山下塾第5弾

山下 輝男

第九話「武器輸出三原則(実態は全面禁輸)から装備移転3原則へ、国際共同開発等の増加」

 COCOMに基づく武器輸出が武器輸出三原則となり、何時しか武器の全面的禁輸にとなってしまった。然しながら、現実的な必要性が生じる度に例外措置を講じてきた。国際的な潮流は国際共同開発であり、且つ調達価格も高騰しつつある等の諸状況に鑑み、日本もそれに応ずる態勢を講じることとなり、新たな装備移転3原則が決定された。その3原則の下で、新たな共同研究や開発が進展しつつある。これ等にかかる状況を概観したい。


1 武器輸出三原則の決定経緯と運用の実態

(1)武器輸出三原則決定経緯
 昭和37(1962)年当時は、「共産圏への武器輸出については、ココムの制度に基づいて輸出の可否を判断」していたが、昭和40(1965)年には「直接戦争に関係のある武器や軍需物資は、輸出承認していない。」としていた。
 昭和40(1965)年8月5日の衆議院科学技術振興対策特別委員会で通産省重工業局次長が「通産省の武器輸出の方針は、第一は、ココムの制限に従う、第二は、国連決議に基づく武器輸出禁止国には輸出ができない。第三は、国際紛争助長の恐れがある国に対する輸出については認めない」と答弁していた。これが後の武器輸出三原則の原型である。
 我が国の法律に、武器の輸出を禁止した条項はない。法律はない。外国為替及び貿易法の第6章外国貿易 48条(輸出の許可等)において「国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。」と定められているのみである。
 佐藤首相は、昭和42(1967)年衆議院決算委員会で答弁し、次のような国・地域の場合は「武器」の輸出を認めないこととした。これが狭義というか本来の武器輸出三原則である。
 ①共産圏諸国向けの場合
 ②国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
 ③国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合
 なお、佐藤栄作首相は「武器輸出を目的には製造しないが、輸出貿易管理令の運用上差し支えない範囲においては輸出することができる」と答弁しており、武器輸出を禁止したものではなかったとされる。
 然しながら、基盤的防衛力構想の防衛計画の大綱、防衛費対GNP1パーセント枠の閣議決定等反戦、平和志向の強い、三木首相は、昭和51(1976)年衆議院予算委員会における答弁により、佐藤首相の三原則にいくつかの項目が加えた。
 ①三原則対象地域については「武器」の輸出を認めない。
 ②三原則対象地域以外の地域については憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。
 ③武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。
 ④武器輸出三原則における「武器」は次のように定義した。
 ・軍隊が使用するものであって直接戦闘の用に供されるもの
 ・本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として物の破壊を目的として行動する護衛艦、戦闘機、戦車のようなもの

 更に、通産省の承認を得ずに、半製品の火砲砲身を韓国に輸出していた堀田ハガネ事件が起きたため、同昭和56(1981)年3月に「政府は、武器輸出について、厳正かつ慎重な態度をもつて対処すると共に制度上の改善を含め実効ある措置を講ずべきである」とする「武器輸出問題等に関する決議」が議会で可決された。
 このような経緯を経て、事実上の武器の全面禁輸となっていった。

