術の有効性は高い。この場合、三機なら三機、四機なら四機が、旋回の中心に対して点対称の位置にいるように飛行する。
 旋回を小さくしたり、大きくしたりして前後の間隔を調整するのである。
 仮に単機であっても、その運動性にものを言わせて、速度を落として旋回半径を小さくして、通過の頻度を上げることができる。フラップを少し下げて、速度を極限まで減らし、半径五〇〇ヤード(四五〇メートル)で旋回することもある。これだと潜水艦の進行方向に中心をずらしながら、円運動の連続で追尾を続けることもできる。
 いったん捕捉した後も、複数機で目標潜水艦の針路を追い、横方向から抑え、を繰り返して連続しての追尾が可能である。もし探知がとぎれても、各機が飛行する場所をほんの少しずつずらすことで元のコースの左右を探ることができる。
 ある区域を徹底的に捜索する場合のMADスイープという戦術では、四機ほどが横一列に並んで、端からくまなく走査する。小坊主が並んで本堂の雑巾掛けをするようなものである。
 この戦術では特に、編隊長の号令一下、一糸乱れぬ行動が要求される。
 横一列で、と口で言うのは簡単でもそれが超低空でのこと、左右同時に横目を使いつつ、飛行計器、エンジン計器からも目を離さないという離れ業が必要で、緊張感はひととおりでないが、これが何とかこなせるようになってはじめて、S2Fのパイロットとして認知される。

 編隊飛行の技能は、S2Fのパイロットにとっては、蕎麦屋の出前持ちの自転車片手乗りのようなもので、できなきゃショウバイにならないほどのものである。
 したがって、訓練もシビアで、接触を怖がってきっちり編隊を組めない者がいると、乱暴な話だが、編隊長はいやでも(編隊)長機に近寄らざるを得ないように、山に押し付けるような針路をとったりしたものだった。
 夜も編隊飛行をやる。この場合は暗いので、排気管から出る炎が頼りである。よその飛行場に行くときも何機か一緒の行動であれば、編隊を組んで行く。
 沖縄研修を兼ねて、那覇基地に飛行したときのこと。二機編隊での計器飛行方式、ただし天候は問題がなく飛行そのものは有視界飛行である。何事もなく那覇近くまで来て、GCAの誘導で進入を開始する。まだ二機編隊のままである。
 一番機が滑走路を視認したところで、二番機に編隊を離れて三六〇度旋回するよう指示が来る。一番機はそのまま進入、二番機は旋回を終了して改めて誘導を受けて一番機に続く……ことになるはずであった。ところが一向に旋回の指示は来ず、どんどん滑走路が近づいて来る。
 ここらで旋回したりしたら、かえって叱られそう。“えい、向こうが何も言わないんだから、このまま行ってやれ”と、一番機との距離を心持ち開いてそのまま着陸した。
 ジェット機と違って、P2V、S2Fなどでは編隊を組んだままの着陸はしない。なぜと言って、機体のサイズの関係で、後方の機がブレーキ故障を起こした場合などに、前方機の横をすり抜ける十分な余裕がないからである。
「すぐ後ろにいるぞ。ブレーキはそっと頼むよ」
 心に念じながら、こちらはブレーキで早めに減速する。一番機も心得ていてこちらとの距離が開くようにゆっくり減速してくれて、問題はなかった。ともあれ、自慢にもならないが、S2Fでの編隊着陸を経験した人はあまりいないだろう。