山下塾第5弾

山下 輝男

第十話「災害派遣の変容:大規模災害、特殊災害等への更なる対応」

 自衛隊は、創隊以来38,000件余の災害派遣を行って、多くの人命を救助し、または財産の保護に寄与し、国民から高い評価を得てきた。阪神淡路大震災以降特に災害派遣即応態勢等が改善もされ、東日本大震災においては、その能力を遺憾なく発揮した。また、地下鉄サリン事件やナホトカ号重油流出事故、原発事故対応、御嶽山噴火爆発対応等、或いは鳥インフルエンザや口蹄疫対応等、災害派遣の対応事態も多様化・特殊化している。


1 災害派遣の概要等

(1)根拠法規 自衛隊法83条
 都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる。
 2 防衛大臣又はその指定する者は、前項の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等を救援のため派遣することができる。ただし、天災地変その他の災害に際し、その事態に照らし特に緊急を要し、前項の要請を待ついとまがないと認められるときは、同項の要請を待たないで、部隊等を派遣することができる。
(2)要請権者:都道府県知事その他政令で定める者、但し、市町村長は知事等に対し要請を要求できることと改定された。
(3)災害派遣命令権者:防衛大臣又はその指定する者(駐屯地司令たる部隊長等まで)

参考:要請から派遣、撤収までの流れ(防衛白書)



(4)自衛隊災害派遣の特色及び原則
 ア 特色
 ①基本は要請主義
 ②自治体の補完的役割
 ③防衛専用品の活用(人命救助セット等も一部導入されてはいるが、…)
 ④自己完結組織能力の発揮(この準備のためやや⑦項的な面がある。)
 ⑤人命救助・財産の保護目的
 ⑥隊区担当部隊主義 + 増援体制(平素から地方自治体との連携を図るため指定) 
 ⑦鈍重性
 イ 原則
 ①知事からの要請による派遣が原則
 ②自主派遣は例外規定
 (情報収集、知事が要請出来ず直ちに救援措置、人命救助に関する救援措置等)
 ③緊急性、非代替性、公共性の原則
 (災害派遣は地域の防災能力では対処不能な事態に、防衛用の組織と機能を活用)
 ④市町村長:知事への派遣要請の求め、指定者への通知
 ⑤部隊等の長:施設、又は近傍の火災時の部隊派遣可能

(5)実績(概要)
 ア 創隊以来の派遣回数等(~平成25年度末)
 ・件数:38000件余 延べ792万人余
 ・過去5年間の平均年間派遣回数 :約550回
 ・約6割が急患空輸
 イ 最大規模の災害派遣
 ・東日本大震災:延べ派遣人員 約1,066万人(阪神淡路大震災の約5倍)
 ・長期派遣の災害派遣  雲仙普賢岳噴火災害  1,700日
 ウ 海外での災害派遣:愛媛丸事件捜索  
 エ 特異な災害派遣
 ・第十雄洋丸事件1074年(衝突炎上したタンカーを海自が命により撃沈)
 ・地下鉄サリン事件1995年
 ・トンネル崩落事故(豊浜1996、第2白糸1997)
 ・重油流出事故(ナホトカ号)1997年
 ・東海村JCO臨界事故 1999年
 ・えひめ丸事件(ハワイ沖捜索)2001年
 ・鳥インフルエンザ(防疫) 2004年&2005年
 ・口蹄疫 2010年
 ・トド駆除のための銃撃:
 1967年3月、40ミリ高射機関砲8門、機関銃16丁、75ミリりゅう弾砲数門が日高の新冠町海岸から、沖合1000mのトド島目指して15分間一斉射撃を実施



2 災害派遣の拡大等

(1)災害派遣の種類
 従来は、通常の災派のみであったが、災害派遣の種類も多様化しつつある。
 ①通常の災害派遣
 ②自主派遣(83条但し書きの規定による。)
 ③近傍災害派遣:部隊・施設等の近傍火災
 ④地震防災派遣:大規模地震対策特措法制定時に追加(昭和53(1978)年)
 ⑤原子力災害派遣:JCO臨界事故を機に制定された原子力災害対策特措法(平成11(1999)年)制定時に追加武力攻撃事態等における災害対応は、国民保護等派遣として実施されることとなり、本稿の災害派遣とは区分理念が異なる。

