山下塾第5弾

山下 輝男

第三話「領域警備と自衛隊:新たな役割が」

 小笠原諸島での一時的には200隻を超える中国漁船団のサンゴ密漁に対し、我が海保は奔命に疲れ始めている。対応にも限界があるようだ。これを単なる密漁と捉えていいのだろうか?北朝鮮の不審船の跳梁跋扈、尖閣諸島への中国公船の度重なる航行や領海侵入事案等、所謂有事ではないが、さりとて平時の態勢では十分に対応できないような事態が頻発、このようなグレーゾーンに如何に我が国として対応すべきかが問われており、自衛隊も相応の役割を担うことになるだろうと思われる。


1 領海警備に関する態勢

(1)日本の領域警備(海上警備行動)について
 我が国の領域警備は、陸上においては警察が、海上においては海上保安庁が、領空については自衛隊が領空侵犯対処を行っている。
 自衛隊は、警察力や海保の能力を超える場合に治安出動や海上警備行動により対応することとなっている。
 海上警備行動とは、自衛隊法82条に規定された「海上における治安維持のための行動」である。警察官職務執行法・海上保安庁法が準用される。発令に当たっては、閣議を経て、内閣総理大臣による承認が必要である。
 ① 1999年(平成11年)の「能登半島沖不審船事件」に際し、初めて発動された。
 ② 漢級原子力潜水艦領海侵犯事件(2004年)
 ③ ソマリア沖の海賊対策(2009年 )
 海保では対処できないケースでは、防衛相による海上警備行動発令を受けて自衛隊が出動するが、「警察権の延長で、公船や軍艦には手出しはできない」のが実情である。

(2)列国の態勢等
 ア 米国
 米国には領域警備を専従的に行なう機関は存在せず、領域保全の責任を有するのは合衆国連邦軍である。陸上の領域警備任務は、合衆国陸軍の一部分である陸軍州兵 と合衆国空軍の一部分である空軍州兵である。この両者は、陸上及びその上部空域を含む合衆国の領域の保全に常時第一義的な責任を有している。海上における領域警備任務を担当するのは、沿岸警備隊(USCG)である。
 USCGを除き、陸軍州兵、空軍州兵を含む合衆国連邦軍は、通常は法執行活動が禁止されており、それは、平常時においては自衛隊と同様に国内事案、或いは治安維持の活動には関与しない。軍は議会からの授権がないと法執行活動には従事できない。

 イ 英国
 英国は、軍の果たす役割が非常に大きい。日本の海上保安庁にあたる機能を独自に担当する機関は存在しない。
 海上における領域警備については、海軍が基本的責任をもっており、警察権の行使も認められている。環境・運輸・地域問題担当省所属の海洋沿岸警備庁が存在するが、人命救助や海洋汚染の監視などを主たる任務とし、不審船舶などを発見した場合も、直ちに海軍に通報するだけである。海洋沿岸警備庁は警察権行使のための任務を付与されていない。

 ウ 露
 国境警備局傘下の国境警備軍という専従の部隊が存在する。また、ロシア軍(空軍及び海軍)、国境警備軍以外の準軍隊の一つである内務省国内軍及び連邦防諜局が、国境警備局の調整の下国境警備に関し国境警備軍に協力することになっている。国境警備軍の活動範囲は海上から陸地まで連続しており、これが、有効な国境警備活動を可能にする一つの要因であるといえる。
 違法占拠が続く、北方領土海域でも、我が国の漁船の拿捕が相次いでいる。平成元年から10年の10年間で66隻、11年から20年でも49隻に上るとされる。
 平成18(2006)8月16日には、花咲港所属のカニかご漁船「第31吉進丸」がロシア国境警備局の警備艇により追跡され、貝殻島付近で銃撃・拿捕され、乗組員1人が死亡する事件が発生した。
 平成12年9月にはロシアの国境警備庁(現・国境警備局)と海上保安庁の両長官が情報交換などの実施に関する覚書に署名し、ようやく意思疎通が図れるようになった。担当者間のホットラインもでき、違法操業に対する日露当局の取り締まりも円滑化し、特攻船などは姿を消した。

