山下塾第5弾

山下 輝男

第一話 「任務・役割の拡大」

1 自衛隊の任務の拡大

 自衛隊発足当時の任務は、「自衛隊は、わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当るものとする。」(自衛隊法(昭和29年6月9日法律第165号による制定時)第3条)とされた。

 警察予備隊が保安隊に改編された時点で、更に自衛隊に変遷した時点で、警察予備隊の「警察力を補う/警察の任務の範囲に限られる」としてあくまで軍隊とは一線を画する警察部隊としての性格を強調していたが、これが削除されて、明確に国防目的を謳い、秩序の維持は明確に副次的目的とされた。段階的逐次に、警察目的的性格が希薄となり、逆に国防目的的性格が強調されてきた。

 現行法においては、自衛隊の任務は次のように規定されている。
「1 自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。
 2 自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であって、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。
 一 我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動
 二 国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動」
   (自衛隊法第3条)


 2項第一は、周辺事態対処と呼ばれるものであり、同じく第二は国際平和協力活動と呼ばれるものであり、その趣旨等を次の(2)(3)項で述べる。
 尚、平成19年1月の改正で、第1項公共の秩序の維持任務には在外邦人の輸送が含まれることとなった。

(1)周辺事態安全確保法(1999年(平成11年)5月28日法律第60号)に規定される行動
 本法は、周辺事態が発生した時の日本の対応などを定めたものである。即ち、そのまま放置すれば、日本に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等、日本周辺の地域における日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態(「周辺事態」)に対応して日本が実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項を定め、日米安保条約の効果的な運用に寄与し、日本の平和及び安全の確保に資することを目的としている。
 自衛隊の行動は、自国の領域において脅威が発生した場合のみであるが、この法律において、放置すれば日本に脅威をもたらす場合にも必要な行動をとる事を可能となった。
 具体的には、次のような行動が想定されている。
・後方地域支援
・後方地域捜索救助活動
・船舶検査活動(船舶検査活動法に規定するもの)
 周辺事態は明瞭な地理的区分に基づいた概念ではなく、その情勢の性質に基づいたものである。従って周辺事態は日本の平和と安全に重大な影響を与える実力行使を伴う武力紛争が生じる情勢だと定義できる。つまり、周辺事態には外敵による大規模な直接侵略だけではなく、ゲリラや工作員によるテロリズム等が想定される。他方、膨大な難民の発生なども含まれる。朝鮮半島有事における脱北者や武装難民が想定される。
 具体的には、日本周辺で起こる以下のような事態が周辺事態の例とされる。
・武力紛争が発生している場合
・武力紛争の発生が差し迫っている場合
・武力紛争は停止したが、秩序が回復していない場合
・ある国の政治体制の混乱で大量の難民が発生し、日本への流入の可能性が高い場合
・ある国の行為が国連安保理で平和への脅威と決定され、経済制裁の対象となる場合
・ある国で内戦が発生し、国際的に拡大する可能性が高い場合

(2)国際平和協力活動
 国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(1992(平成4)年6月19日法律第79号)(略称:国際平和協力法、PKO協力法)に基づく活動である。
 国連によるPKO活動のほか、国連その他の国際機関等が行う人道的な国際救援活動に参加するための文民や自衛隊海外派遣の根拠となる。
 国際平和協力活動は、従来は自衛隊法第8章に規定される「付随的な業務」とされていた。然しながら、新たな安全保障環境においては、国際社会の平和と安定が我が国の平和と安全に密接に結びついているという認識を踏まえ、2007年(平成19年)、国際平和協力活動は我が国の防衛や公共の秩序の維持といった任務と並ぶ自衛隊の本来任務に位置付けられた。
 自衛隊による国際平和協力活動を図示すれば次の通りである。



