『日米共同の現場からーRIMPAC指揮官インタビュー』

今回は、6月23日から8月1日の間実施された、「リムパック2010」に海上自衛隊指揮官として参加された前第1護衛隊群司令山下万喜海将補(50)にお話を伺いました。
山下海将補は帰国直後、8月20日付で潜水艦隊司令部幕僚長にご転任という慌しい中、10月6日(水)、横須賀の潜水艦隊司令部で快くインタビューに応じていただきました。

(インタビュアー:山田道雄理事)

前第1護衛隊群司令  海将補 山下 万喜(やました かずき)

昭和35年 8月2日熊本県出身
昭和58年 防衛大学校卒業(27期)
平成 9年 2等海佐
平成11年 まつゆき艦長
平成14年 1等海佐
平成16年 海幕防衛課防衛班長
平成17年 第3護衛隊司令
平成19年 海幕補任課長
平成20年 海将補、第1護衛隊群司令
平成22年 潜水艦隊司令部幕僚長

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――山下将補、本日はお忙しい中、お時間をいただきまして有り難うございました。
まずは「リムパック2010」への参加大変お疲れ様でした。
早速ですが、冷戦終結後、特に近年リムパックの性格、訓練内容にも変化があるようですが今回のリムパック2010の特徴を簡単にご説明下さい。

山下
 後ほどの質問で詳しくお話しすることなると思いますが、RIMPAC2010の特徴を簡単に申し上げますと、訓練全体のイメージとして戦闘に係るものを重視した訓練から、戦闘以外の分野を含む幅広いものへと変化したこと。参加国の数が過去に比較してかなり多くなり、しかも海上兵力に陸や空の兵力が加わり参加形態が多様化していること。わが国の参加についても、護衛艦2隻、潜水艦1隻及び航空機3機と過去との比較においてその規模が縮小、護衛艦部隊が初めて多国間訓練に参加したことなどがあげられます。

――今回海上自衛隊からはどのような部隊が参加したのでしょうか。

山下
参加部隊としては、従来と同じように護衛艦、潜水艦、航空の三つの部隊で参加しております。護衛艦部隊は「あたご」「あけぼの」の2隻、潜水艦部隊は「もちしお」1隻、航空部隊は哨戒機P-3C 3機が参加し、それぞれ私(第1護衛隊群司令)、もちしお艦長、第511飛行隊長が指揮官を務めました。

――1980年に日本が初めてリムパックに参加してちょうど30年の節目にあたりますが、近年において今回の海自参加部隊の規模は大変小さいように思われますが、何か特別の理由があるのでしょうか。
訓練内容にも変化が生じてきているのでしょうか。

山下
 参加規模につきましては、護衛艦、航空機とも確かに少なくなっています。規模をどうするかについては、実際に参加した私が申し上げることではありませんが、アデン湾での海賊対処任務等や国内での即応体制の維持等様々な要素を考慮されて決められたものと思います。
 ただ、参加規模が縮小されたとしても派遣部隊としては従来と同じように戦術技量の向上ということを目的として参加しております。
訓練の中味については従来の対潜戦と対水上戦、対空戦といった戦闘中心のものから、戦闘以外のものを含めた内容に変わって来ている、いわゆる幅が広くなっているなとは感じました。

――韓国は初めてイージス艦が参加したと聞いていますが、日本以外ではどのような国からどのような部隊が参加してきたのでしょうか。それら各国海軍の印象はいかがでしたか。

山下
 参加国、部隊等については次表のとおり、従来から参加している米、日、カナダ、豪州、チリ、オランダ、ペルー、韓国、シンガポールの9カ国に加えて、今回初めてフランス、コロンビア、インドネシア、タイ、トンガ、マレーシアの6カ国が参加し、インドとニュージーランドがオブザーバーを派遣しました。

 各国ともそれぞれ政治的な事情も参加部隊の規模、能力も様々でした。しかしながら、今回の訓練に際して米3艦隊司令官から示された「Combined Agility, Synergy and Support」という方針を受け、各国海軍は自らできる範囲において個々の訓練目的を達成できるよう積極的に活動しつつ、加えて参加国が増えた中においても相互の信頼関係の構築、環太平洋の国々が集まって何か国際貢献になるようなことをしようとしている意思が伝わってきました。


――日本の参加はちょうど新冷戦と呼ばれたソ連のアフガニスタン侵攻を契機として始まった米ソの緊張関係の中で始まったわけですが、その後冷戦の終結を迎え、安全保障環境が大きく変わったことにより日本の参加目的あるいは意義というものは変化したのでしょうか。