 エ 韓国
 韓国は、領域内侵入に対して、速やかに国家の安全保障に関わる諸機関を統合して、一元的に管理、指揮する体制が整備されている。ゲリラ等の侵入があった場合、統合防衛事態が宣言され、軍、海洋警察、警察、国家機関、地方自治体、予備軍、民間防衛隊等が、すべて軍の合同参謀本部内に置かれた統合防衛本部に統合され、一元的な指揮がなされるようになっている。
 海洋における領域警備任務の一端を担うのは、海洋警察庁の海洋警察である。海洋警察の基本的な任務は、海上における誤越境の防止、誤侵入の防止、管轄水域の警備、密出入国の取り締まり等である。海軍は、国家主権と海洋領有権を保護するための活動を行う。
 ワタリガニのシーズンには、中国漁船団が黄海に殺到し、韓国の排他的経済水域(EEZ)で違法操業を続ける。韓国海洋警察は、中国漁船の拿捕に躍起になるのだが、武装した中国漁船は、激しく抵抗する。平成26(2014)年10月10日には、拿捕の過程で、中国人船長が射殺された。2010年12月には、韓国警備艇に体当たりした中国漁船が転覆するという事件も起きた。


2 最近の領域警備にかかる動向

(1)中国漁船団のサンゴ密漁船の大襲来への対応について
 海保によると、小笠原諸島近海で、中国船籍とみられる漁船の出没が確認されるようになったのは9月に入ってからである。日を追うごとに増え、ピーク時には200隻を超え、伊豆諸島近海にまで出没するようになった。
 これに対して、海保はなけなしの巡視船を遣り繰りして警戒監視、必要により逮捕し、警視庁も警察官を小笠原に増員し、外国漁船の違法操業を防ぐため、罰金の大幅な引き上げを柱とする外国人漁業規制法と漁業主権法の改正法が11月19日午前の参院本会議で可決、成立した。今回の改正で上限はいずれも3000万円に増額される。また当局の立ち入り検査を拒んだ場合、300万円(現行30万円)の罰金を科すこととなった。
 海保は今回の中国漁船逮捕に際して、SSTを投入したとされている。

(2)自民党の領海警備保全法
 2012年9月の尖閣国有化以降、周辺海域では中国海洋監視船の領海侵入が相次いでおり、自民党は同年12月の衆院選で「領海警備を強化する法律の制定に取り組む」と公約していた。   
 平成25(2013)年6月、自民党も「領海警備保全法案」の骨子を纏めている。その概要は次の通りである。
 骨子案では、領有権を主張する目的で日本領海内に侵入し周回する外国船に対し、海上保安庁と連携して退去を要請、応じない場合の武器使用を認める。領海警備は現在、原則として海保の任務と規定されているが、海保では対処できないケースもあり、このため新法では、領海警備を自衛隊の任務として位置付け、外国公船・軍艦が退去要請に応じない場合は、首相が自衛隊に「領海保全行動」を発令、武器使用を含む「必要な措置」を取れるとし、海保にも同様の権限を認める。

(3)安保法制懇のグレーゾーン事態に対する提言と閣議決定
 平成26(2014)年5月15日の安保法制懇の報告書を受けて、同年7月1日政府は、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」を閣議決定した。
 所謂グレーゾーン対処に関しては、「警察や海上保安庁などの関係機関が、それぞれの任務と権限に応じて緊密に協力して対応するとの基本方針の下、①各々の対応能力を向上させ、②情報共有を含む連携を強化し、③具体的な対応要領の検討や整備を行い、④命令発出手続を迅速化するとともに、⑤各種の演習や訓練を充実させるなど、各般の分野における必要な取組を一層強化することとする。
 このうち、手続の迅速化については、離島の周辺地域等において外部から武力攻撃に至らない侵害が発生し、近傍に警察力が存在しない場合や警察機関が直ちに対応できない場合(武装集団の所持する武器等のために対応できない場合を含む。)の対応において、治安出動や海上における警備行動を発令するための関連規定の適用関係についてあらかじめ十分に検討し、関係機関において共通の認識を確立しておくとともに、手続を経ている間に、不法行為による被害が拡大することがないよう、状況に応じた早期の下令や手続の迅速化のための方策について具体的に検討することとする。」