PKO協力法に基づく主要な活動は
・国連平和維持活動
・人道的な国際救援活動
・国際的な選挙監視活動
・上記活動のための物資協力  である。



2 自衛隊の行動の拡大

 自衛隊の行動は、自衛隊法第6章に「自衛隊の行動」として規定されている。国際的には、軍隊が行う行動は、「ネガティブリスト」方式で、実施してはならない行動を主眼に規定されているが、自衛隊の行動は、先の戦争の影響、自衛隊が警察予備隊として発足した経緯や自衛隊創設にかかわった内務官僚の影響等により、所謂「ポジティブリスト」方式であり、行うことが出来る行動として法律に規定されている。
 冷戦期においては、「災害派遣」「領空侵犯に対する措置」及び「機雷の除去」以外の行動は自衛隊法に規定もされず、従って実施されることもなかった。21世紀に入り、米国同時多発テロ事件の勃発やソマリア沖の海賊の跋扈等の国際情勢の変化、北朝鮮の不審船事案や弾道ミサイル発射等に安全保障環境の変化により、自衛隊の行動は格段に拡大されている。
 その状況は下表のとおりである。12番目以降が追加された任務である。備考欄には新たに追加された年を記している。

行動名根拠条項発令条件等発令権者行動内容備考
1 防衛出動76条外部からの武力攻撃もしくはそれが切迫している場合内閣総理大臣必要な武力を行使(88条)発令実績なし
2 防衛出動待機命令77条防衛出動命令が発せられることが予測される場合内閣総理大臣の承認のもと防衛大臣防衛出動待機発令実績なし
3 命令による治安出動78条一般の警察力では治安が維持できない場合内閣総理大臣(国会の承認)警察と同等な治安維持活動の実施発令実績なし
4治安出動待機命令79条治安出動命令が発せられることが予測される場合内閣総理大臣の承認のもと防衛大臣治安出動待機発令実績なし
5 治安出動下令前に行う情報収集79条の2治安出動命令が発せられることが予測される場合及び武器を用いた不法行為が予測される場合(内閣総理大臣の承認の下)防衛大臣情報の収集韓国江陵事件がトリガーとなって2001年追加
発令実績なし
6 海上保安庁の統制80条防衛出動及び治安出動時内閣総理大臣海上保安庁を防衛大臣の統制下に置く発令実績なし
7 要請による治安出動81条安維持上重大な事態に際し、都道府県知事の要請がある場合内閣総理大臣警察と同等な治安維持活動の実施発令実績なし
8 海上における警備行動82条海上における治安維持のため、特別の必要がある場合。内閣総理大臣の承認の下
防衛大臣
海上における必要な行動能登半島沖不審船事件やソマリア沖海賊の対策部隊派遣時に発令実績あり
9 災害派遣83条都道府県知事その他政令で定める者からの要請防衛大臣又はその指定する者災害救援活動の実施。部隊近傍の災害に対しては、部隊長自身が部隊派遣を発令。発令実績多数。
10 領空侵犯に対する措置84条領空侵犯事案の発生時防衛大臣領空からの退去ないし強制着陸措置の実施発令実績多数
11 機雷等の除去84条の2機雷等の除去の必要性が生じた場合防衛大臣 機雷等の除去2006年12月追加
発令実績多数
12 地震防災派遣83条の2大規模地震対策特別措置法に規定する地震災害警戒本部長(内閣総理大臣)からの要請 防衛大臣 地震防災応急対策等の実施 1978年追加。発令実績なし防衛大臣 地震防災応急対策等の実施1978年追加
発令実績なし
13 原子力災害派遣83条の3原子力災害対策特別措置法に規定する原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)からの要請 防衛大臣緊急事態応急対策の実施1999年に追加
福島第一原子力発電所事故対応の発令実績あり
14 自衛隊の施設等の警護出動81条の2重要な施設等を破壊する行為が行われる恐れがあり、それを防護する必要がある場合 内閣総理大臣自衛隊及びアメリカ軍施設等の警護2001年追加
発令実績なし
15 防御施設構築の措置77条の2防衛出動命令が発せられることが予測される場合同上防御施設の構築2003年改正により追加
発令実績なし
16 防衛出動下令前の行動関連措置77条の3防衛出動命令が発せられることが予測される場合防衛大臣米軍に対する物品や役務の提供等の支援関連法律制定に伴い2004年追加
発令実績なし
17 国民保護等派遣77条の4武力攻撃もしくはそれが切迫している場合、都道府県知事等からの要請があった場合内閣総理大臣の承認のもと防衛大臣国民保護措置及び緊急対処保護措置の実施関連法制定に伴い2004年追加
発令実績なし
18 弾道ミサイル等に対する破壊措置82条の3弾道ミサイル等により国内に被害が生じる恐れがある場合(内閣総理大臣の承認の下)
防衛大臣
状況により武器を使用し、弾道ミサイル等を破壊2005年追加
北朝鮮のミサイル発射実験時に対し、2013年までに4回の発令実績あり
19 在外邦人等の輸送84条の3外国における災害、騒乱等の緊急事態において外務大臣からの依頼時 防衛大臣緊急事態回避に向け、邦人、その他の人物等の輸送を実施 2006年追加
発令実績あり
20 後方地域支援等84条の4周辺事態や国外における災害発生時、PKO活動協力時防衛大臣又はその委任を受けた者後方地域支援としての物品等の提供2006年追加
21海賊対処行動82条の2海賊行為に対処するため特別の必要がある場合(内閣総理大臣の承認の下)
防衛大臣
(海賊対処法第7条による) 海賊対処行動関連法制定に伴い2009年に追加
ソマリア沖海賊の対策部隊派遣時に発令実績あり
22 国際緊急援助活動84条の4及び国際緊急援助法海外の地域において大規模な災害が発生し、または発生しようとしている場合要請があった場合に外務大臣と防衛大臣が協議国際緊急援助活動及び当該活動に係る輸送発令実績多数
23 国際平和協力業務84条の4及び国際平和協力法防衛大臣国際平和協力業務及び委託に基づく輸送多数