(2)自主派遣についての改善
 阪神淡路大震災において、自衛隊の出動の時期等について、侃々諤々の議論が為された。自主派遣すべきではなかったかとの論もあったが、当時規定はあったものの、基準はなかった。現在でも、但し書き規定であり、例外的規定であると云ってよい。
 〇自主派遣の基準の設定
  阪神淡路大震災における災害派遣を契機に、自主派遣の基準が設けられた。
 〇防衛省防災業務計画における自主派遣基準(1995年設定)
 ・関係機関への情報提供のために情報収集を行う必要がある場合
 ・都道府県知事などが要請を行うことが出来ないと認められる時で直ちに救援の措置をとる必要がある場合
 ・人命救助に関する救援活動の場合
 〇新基準の効用
 ・従来、訓練名目等で実施していた偵察行動に行動上の根拠が与えられ、部隊が自主的に実施できるようになった。多用されている。
 ・近傍災害派遣は派遣要請を要しないが、人命救助については自主派遣が可能とされたので、明示的な根拠が付与された。

(3)災害派遣の対象とする事態等の拡大
 災害派遣は、「天災地変その他の災害に際して、云々」と規定されているように、地震災害、風水害、噴火災害や林野火災等の自然災害への対応が本来的な姿であったが、近年は事件や事故或いは鳥インフルエンザ対処のための防疫等の、云わば拡大防止の予防的な任務も遂行しつつある。
 御嶽山噴火災害派遣(2014年9/27~10/16)では、噴火の危険性の中、高度3000m級の高山でのヘリ運用等による捜索・救出をも行った。
 多種多様な災害が起き、自衛隊に対する国民の期待の高まりの中、厳しい状況の中での災害派遣が多くなっている。
 福知山線脱線事故における災害派遣のようなケースや鳥インフルエンザに罹患した鶏の殺処分及び鶏舎等の清掃・消毒等もあり、筆者などのように古い時代しか知らない者は、時に、これも災害派遣なのかと首を傾げたくなる場合もある。
 北海道ではエゾシカの食害があり、自衛隊災害派遣が噂されたこともある。

(4)対処態勢の強化
 阪神淡路大震災は、自衛隊の災害派遣にとって、ターニングポイントとなった。この災派を機に、自衛隊の即応態勢が見直され、FAST-Forceと呼ばれる初動対処部隊の待機態勢の基準が決定された。所要の災害派遣用のシステムも導入された。最近では、無人機や偵察衛星の活用の必要性が叫ばれている。
 現在における自衛隊の待機態勢は下図の通りである。



(5)地方自治体との連携強化
 阪神淡路大震災の教訓の一つが、平素からの地方自治体と自衛隊の連携の重要性の確認であった。各種防災訓練への参加、連絡体制の充実や防災計画の整合性確保により連携を深めつつある。防災に関して識見を有する退職自衛官を地方自治体に雇用して貰う施策を進めており、平成26(2014)年4月末現在、全国46都道府県・196市町村に304人が在籍している。
 自衛隊側も自治体側に災害派遣対処体制充実のための要望を各種行い、連携が益々密になりつつある。

(6)大規模災害対処態勢強化
 今後発生するおそれのある大規模地震への防災・減災対策として、今後の課題として検討すべき施策、個別の具体的な施策を網羅的に取りまとめた「大規模地震防災・減災対策大綱」が平成26年3月28日の中央防災会議で決定された。



 自衛隊は、防災業務計画に基づき、各種の大規模地震対処計画を策定している。
 ①首都直下地震への対処(統幕HPから)


 ②南海トラフ地震対処計画
  (平成26年版防衛白書から)