(2)例外規定の適用
 ア 事実上の武器輸出の禁止は、対米武器技術の供与にも支障があるとされ、当時の後藤田官房長官談話により、日米安全保障条約の観点からアメリカ軍向けの武器技術供与を緩和することを武器輸出三原則の例外とされた。
 イ 米国に対する武器技術供与に関する交換公文の締結
 昭和58(1983)年11、対米武器技術供与を日米相互防衛援助協定の関連規定の下で行うという基本的枠組みを定めた「日本国とアメリカ合衆国との間の相互援助協定に基づくアメリカ合衆国に対する武器技術の供与に関する交換公文」が締結された。昭和59(1984)年11月には日米両国政府の協議機関として武器技術共同委員会(JMTC)が発足し、翌昭和60(1985)年12月27日に対米武器技術供与を実施するための細目取り決めが締結された。こうした枠組のもと、弾道ミサイル防衛共同技術研究に関連する武器技術など20件の武器・武器技術の対米供与をしている。
 ウ 小泉内閣での官房長官談話とミサイル防衛
 平成17(2005)年には、小泉内閣の官房長官談話として、アメリカとの弾道ミサイル防衛システムの共同開発・生産は三原則の対象外とすることが発表された。
 この頃から国際共同研究・開発に係る論議が行われるようになってきた。
 エ その他様々な例外規定が官房長官談話として発表されている。
 ・人道的な対人地雷除去活動における支援と武器輸出三原則(H9年12月)
 ・中国国内における遺棄化学兵器処理事業の実施と武器輸出三原則(H12年4月)
 ・テロ特措法等に基づく人道的措置と武器輸出三原則(H13年10月)
 ・イラク特措法と武器輸出三原則(H15年6月)
 ・補給支援特措法と武器輸出三原則(H19年10月)
 ・海賊対処法等(H21年3月)
 その他国際平和協力業務(H3年)、国際緊急援助活動(H3年)、在外邦人の輸送(H10年)、ODAによるインドネシアへの巡視艇の供与(H18年)等

2 見直しの必要性に関する議論

 (2)項で見たとおり、事実上の武器禁輸政策により、支障が生じており、ここに例外規定を設けてきたところであるが、武器輸出三原則そのものを見直すべきではないかとの議論が起きた。
 第一点は、我が国の国際共同開発との関係についてである。個々に例外化する方法では臨機応変な対応ができず、国際共同開発参加への障害とみなす見解も出された。日本国内の防衛産業については、日本は自衛隊装備の大半を国内開発あるいはライセンス生産品でまかなう方針を採っているが、アメリカを除いて国際共同開発を行なっておらず、生産数が限られていた。そのため、2000年代にはアメリカに限定されない国際共同開発や生産環境の整備が提言された。日本の防衛・軍需産業は三原則によって世界の兵器開発の流れから切り離されており、全面的な輸出禁止ではなく、国益に沿った輸出管理等のあり方を再検討すべきことも提言された。
 第二点は、調達価格との関係についてである。三原則により日本の防衛産業は、輸出が行えず結果的に生産数が少なくなる。このために調達価格が高くなる傾向がある。冷戦後に防衛予算は減少される中で調達数も削減されている。そのため中小企業の中には生産体制を維持できなくなり撤退するものも現れて、企業の撤退による技術、生産基盤の喪失によって防衛に支障をきたすことが問題視されていた。
 第三点は、防衛装備技術との関係である。自衛隊の装備品には、当然ながら防衛用の銃などを取り付けるための銃座が備え付けられている。このため自衛隊の装備品は、殆ど武器の扱いとなり、輸出規制に該当してしまうため、国外に販売して生産数を延ばすことができない。絶対的な生産数の少なさは、それ自体が装備の信頼性の低さに直結するとも指摘された。

3 三原則見直しの具体化

 ア 鳩山内閣による見直し議論
 平成22(2010)年1月、鳩山内閣の北沢俊美防衛大臣が東京都内で行われた日本防衛装備工業会主催の会合で「そろそろ基本的な考え方を見直すこともあってしかるべきだと思う。2010年末に取りまとめられる防衛計画の大綱(新防衛大綱)において武器輸出三原則の改定を検討する」と発言し、見直しの内容としては「日本でライセンス生産した米国製装備品の部品の米国への輸出」や「途上国向けに武器を売却」をあげた。
 平成22(2010)年2月18日、鳩山由紀夫首相が主催する「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の初会合が首相官邸で行われ、鳩山首相が冒頭の挨拶で「防衛体制の見直しには、継続と変化の両方が必要だ。タブーのない議論をしてほしい」と述べた。北沢防衛相は懇談会で「装備産業の基盤整備をどう図るか議論してほしいとお願いした」と述べ、武器輸出三原則の見直しを議題とするよう公式に求めたことを明らかにした。武器輸出三原則の見直しは新防衛大綱に反映されるとされ、菅直人首相も一旦は了承したものの、国会での連携を目指す社民党の反発が障害となり、新防衛大綱への盛り込みについては先送りされた。