山下
 わが国のリムパック訓練への参加目的や意義はあくまでも戦術技量の向上であり、今回でリムパックの参加は16回目になりますが、その時々の安全保障環境を踏まえ計画実施されるリムパックという訓練機会を最大限活用しながら、戦術技量の向上に努めてきました。その意味では大きな違いは無いと思います。

ただ、最近はリムパックそのものの訓練内容が戦闘にかかわるものから戦闘以外の軍事活動の分野まで幅広くなりつつあり、そういった訓練を通じて幅広い分野での戦術技量の向上を目指すという方向に変化しつつあります。
  日本については、多国間訓練への参加としては平成12年の西太平洋潜水艦救難訓練が初めてだと思いますが、それ以降戦闘以外の幅広い分野での訓練に参加して来て、今回リムパックにおいてもそれらの分野での訓練にある程度参加したということです。

――リムパックの参加目的に戦術技量の向上があげられていますが、今回の訓練のテーマはどのようなもので、成果は如何でしたか。
また、その成果は今後の海自の訓練や業務運営にどの程度活用できるのでしょうか。

山下
 戦術技量の向上の中でも、射撃とか魚雷発射といった戦闘分野のものは従来どおり米軍施設を使用して実施しました。今回、護衛艦部隊としては初めて戦闘以外の分野での多国間シナリオ訓練に参加しました。
初めてそういった訓練に参加するに当り、護衛艦部隊については下記に示す「2つのチャレンジ、4つのアプローチ」を頭に入れて実施してきました。

● 海自の新たなチャレンジ
  -2つのチャレンジ
・「できない」から「できる」
・国際社会(特にアジア太平洋地域)における立ち位置の模索
  -4つのアプローチ
・ 警戒監視、立ち入り検査 / 海賊対処、捜索救難、機雷排除

戦闘行為を伴う軍事活動は多国間の枠組みでは「できない」という憲法等の制約の中で、戦闘行為を伴わない場合、何が「できない」という事ではなくて、何が「できる」かという観点から、「こうすればできるんだ」という事が言えるようになろうという意識を改革をする。
そういった姿勢の中で国際社会、特にアジア太平洋地域の平和と安定にどうすれば寄与できるかと言う、日本として、海上自衛隊としての立ち位置を模索するという2つのチャレンジをして行こうという意識を持ちました。

戦闘行為を伴わない軍事活動のうち警戒監視、海賊対処を含むイメージの立入検査、捜索救難、機雷排除という4つの項目を訓練内容として捉えながらアプローチして行こう、と考えてきました。これらを4つのアプローチをテーマとして考えるに当り、戦闘行為を伴わない軍事的活動、NCMO(ノコモ)(Non Combatant Military Operation)という概念を持った上で訓練をやって来たということです。

多国間シナリオ訓練においてこのコンセプトの中で何ができるかをチャレンジしてきました。いずれも政治的な制約の中でそのような海上自衛隊のチャレンジが各国からも米国からも理解され、最終的には高い評価を得て、所望の成果をあげることができたものと思います。

NCMO(Non Combatant Military Operation)コンセプトを提示
-戦闘行動を伴わない軍事活動に焦点
-参加各国の国内事情や政治的制約に配慮した上で役割分担

―>海自の諸制約に理解を示しつつ、大きな期待を表明

――リムパックは多国間枠組みの訓練ですが、その中で米海軍との共同訓練の一つとして日本は参加して来たわけですが、実際に参加してこの多国間訓練の中で日米共同の意義とか、位置づけとか役割について伺います。

山下
 今回リムパックは多国間の訓練です、ということ。それに今回のリムパックの参加そのものが従来のようなバイラテラルという意味での日米共同訓練ではなく、多国間そのものに参加したということです。これは護衛艦部隊だけのことですが。

その中で日米の共同の意義、位置づけについては、我々は(多国間の)シナリオ訓練の中では戦闘行為が出来ない、その中において出来るものについてのチャレンジということでNCMO(ノコモ)というものを考えた上での4つのアプローチという、4つの訓練を中心に捉えて今回やって来ました。

やはり重要なポイントはそういった役割分担、できることをどれだけ日米の共同の中でお互い調整しながらやっていくかということが重要なポイントになってきますので、そのものが将来の国際社会の平和と安定のための日米間の役割分担の中で日本の立ち位置を左右するものではないかと考えております。

 米国も(多国間シナリオの枠組みの中で)日本は戦闘行為そのものができないことを十分承知しておりますし、その上で海自が一定のシナリオの中において、どれだけ米国と役割分担をやっていけるのかという所は大きなポイントだったと思います。
これは最後の会議でおいて色々な国の参加者と話す機会がありましたが、日米がそういった姿を見せていることについて、ほかのアジア諸国、特に西太平洋の参加国については一定の期待をしているなということが感じ取れました。