3 自衛隊が行った各行動等の実績

 前表で明示したように、防衛出動、治安出動、国民保護等派遣、警護出動については派遣実績はない。尚、国際緊急援助活動及び国際平和協力業務については、別途説明したい。

(1)災害派遣の実績等
・平成24年度まで 派遣回数37,626回、派遣延人員7,877,026人であり、近年は年500件以上である。
・災害派遣のうち、医療施設が不足している離島などの救急患者を航空機で緊急搬送する「急患輸送」70%以上を占めている。急患輸送に次いで多いのが消火支援でありその大半は自衛隊近傍の火災への対応である。
・自然災害への災害派遣も随時実施している。東日本大震災や阪神淡路大震災災害派遣をはじめとした自然災害への対応及び災害対処のために平素から各種施策に取り組んでいる。

(2)海上における警備行動
 発令された事例は以下のとおりである。
 ア 能登半島沖不審船事件(1999年)
 3月23日に発生した、不審船による日本領海侵犯事件が発生し、当該不審船が逃走を図ったので、海上自衛隊に海上自衛隊創設以来初の海上警備行動が発令され、同時に他国の官船・装備品に対する武器の使用が行われた。この事件を教訓に、平時における臨検を行うための特別警備隊及び護衛艦付き立入検査隊が創設されることとなった。
 イ 漢級原子力潜水艦領海侵犯事件(2004年)
 11月10日午後8時45分に海上自衛隊創設以来2度目となる海上警備行動が発令される。数日前から中国海軍(人民解放軍海軍)の原子力潜水艦が日本領海である先島諸島周辺海域を潜航しながら通過中であると海上自衛隊は認識した。中国政府は中国海軍所属潜水艦による日本領海侵犯を認めない中で、日本政府は国籍不明潜水艦として海上警備行動を発令した。海上自衛隊は護衛艦「くらま」「ゆうだち」及び航空機「P-3C」による追跡を行ったが、武器は使用しなかった。後日、中国政府は同潜水艦が中国海軍所属であったことを公式に認めた。

 ウ ソマリア沖の海賊対策(2009年)
 ソマリア沖やアデン湾で頻発する海賊行為に対処するため、国連安保理決議等に基づき、米国など多数の関係国が軍艦を派遣している。日本政府も海上自衛隊のソマリア沖への派遣を検討し始め、2009年3月13日、ソマリア沖・アデン湾における海賊行為対処のための海上警備行動を発令した。翌3月14日、海上自衛隊の護衛艦2隻をソマリアに向けて出航させている。その後、2009年6月19日に海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(海賊対処法)が成立したことから、新法施行の7月24日以降派遣部隊は護衛活動の根拠法を自衛隊法等に定められた海上警備行動から海賊対処法に切り替えて当該海域で警備行動を行っている。