 イ 野田内閣での官房長官談話
 武器輸出三原則の見直しは菅内閣で頓挫したが、後任の野田佳彦首相は就任当初から武器輸出三原則の緩和に意欲を見せ、国際共同開発・共同生産への参加と人道目的での装備品供与を解禁するとして平成23(2011)年12月27日に野田内閣は藤村修官房長官による談話を発表した。内容は、以下の通りである。
 ・平和貢献・国際協力に伴う案件は、防衛装備品の海外移転を可能とする。
 ・目的外使用、第三国移転がないことが担保されるなど厳格な管理を前提とする(目的外使用、第三国移転を行う場合は、日本への事前同意を義務付ける)。
 ・わが国と安全保障面で協力関係があり、その国との共同開発・生産がわが国の安全保障に資する場合に実施する。
 ウ 第2次安倍内閣による見直しと防衛装備移転三原則への移行
 第2次安倍内閣において安倍晋三首相は、三原則の撤廃を含めた根本的な見直しに着手した。平成25(2013)年9月28日に小野寺五典防衛大臣は、最先端の兵器は国際開発が主流であり、日本はその流れから取り残されているとして、武器輸出三原則を抜本的に見直す考えを示した。
 平成26(2014)年3月、武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」の原案が与党のプロジェクトチームに示され、同年4月1日に武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則が閣議決定された。

4 装備移転三原則について

(1)装備移転三原則の策定
 防衛装備移転三原則についての平成26年4月1日の説明は次の通りである。

1 防衛装備移転原則の策定趣旨
 我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることなどに鑑みれば、国際協調主義の観点からも、我が国によるより積極的な対応が不可欠となっています。我が国の平和と安全は我が国一国では確保できず、国際社会もまた、我が国がその国力にふさわしい形で一層積極的な役割を果たすことを期待しています。これらを踏まえ、我が国は、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していくこととしています。
 こうした我が国が掲げる国家安全保障の基本理念を具体的政策として実現するとの観点から、防衛装備の海外移転に係るこれまでの政府の方針につき改めて検討を行い、これまでの方針が果たしてきた役割に十分配意した上で、新たな安全保障環境に適合するよう、これまでの例外化の経緯を踏まえ、包括的に整理し、明確な原則を定めることとしました。

2.防衛装備移転三原則の主な内容
 我が国としては、国連憲章を遵守するとの平和国家としての基本理念及びこれまでの平和国家としての歩みを引き続き堅持しつつ、今後は防衛装備移転三原則に基づき防衛装備の海外移転の管理を行うこととします。主な内容は以下のとおりです。
(1)移転を禁止する場合の明確化(第一原則)
 ①当該移転が我が国の締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合、
 ②当該移転が国連安保理の決議に基づく義務に違反する場合、又は
 ③紛争当事国(武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国をいう。)への移転となる場合は、防衛装備の海外移転を認めないこととしました。
(2)移転を認め得る場合の限定並びに厳格審査及び情報公開(第二原則)       上記(1)以外の場合は、移転を認め得る場合を、①平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合、又は②我が国の安全保障に資する場合等に限定し、透明性を確保しつつ、厳格審査を行うこととしました。
 また、我が国の安全保障の観点から、特に慎重な検討を要する重要な案件については、国家安全保障会議において審議するものとしました。国家安全保障会議で審議された案件については、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)を踏まえ、政府として情報の公開を図ることとしました。
(3)目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保(第三原則)
 上記(2)を満たす防衛装備の海外移転に際しては、適正管理が確保される場合に限定しました。具体的には、原則として目的外使用及び第三国移転について我が国の事前同意を相手国政府に義務付けることとしました。

 政府としては、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、国際社会の平和と安定のために積極的に寄与して行く考えであり、防衛装備並びに機微な汎用品及び汎用技術の管理の分野において、武器貿易条約の早期発効及び国際輸出管理レジームの更なる強化に向けて、一層積極的に取り組んでいく考えです。