(7)自衛隊が実施・参加する訓練の質量の増大
 自衛隊は、大規模災害など各種の災害に迅速かつ的確に対応するため、平素から「自衛隊統合防災演習」をはじめとする各種防災訓練を行っている。また、地方公共団体などが行う防災訓練にも積極的に参加し、各省庁や地方自治体などの関係機関との連携強化を図っている。
 平成25年度は、東日本大震災から得られた災害対応に関する多くの課題などを防災訓練に積極的に取り入れ、大規模地震などの事態に際し、迅速かつ的確に災害派遣などを行うための能力を維持・向上することを目的として各種防災訓練を実施したほか、訓練に参加した。
 2013(同25)年7月および14(同26)年6月には、関係機関の参加を得て、南海トラフ地震を想定した「自衛隊統合防災演習」を実施し、指揮所における対応や防衛省災害対策本部の運営について検証した。
 13(同25)年8月31日には、内閣府が主催する広域医療搬送訓練に参加し、自衛隊の航空機や基地などを活用した広域搬送について検証した。また、陸自の野外手術システムを海自の輸送艦「しもきた」に搭載して、洋上での医療拠点設置の実証訓練に参加した。同年9月1日の「防災の日」には、政府の災害対策本部運営訓練へ参加したほか、防衛省の災害対策本部の運営訓練も実施した。
 また、同年10月には、福島原発事故後初となる政府の原子力総合防災訓練として、鹿児島県の川内原子力発電所の事故を想定した実動訓練が実施され、防衛省・自衛隊は、官邸、原子力規制庁、オフサイトセンターにおける調整を訓練するとともに、航空機による原子力規制庁職員の現地への輸送、原子力施設周辺における住民避難支援などの対応を実施し、原子力災害に対応するための体制を検証するとともに、実効性の向上に努めた。(以上防衛白書26年版207pから引用)

3 東日本大震災災害派遣の教訓事項の反映等

 防衛省は、「東日本大震災への対応に関する教訓事項について(中間取りまとめ)を平成23(2011)年8月公表した。改善事項は、意思決定から組織運営まで10分野32項目に亘った。各改善事項を内容的に横断的にまとめたポイントは以下の通りである。
 ①組織運営
  ○緊急参集チーム協議への対応体制の強化
  ○109人を第一線部隊に配置
  ○統幕運用副部長の新設や各担当室等を強化→日米調整、予備自衛官等
 ②諸外国・関係機関との調整
  ○外国、各府省、自治体との連携強化→防災演習等の充実、災害時協力の検討推進
  ○通信事業者との災害時協定の推進
  ○民間輸送力の利用拡充と協力の強化 など
 ③装備等の充実
  ○野外通信システム等各種無線機の整備→他機関との通信確保等
  ○無人機・車両、CBRN脅威評価システムの研究
  ○輸送機、輸送ヘリ、ヘリ搭載護衛艦の整備 など
 ④派遣を支える機能の強化
  ○メンタルヘルス、家族支援の強化
  ○施設の耐震・津波・放射線対策の実施・研究
  ○派遣活動の理解を促進する広報施策の充実
  ○自治体と連携しヘリ離着陸場を調査・指定 など

 これ以外にも種々あろう。これらを改善して各種災害に、より有効に対応し得る体制・能力を構築することが必要である。



4 拡大する災害派遣への懸念

 これまでの実績、高い評価から、ともすれば自衛隊は万能であると有難い評価を受けるが、それは平素の弛まぬ厳しい訓練があってこそである。
 大規模災害時には自衛隊は当然全力で対処することとなるが、それでも全ての所要に対処出来る訳ではない。自助:共助:公助=7:2:1と云われるように、自ら或いは地域の力により事前予防及び対処するという国民意識を啓発する必要がある。
 自衛隊の運用に当たっては、事態の軽重緩急により優先順位があることを認識して頂きたいものである。
 また、災害対処は、本来行政の責任であり、何かあったら直ぐ自衛隊に災害派遣を依頼すればよいと云うような安易な考えはないとは思うが、自衛隊の災害派遣は、緊急性、非代替性、公共性の原則の3要件が必要であるということを再認識して頂きたい。
 また、大規模災害の際、火事場泥棒的に我が国に対して良からぬ企みを持つ国がないとは言えない。よって、それに対する警戒監視も忽せにできない。

(了)