(3)海賊対処行動
 ソマリア沖・アデン湾の海域は、年間約2000隻の日本関係船舶が通行するなど、日本の暮らしを支える重要な海上交通路であるが、近年この海域では、機関銃やロケット・ランチャーなどで武装した海賊による事案が多発・急増している。自衛隊は海賊対処法に基づき、派遣海賊対処行動水上部隊(護衛艦2隻)を派遣し、この海域を通行する船舶の護衛を実施するとともに、広大な海域における海賊対処をより効果的に行うため、派遣海賊対処行動航空隊(固定翼哨戒機2機)を現地(ジブチ共和国)に派遣して海賊の監視警戒を実施している。2011(平成23)年6月からは、派遣海賊対処行動航空隊を効率的かつ効果的に運用するため、ジブチ国際空港北西地区に活動拠点を整備し、活動拠点を運用している。 また、12(同24)年7月にジブチ現地調整所を新編した。総勢約600名の隊員が従事している。

(4)弾道ミサイル等に対する破壊措置
 具体的には、ミサイル防衛を目的に、航空総隊司令官を指揮官とするBMD統合任務部隊が編成され、航空自衛隊のPAC-3ミサイル部隊と海自のイージス艦部隊が展開し、迎撃準備及び破壊措置を行うこととなる。
 これまでに2009年3月27日、2012年3月16日、同年12月7日、2013年4月7日及び2014年4月5日の計5回、発令されている。ただし、部隊の展開及び弾道ミサイルの追跡を行ったが、実際に弾道ミサイルを破壊したことはない。

(5)原子力災害派遣
 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による福島第一原子力発電所事故に対応するための派遣要請が唯一の派遣実績である。事故を受けて3月11日19時20分、内閣総理大臣は原子力緊急事態宣言を発し、防衛大臣に対し原子力災害派遣を要請している。翌12日9時15分には、福島第二原子力発電所に対しても部隊派遣要請がなされている。中央特殊武器防護隊や全国の化学科部隊が出動し海空自衛隊が支援している。救援体制強化のため、3月17日の防衛大臣の命令(自行原命第8号)により中央即応集団司令官を指揮官とする統合任務部隊(JTF)の原子力災派部隊が編成されてもいる。このJTFは、8月31日の大臣命令により、解組したが、原子力災害派遣は除染活動なども含め、12月26日まで続けられた。

(6)領空侵犯措置
 日本においては自衛隊法第84条に基づき、領空侵犯に対しては航空自衛隊が対応している。また、海上自衛隊のイージス艦や陸上自衛隊の中SAM対空ミサイル部隊も、対領空侵犯措置に連動している。
 1958年以降37回の領空侵犯が行われた。特に2つの事案を示す。
 ア 対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件
 冷戦下のソ連軍機による領空侵犯は20回以上発生しているが、1987年(昭和62年)に発生したこの事例は陸・海・空の自衛隊が創設以来初めて警告射撃(信号射撃による警告)を行った事件として有名である。
 イ 中国機尖閣諸島領空侵犯事件
 2012年12月13日、尖閣諸島上空で領空侵犯した中国国家海洋局所属の航空機(Y-12)を、海上保安庁の巡視船が視認した。航空無線機にて国外退去を要求し、更に防衛省へ通報した。この事件は、領空侵犯した航空機を海上保安庁の巡視船が国外退去を促した初の事例である。
 防空識別圏における識別不明機に対するスクランブルは、冷戦下では一年間に944回スクランブル発進した年もあり、大半はソ連軍機であった。冷戦終結後は、200回前後まで減少したが、最近急増しつつあり、その状況は次図の通りである。


(防衛白書平成26年度版から転載)

