翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

地上勤務 (2)

 気象作業班は、ベテランの准尉以下数人の班員がおり、気象端末に入ってくる気象データや画像その他をもとに、実況天気図、予想天気図などを作成する作業に当たる。私は名目だけの班長で、実際の作業は気象幕僚が掌握している。朝のオペレーションでは、気象幕僚は作成した天気図を使用して司令官に気象状況を報告する。
 ある日、気象幕僚が不在ということで、私が代役を仰せつかった。
「気象幕僚が不在ですので、私が報告致したいと思いますが、聞いていただけましょうか」
「君は航空気象を勉強したんだろう。立派な専門家のはずだな」
 隣席の矢板幕僚長から一言。ギク……そっと顔を見やると目が笑っている。お手並み拝見という感じである。
「いいよ。しっかり聞くよ」
 中村司令官、おうように笑顔で答えて下さる。
「ということで、この前線が少し北上した場合は、その……」
「天気はぐずつく、いわゆるナタネ梅雨というわけだ」
「は、そういうことです」
 目から鼻のこの司令官には、天気図をお目にかけるだけで説明など必要なかったようである。

 着任後一年一〇カ月が過ぎた、昭和五十二年(一九七七年)二月のこと。
「どうやら一人前の運用作業班長になったようだから、出してやろう。六一空」
 航空集団司令官に転出された矢板海将の後任の幕僚長江上純一海将(海兵七一期)から、言い渡され、やっとまたがった机から下りられることになった。
 みぞれの降る中、厚木に移動。
「おお、来たか。手が足りんから、早いとこ再練成を済ませて、戦列に参加してくれ」
 司令は、私が最初にYSの操縦を習った宮内更生一佐。気心の知れた上官である。
「司令、鼻の下にススが付いているようですが」
「うるさい。これはヒゲだ」
 この人、ちょくちょくヒゲを伸ばしたり落としたりするのである。しばらく会わないうちにまた伸ばしてる。細面によく似合うなかなか立派なヒゲなのだが、ちょいと冗談を言ったら、叱られてしまった。
「再練成」とは、地上配置にいた搭乗員が飛行隊に戻った場合に行なう、言わば技量回復訓練である。司令の言葉どおり一週間ほどの集中訓練で、機長の仲間入り。とは言っても、この飛行隊、ベテラン中のベテラン揃いで、この一月三佐に昇任したとはいえ、飛行時間六〇〇〇時間少々の私などは、まだほんのヒヨッ子、 一〇〇〇〇時間前後という超々ベテランも何人かいる。
フライトの方は昔取った杵柄で、なんの支障もなく昔の感覚に戻り、輸送便の運航も基本的には往時と変わりないのですぐになじめた。