翔べ!海上自衛隊航空学生 - パイロット人生38年の航跡 -

岡崎 拓生

地上勤務 (3)

 S2F‐Uという航空機がある。S2Fの改造型で、世界中でこの六一空にだけあった。
 二名までの人員と多少の貨物なら輸送できるので、その方面でも使われているが、本職は別にある。標的を曳航して、艦艇の射撃訓練を支援するのである。
 S2F‐Uの機内には、標的をやったりとったりするウィンチがあり、ドラムには細いワイヤーが一〇〇〇〇ヤード近く巻いてある。機体後尾の、元はMAD(磁探)のアンテナがあった場所を改造して、そこからワイヤーにつけた標的を送り出すようになっている。標的は網状の生地でできた吹き流しである。
 訓練海面に着くと、艦艇と連絡、標的を送り出して目標機としての行動に移る。
 飛行パターンは大別すると二種類ある。一つは艦艇の脇を通過するやり方で、もう一つは艦艇の上空を通過するやり方である。艦艇にすれば、前者では他の艦を攻撃しようとする目標の射撃、後者では自艦を攻撃してくる目標の射撃を訓練するわけである。
「進入を開始する」
「了解」
 艦艇めがけて進入して行く。艦上の砲が揃ってこちらを向いているのが見えてくる。狙っているのが数千ヤード後方に曳いている吹き流しだとわかってはいても、あまり気持ちの良いものではない。
 艦艇から見て、曳航機と標的の角度がある程度開いた時点、つまりこちらがかなり艦艇に近づいた時点で射撃が始まる。中には早撃ちマックばりの射撃指揮官もいて、まだ距離のあるうちに砲口からパツパツと煙が噴き始め、
「まだ撃つな! 撃ち落とす気か!」
 大慌てに慌てて怒鳴ったこともある。
 まれにワイヤーに命中させる名射手もいる。ゴン、という軽いショックと同時に一瞬機体が軽くなったように感じる。もちろんワイヤーは切れて、吹き流しは波の上である。改めてワイヤーを巻き取り、吹き流しを付け直すことになる。
 訓練が終了すると、ワイヤーの先端部分から吹き流しを切り離して海上に落とす。いったんウインチで巻き取るには抵抗が大きく時間もかかる。そこで、小さな切断機をワイヤーにはめて後方に流す。切断機が末端に達すると、火薬が作動してワイヤーを切断する。
 艦艇側ではその吹き流しを揚収して弾着を確認する。弾丸の先端にはそれぞれ赤、青、黄などの塗料が塗ってあるので、弾丸が開けた孔に付着した色で、何番砲が命中したかがわかるのである。
 こんなふうに、S2F‐Uは、射撃訓練に欠かせない存在として活躍していたのであるが、なにしろ鈍速、訓練効果ということになると不十分であったと言わざるを得ない。
 その後、この標的曳航は、より高速なP‐2Jの改造型UP‐2Jに引き継がれ、更にU‐36A (リアジエット)に引き継がれて、より実際的な射撃訓練ができるようになった。

 上司、先輩、同僚に恵まれて、YSでの輸送業務、S2F‐Uでの訓練支援と、気持ち良く勤務しているところへ、幸か不幸か幹部学校の合格通知が届いた。幸か不幸かとは不届きな言い方であるが、やっと飛行機に乗れる身になったところ、もう少しこのままでいたくもあり、合否どっちでもいいという気でいたのだった。
 しかし、受験するからには恥ずかしい成績を取ったのでは、私を推してくれた司令ほかの方にも申し訳ない。ベストを尽くして補欠ぐらいなら万々歳、と思っていたら受かったという次第で、YS飛行隊勤務たったの一〇カ月で、幹部学校に入校することになった。
 同じ航学三期生、三空の高野光幸三佐も同時入校である。彼は後に定年に数年を残して、割愛(自衛隊と会社の合意によってパイロットを民間に出す制度)によって民間航空会社に転出し、大いに活躍している。