――リムパック参加の初期の頃は参加隊員もいわゆる「ねじり鉢巻」といいますか、かなり悲壮な気持ちで訓練に臨んだと聞いています。今回隊員の方々の意識はどうでしたでしょうか。また、実際に参加して隊員の方々はどのような印象を持たれたのでしょうか。

山下
 参加に当り私の方から護衛艦部隊に訓辞をした中で、今回は今までとは違う、中味が違うと、多国間訓練に参加してその中で海上自衛隊が何をやるかという事を正に試されているというか、模索しなければいけないということを各人に伝えました。
そのためにはみんなが一人一人考えてそれぞれの用いるポジション、用いる能力をもってどういったことが出来るか一緒に考えないとこのリムパックそのものは成功裡には終わらないし、そういった問題意識を持った上で一人一人が挑戦するんだ、そして訓練が終わって3ヵ月後にここに帰って来る時には、皆それぞれの配置において成果を持って帰る、そういう気持ちでやって来てくれと訓示しました。

やはり、ねじり鉢巻でやっていたことについては全く同じです。
当然システムを用いた射撃や魚雷発射等についても、従来どおり今までにやったことがない所にチャレンジしておりますし、(多国間シナリオ訓練における)戦闘行為が伴わない中における我々の活動においても、正にそれぞれの船が立入検査をどのようにするのか、あるいは警戒監視をどうするのか、艦長以下一人一人が何をするのか考えながらやっていかなければいけないという高い意識がありました。

訓練が終わって帰って来た時に皆を集めてどうだったと顔を見たのですが、皆満足して帰ってきたものと確信しました。
ねじり鉢巻のやり方が違うのかも知りませんが、新しい事にチャレンジして来てそれなりの成果を持って帰ったということについては、従来と同じだったのではないかと思います。

――国際親善という視点からは14カ国が参加した今回のリムパック2010は非常によい機会だったと思われます。更にカナダでの国際観艦式にも参加されたそうですが、そうした場において何か印象的なエピソードがあればご紹介いただけますでしょうか。

山下
 今回派遣全般を通して3ヶ月の期間でしたが、リムパックを含めて8つの共同訓練、親善訓練を実施し、これ自体が異例ですが、カナダの観艦式に参加した艦殆どがハワイに移動してリムパックに参加したということもあり、米国を中心として各国の艦艇といわゆるミニーリムパックといわれるくらい多くの訓練をしました。

派遣期間中いろんな国の艦艇と洋上で過ごしてきたのですが、これらの訓練を通じて知り得た各部隊の指揮官の顔とか声は未だに覚えております。リムパック期間中はこれに加えて、3艦隊司令官と一緒に殆どの船を訪問して各指揮官と話をする機会を得たということもありますので、各指揮官の性格的なことも知ることができました。

面白かったのは、特にリムパックが終わってからも日韓、日米、日シンガポールの訓練をやりましたが、その中で今出来るのか、いや時間をずらした方がいいのでは、といった訓練調整の判断しなければならないような場面がありましたが、そのような時その部隊指揮官、艦長の顔が浮かんでくるという経験をしました。
海上自衛隊では当然同じような状況を経験していますが、私自身としては、部隊指揮官レベルでのこういった単なる「親善」を超えた「信頼」関係の中で、我々が何か共通の目的を持って一緒にやっていくことができそうな感蝕を持ちました。
今回のリムパック2010に参加して、私にとりこの体験は大変印象的で、貴重な生涯の財産となりました。

――今回新しい訓練環境にチャレンジされ、日米のみならず多国間においても訓練内容や信頼醸成にかなりの深化があり大きな成果を収められたことが、お話を伺ってよく分りました。
最後に、部隊指揮官の立場からリムパックを含め日米共同訓練は今後どのような方向に進むとお考えですか。

山下
 日米協同訓練は軍事的な観点から、わが国領域、わが国周辺、更には周辺以外での平和と安定にかかわる地域という3つのディメンジョンで捉えられます。
こういった活動の場においてその内容も、戦闘行為そのものから戦闘行為を伴わないものまで幅広く考えられます。

戦闘行為を中心とした訓練は海上自衛隊などの共同訓練の場において追及される一方、戦闘行為を伴わない訓練についてはリムパックのような多国間の枠組みでの訓練機会が増加することになると思います。
特に、リムパックは今後とも国際社会の平和と安定を強く意識した、戦闘行為を伴わない訓練形態を継続し、広く関係諸国に訓練への参加を募っていくものと思われます。

(リムパック訓練中の写真はすべて海上自衛隊提供)