山下塾第2弾

山下 輝男

第5回講座 東日本大震災における危機管理(4)
事故調以外の危機管理上の論点(論点1~4)

 今週から2回にわたり、事故調中間報告に記載されている事項について小生が危機管理上問題であると認識している事項について説明します。先ず8項目にはどのようなものがあるかを次のスライドでお示しします。
 
 
事故調報告以外の危機管理上の論点はスライドの8項目です。

 事件・事故或いは地震等の自然災害は、戦術行動で言えば、不期遭遇戦です。敵と不意に遭遇した場合において、敵に勝利するためには、先制・主動権の確保が極めて重要です。
 先制主動権確保のために為すべき処置はスライドにあるとおりです。先手先手と敵に対応の暇を与えぬことが重要です。目の前の状況対応に忙殺され、もぐら叩きに終始し、状況をコントロールできないのです。当初は確かにもぐら叩きでしょうが、速やかに組織的対応に移行すべきです。そして決定的な時と場所に対応手段を投入すべきなのです。
今次原発対応では、後手後手という印象を受けます。

 危機において「和をもって尊しと為す」的対応では先制主動権を奪回出来ません。明確な企図のもとにそれを確実に実行させる断固たる指揮権が重要です。強力な司令部とそれを実施し得る実動組織があってこそ、事態をコントロールできるのです。そのために重要なことはスライドに示しておりますが、トップリーダーとそれを補佐する機能的な組織が必要です。

時には、超法規的対応も必要なのでしょう。或いは超法規的とも云えるような行動がとれるような権限を予め与えておくことも必要です。我が国の国家中枢組織はこのような観点からは大いに問題があると云えるでしょう。
 今次大震災の対応においてはスライドにお示ししているような臨時の組織が多数設置されました。法的に設置が義務付けられている組織以外に何と多くの組織があることでしょう。業務内容や権限や或いはそれを実行に移すべき実動部隊は一体どうなっているのでしょうか?実動組織を持たず、役割分担も曖昧なままの組織がうまく機能する筈がありません。組織を作れば何とかなると思っていたのであればそれはとんでもない思い違いでしょう。

 そういう意味においては、既存組織を最大限活用すべきです。気になるのは、日本の優秀な官僚組織が何故か動きが鈍かったのではないかと云うことです。どうなのでしょう。政治主導の歪なのでしょうか?
 国民が不安を感じたのは何故でしょうか?それは国や東電が原発をコントロールできないのではないかと危惧したことです。直ちに事態収拾策を示すべきであるとは言いませんが、可能な限り早く国民にそれを提示して安心感を与えるべきです。ベストな案である必要はないでしょう。当初は当然粗々な計画でしょうが、それでも構いません。
 原子炉の廃炉決心が遅かったから結局事態収拾策を示せなかったのでしょうか?それらが今後明らかにされることを望みたいと思います。
 
 原発収束に向けたロードマップです。
 

 論点の第4は、悲観最悪の原則についてです。政府や東電は事態をどのように認識していたのでしょうか?最悪の事態を考えていたのかと疑問に思っていましたが、大晦日に報道されたところによると不測事態シナリオは事故発生直後に策定していたとのことでした。
問題は、それを公表にしなかったことになります。パニックになる可能性があったからと云いますが、最悪の事態を提示してもパニックを起こさないようにするのが国家指導者の責任でしょう。日本人は冷静に対応できるはずだと小生は信じています。
 
 最悪シナリオの策定を報じる新聞記事です。
 
 事故を過小評価したいという意識が滲んでいるような気がしますが、どうでしょう。国際原子力事象評価尺度も渋々引き上げたのではないかと疑いたくなります。事態の過小評価が事後の対策に影響を及ぼさなかったと云えるでしょうか?
 
 評価尺度と引上げ状況を示しています。
 
 避難区域の設定についても少しづつ拡大していますが、最悪の事態を想定し、住民の安全を守るという最も基本的な姿勢が欠如していると言えます。