(4)民主党の領域警備にかかる法案提出
 民主党は、平成26(2014)年11月17日、武装漁民の離島への上陸など、武力攻撃に至らない「グレーゾーン」事態に対処するため、自衛隊に領海や離島での領域警備任務を課す「領域警備法案」を衆院に提出した。その概要は次の通りである。
 ①基本認識
 領域警備については、「グレーゾーン事態(武力攻撃に至らない侵害が発生した事態)」における①時間、②権限、③武器使用という「3つの隙間」の存在が指摘されている。
 ②趣旨
 上記の基本認識を踏まえ、
 A:現行法の柔軟な運用に法律的な裏付けを与え、明確に制度化することにより、領域警備に関するシームレスな対応を可視化する。
 B:あわせて、地理的事情等により警察機関だけでの適切な対処が難しい一定の区域(領域警備区域)でのシームレスな対応に万全を期するため、自衛隊の予防的な行  動・権限を創設する。
 ③概要
 〇趣旨Aに係る措置
 ・治安出動・海上警備行動の発令の迅速化を担保
 ・本法案に、対領空侵犯措置のインデックス規定を置く
 ・警察・海保・自衛隊等の連携強化を明示→領域警備事態連絡調整会議を設置し、事態の緊迫を抑制
 〇趣旨Bに係る措置
 ・自衛隊による平素の領域警備行動を新設
 (警察機関だけで対応し難い一定の区域における平素の領域警備行動)


 尚、民主党との領域警備法の共同提出を目指していた維新の党は、領域警備法の制定を公約に掲げている。


3 今後の課題等

(1)自民党の領海警備保全法案~安保法制懇報告書と閣議決定~民主党の領域警備法案
 尖閣諸島国有化以降の中国公船の尖閣諸島接続水域の航行や領海侵入の頻発に対して、我が国として、何らかの対策を講ずるべきであるという気運が生じ、自民党の領海警備保全法案、安保法制懇報告書と閣議決定そして民主党の領域警備法案提出と動き始めたことは慶賀すべきである。従前から指摘されていたことではあったが、矢張り、日本は何か外圧と云うか、厳しい状況に直面しないと覚醒しないのだろう。まだ、今なら間に合う筈だ。
 自民党案は、「領有権を主張する目的で日本領海内に侵入し周回する外国船」を対象としているが、相手の目的など解る筈がなく、事態で考えるべきだ。武力行使に公明党が慎重とされ、与党内調整も難航する可能性がある。
 閣議決定は、手続きの迅速化や運用改善で対応しようとしているが、それでは不十分である。
 これ等の問題点を改善したのが、民主党案であり、大きな進歩であると評価できる。

(2) 巷間、自衛隊が領域警備に運用されるとそれが中国軍介入の口実となり、日中戦争が始まるので、穏便な態勢にすべきとの惰弱論がある。我が国の領海・領空・領域を守るのは、国家として当然の権利であり、義務である。万全の態勢にして、侵させないことの方が、抑止にもなる。

(3)海上保安庁の態勢の抜本的な改善強化
 日本の領土面積は約38万km²で世界第60位に位置するが、領海およびEEZの総面積は世界6位である。北方領土周辺、尖閣諸島周辺等の海域に加え、小笠原周辺での警戒任務が重なり、海上保安庁の能力を遥かにオーバーしている。抜本的な態勢拡充が必要だ。

(4)警戒・監視能力の向上
 広大な区域の警戒監視には、自衛隊の保有する警戒・監視能力の活用を図る必要があろう。情報収集衛星、今後導入が予定される無人偵察機、海・空自衛隊の警戒監視部隊による領域監視能力を向上させ、それを必要な範囲で共有するシステムが必要だ。

(5)治安出動や海上警備行動の警察権限行使で万全か?
 領域警備は基本的に警察権の行使であることに異論はないが、警察権の行使では対応できない場合に、自衛隊が対応することになる。この際にも、警察比例の原則のみで対応すべきなのか?必要な武力の行使を認めるべきではないのか。徒に武力行使すべきではないが、事態を鎮静化させるために必要な権限行使を認めるべきであり、その際にも、現場の指揮官の判断によることとすべきだ。一々官邸や大臣にお伺いしている暇はない。所謂ROEを定めておくべきだ。

(6)バックアップ出来ることはないのか?
 退職保安官の再雇用などを行っているが、抜本的な海保の戦力造成等が難しいとすれば、自衛隊として、何かバックアップできる方策がないのか、知恵を出したい。情報提供や管理面での支援など、官庁間協力で出来ることがある筈だ。


(了)