(7)機雷等の除去等 
 第二次世界大戦中、日本の周辺海域には日本海軍の触発機雷が約55,000 個、米軍の感応機雷が約11,000 個、合計約66,000 個もの機雷が敷設されたと言われている。自衛隊法84条の2に基づく機雷の除去は、平成20年度までに、感応及び浮流機雷合わせて約7000個である。海上自衛隊は、危険海域の掃海を行ってきた結果、危険海域にあった機雷の掃海はおおむね終了(約99%完了)したものの、未だに毎年何個かは機雷が発見され、その処理を行っている現状にある。2013 年度時点の過去5 年間の機雷の処理実績は平均個数1.4 個/年、平均重量1.00 トン/年である。
 一方、陸上で発見された不発弾は、地方公共団体等の要請を受けて陸上自衛隊が実施している。(自衛隊法附則第4項)平成24年度までの実績は、約13万件、約6,000トンの処理実績である。平成24年度、硫黄島遺骨収集時に回収した不発弾の処理を行った。処理件数の概ね半数は沖縄県で発見されている。

(8)在外邦人の輸送
 自衛隊法に「在外邦人等の輸送」が規定されたのは、平成3年10月、政府専用機の使用目的の一つとして緊急時における在外邦人救出のための輸送が挙げられたことが契機となり、平成6年11月の自衛隊法改正によって初めて規定が設けられた。  
 その後、平成11年5月に輸送手段に艦船が追加されるとともに武器使用権限が認められる改正が行われ、また、平成19年1月には邦人輸送任務を自衛隊の本来任務の「公共の秩序の維持」に位置付ける改正がなされた。
 自衛隊による邦人輸送は過去2回実施されており、1度目が平成16年4月の在イラク邦人の輸送(報道関係者10名をC-130輸送機でタリル空港からムバラク空港(クウェート)まで輸送2)、2度目が平成25年1月の在アルジェリア邦人テロ事件における被害者の輸送(現地邦人企業の邦人生存者7名、9名の御遺体をアルジェの空港から羽田空港まで政府専用機(ボーイング747)により輸送)が行われている。
 在外邦人等の輸送は、陸・海・空自の緊密な連携が必要となることから、輸送機や輸送艦などを用いた協同訓練を行っている。また、防衛省は、毎年タイで行われている多国間共同訓練コブラ・ゴールドにおける在外邦人等の輸送訓練に、在タイ日本国大使館の協力を得て、同大使館職員およびその家族ならびに在タイ以外の在外公館の職員とともに参加している。こうした訓練を通じ、外務省との連携要領や海外における自衛隊の活動要領への習熟を深め、任務遂行のための能力向上に努めている。

4 自衛隊の行動拡大の特色及課題等

(1)何らかの事態が起き、それに対処する必要性が生起する度に、所要の対応法制を制定し、自衛隊に任務として付与されてきた。特に冷戦終結以降その傾向が大である。
  云うなれば、国内外情勢が激変しており、我が国の国内法制が対応できない状況になってきたことの証左である。今後も、情勢は刻々と変化すると思われるが、その度に新たな法律の制定と自衛隊への任務・役割分担を付与するというやり方ではなく柔軟に対応できるような体制整備が必要である。

(2)何れの行動についても自衛隊は、その任務を完遂し、国際的にも国内的にも高い評価を得ているのは紛れもない事実であり、この国内外の評価が自衛隊に対する好印象となり、自衛隊違憲論は影を潜めている。内閣府が行った最新(H24年1月)の世論調査では、「自衛隊には各種の任務や仕事が与えられているが,自衛隊が存在する目的は何だと思うか聞いたところ,「災害派遣」を挙げた者の割合が82.9%,「国の安全の確保」を挙げた者の割合が78.6%と高く,以下,「国際平和協力活動への取組」(48.8%),「国内の治安維持」(47.9%)などの順となっている。

(3)一方、任務役割の増大に伴い、現有の人員・装備での運用等に支障が出始めているのではないかと懸念される。“自衛隊 仕事やれやれ、人減らせ”と揶揄されるの頷ける。平時における我が国周辺の警戒監視活動、有事や大規模災害等に即応するための待機態勢の維持、ローテーション派遣されるPKOや国際緊急援助隊としての訓練や待機態勢の維持等が、部隊の負担となりつつあり、本来任務遂行のために実施すべき訓練に支障がないか?訓練の対象とすべき事態や様相も複雑化しており、通常の訓練すら厳しい状況にある。今後新たにグレーゾーン及び集団的自衛権に係る任務等によっては更なる訓練や態勢維持が必要かもしれない。そのような状況に如何に対応すべきかが、今後の課題であろう。