(2)運用指針
 平成26(2014)年4月1日国家安全保障会議で、装備移転3原則の閣議決定に併せて決定された防衛装備移転三原則の運用指針の概要は以下の通りである。

1 防衛装備の海外移転を認め得る案件
 平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する海外移転、我が国の安全保障に資する海外移転、自衛隊を含む政府機関の活動又は邦人の安全確保のために必要な海外移転、その他の場合を具体的に記述
2 海外移転の厳格審査の視点
 個別案件の輸出許可に当たっては、1に掲げる防衛装備の海外移転を認め得る案件に該当するものについて、・仕向先及び最終需要者の適切性 ・当該防衛装備の海外移転が我が国の安全保障上及ぼす懸念の程度の2つの視点を複合的に考慮して、移転の可否を厳格に審査するものとする。
3 適正管理の確保
 海外移転後の適正な管理を確保するため、原則として目的外使用及び第三国移転について我が国の事前同意を相手国政府に義務付けること
 ただし、 平和貢献・国際協力の積極的推進のため適切と判断される場合等の例外規定有り
4 審査に当たっての手続
 国家安全保障会議、同幹事会での審議及び関係省庁間での連携   
5 定期的な報告及び情報の公開
 定期的な報告、情報の公開 


5 国際共同開発等に関する動向

 装備移転3原則の策定に関連した最近の動向を、各種報道等をベースにまとめた。
 ① 装備移転3原則に基づく初の海外移転(2014/7/17 経産省発表)
  ①ペトリオットPAC-2の部品(シーカージャイロ)
  ②英国との共同研究のためのシーカーに関する技術情報の移転
 ② 日仏防衛装備品・関連技術の輸出や共同開発  政府間協定交渉中
  無人潜水機等に関心          (2014/7/21報道)
 ③ 日英 化学防護服を共同開発(2013/3/2報道)
 ④ 日豪 防衛装備品及び技術移転に関する協定署名(2014/7/9報道)
   日豪 潜水艦開発へ協議:そうりゅう型の推進機関…防衛相合意 日本の先端技術移転(10月17日報道)
 ⑤ フィリピンへ巡視船10隻供与(2014/5/30 アジア安保会議で首相表明)
 ⑥ ベトナムへの巡視船供与問題(首相供与表明2014/5/30報道)
 ⑦ トルコとの戦車エンジン共同開発問題条件合わず停止(2014/3/1報道)
 ⑧ 次期戦闘機F-35の国際共同開発、国際的な後方支援システム参画
   (H25防衛白書)



 ⑨ 日独共同開発に関する協議 戦車技術の相互提供か(2014/6/7報道)
 ⑩ 防衛装備品の国際共同開発広がる(2014/11/30日経報道)
   陸自多用途ヘリ、空対空ミサイル、水陸両用車、潜水艦





6 装備移転3原則に係る所見

 装備移転に関する情報は(6)項の通りである。これからも新たな装備移転3原則に基づく共同開発や技術移転或いは装備品の輸出が、今まで以上に進展することを窺わせる。
 問題は、双方にとってウィンウィンの関係でなければならないということだ。新原則に基づき、我が国の防衛産業が本来の力を取り戻し再生して貰わねばならない。
 また、防衛技術のスピンオフによる民間技術の進歩も期待したい。
 更に、大事なことは、日本ならではの防衛技術に関するコア技術を保有することであり、その為の大学との連携をも含めて、研究開発に注力しなければならない。全てを外国に依存することは、日本の死命を制せられることにもなる。残念ながら、現状は下記参考資料の通りであり、先進国において行かれる可能性が高い。(下記参照)

 主要国の国防研究開発費の状況を、「技本の研究開発の現状と軍事技術の方向性」(平成23年5月 防衛省経理装備局技術計画官)から引用する。
 《中国は我が国の4倍、ロシアは約2倍、韓国は我が国を抜いて約1800億円(2007年)(国防費の約5%)→2012年までに7%、2012年までに10%に引き上げる目標》

(了)