山下塾第5弾

山下 輝男

第十一話「退職自衛官の活用拡大へ」

 自衛隊は、その任務上精強性を維持する必要があり、若年定年制及び任期制と云う制度を採用している。全国で年間約8,000人の自衛官が定年または任期満了で退職するが、これら退職者は働き盛りであり、旺盛な気力・体力を有し、職務遂行と教育訓練によって優れた「企画力」「実行力」「指導力」「協調性」「責任感」「礼節」等を有しており、これら人材の有効活用は国家にとっても極めて重要である。近年、自衛官OBに対する期待も高まりつつある。
 本話では、①退職自衛官の地方公共団体等の防災・危機管理職域への配置、②パイロットの民間での活用制度 ③予備自衛官 ④再任用制度を取り上げてみたい。


1 自衛隊の退職制度

 自衛官の退職年齢は、幹部・准尉・曹で大部分が54歳~56歳、士で大部分が20歳代という若さである。若年定年制自衛官の退職日は、生年月日の日となっており、年間を通じて退職者がいる。自衛隊は、退職予定自衛官の再就職に関する施策を、人事施策における最重要事項の一つとしてとらえ、再就職に有効な職業訓練や雇用情報の有効活用などの就職援護施策を行っている。

2 地方自治体の危機管理職域への配置
(1)趣旨等
 地方公共団体等の防災・危機管理担当者として、自衛官の能力・経験が活かされている。在職中に培った専門的知識等を活かして地方公共団体に採用されることは、①自衛隊と地方公共団体との緊密な協力関係を構築し、相互の連携の強化を図ることに寄与できる。②地方公共団体にとっても、防災や危機管理に優れた人材を得ることができ、防災計画・国民保護計画等の作成、首長に対する危機管理上のアドバイス、役所内における危機管理の啓発・識能向上等々において格段の進歩が期待されている。このように、退職自衛官の危機管理職域への配置は、自衛隊及び地方公共団体の双方にとって、ウィンウィンの関係にあると云える。
(2)配置状況
 現在、多くの地方公共団体が退職自衛官を再雇用している。その状況は下図の通りであり、平成26年9月30日現在都道府県庁及び市町村役場に合計317名が配置されている。沖縄県を除く46都道府県で、県庁や市町村役場で活躍している。
「危機管理室参与」、「(担当)課長」や「危機管理監」といった肩書で、嘱託職員が多い。陸上自衛隊幹部の元1~2等陸佐が大半である。東京都には元陸将が危機管理監として採用されている。
 自治体が退職自衛官を防災担当職員として採用したのは、阪神大震災の翌年の1996年4月に、元1等陸佐が静岡県の情報防災研究所に入ったのが最初だったとされ、爾来20年近い間に300名を超える退職自衛官がそれぞれの立場で活動している。



(3)今後の課題
 仄聞するに、危機管理職域に配置された退職自衛官は、当該役所の文化と自衛隊の文化の所謂カルチャーショックに遭遇しているようだ。その壁を超えるにはある程度の時間を要するようだ。止むを得ないことだろう。同じ境遇にある者同士の横の連携が取れるようになれば、大分改善されよう。
 退職自衛官の配置のない市町村役場にも危機管理担当職員としての退職自衛官の雇用を期待して已まない。
 地方公務員であり、定年制により、所定の年齢で退職するのは止むを得ないが、その後年金を受給できるまでの処遇は万全なのか?不利益を蒙ることがないような配慮がなされるべきである。

3 自衛隊パイロットの民間での活用制度(割愛制度)の再開
(1)趣旨と経緯
 自衛隊操縦士の割愛は、最前線で活躍する若手の操縦士が民間航空会社などへ無秩序に流出することを防止するとともに、一定年齢以上の操縦士を民間航空会社などで活用する制度である。
 自衛隊においては、操縦士の適正な年齢構成を確保するとともに、航空部隊の精強性を維持するため、62(昭和37)年より本制度を開始し、これまで戦闘機や輸送機などの操縦士約750人が民間航空会社などで活躍してきている。
 その状況は国土交通省の資料(下図)の通りである。



(2)割愛制度の再開
 民主党政権下で、公務員の天下り問題を受けて、平成21年度秋から割愛制度を自粛していたが、航空需要の拡大に伴う操縦士の確保が喫緊の課題となったことから、その見直しが進められ、直ちに再開することが望ましいとの提言が纏められた。
 国土交通省によると、アジア太平洋地域では航空需要の拡大などの影響により、30(平成42)年には現在の約4.5倍の操縦士が必要になり、年間約9,000人の操縦士が不足すると見込まれている。自衛隊操縦士は、民間航空会社、特に新規航空会社などにおいて即戦力としてのニーズが高いことから、自衛隊の任務遂行に支障を生じない範囲で、一定年齢以上の自衛隊操縦士を活用することは、わが国の航空業界などの発展という観点からも意義がある。
その結果、防衛省と国土交通省が合意し、航空会社のニーズをも勘案して、これまで割愛が担ってきた重要な役割にかんがみ、公務の中立性・公正性をより確保することに留意しつつ、2014(平成26)年3月14日、割愛の再開を公表した。また、部隊運用を支えるため、割愛により再就職する操縦士を予備自衛官として任用することを推進するとした。

(3)今後の課題
 ア 転身パイロットの地位の安定性の担保
 航空会社にとっては途中入社でもあり、身分が安定しないのではないかとの危惧がある。入社する航空会社との確固とした契約が必要である。
 イ 再就職する退職自衛官は、予備自衛官に採用されることが期待されている。再就職する航空会社との明確な契約を取り交わして、予備航空パイロットとしての練度維持を図るべきである。
 ウ 割愛によらない途中入社する者及び会社への対応
 無秩序な引き抜きは双方の信頼関係を損なうものであり、本紳士協定を遵守する必要があり、その認識を共有することが肝要である。

4 予備自衛官就中即応予備自衛官に対する期待の高まり
(1)予備自衛官制度の概要

区分 即応予備自衛官(H9創設) 予備自衛官(S29創設) 予備自衛官補(H13創設)
シンボルマーク
役割 第一線部隊と一員として現職自衛官と共に任務に従事 第一線部隊出動後の駐屯地警備等の後方任務に従事 予備自衛官補期間中は教育訓練のみ、終了後予備自衛官として任務従事
応召義務 防衛召集、国民保護等召集、治安出動、災害等召集、訓練召集 防衛召集、国民保護等召集、災害召集、訓練召集 教育訓練召集
訓練 年間30日 年間20日以下 一般:3年以内に50日
技能:2年以内に10日
採用対象者 元自衛官、予備自衛官 元自衛官 自衛官未経験者

 本話の対象は予備自衛官補を除く。

(2)予備自、即自の実運用と有用性の実証
 東日本大震災においては、自衛隊史上初めて、即応予備自衛官及び予備自衛官が招集され、約2,200名即応予備自衛官と約500名の予備自衛官あわせて約2,650名が岩手県、宮城県及び福島県において現役自衛官とともに捜索活動、物資輸送、生活支援などの活動に従事した。



 活動に参加した予備自、即自のアンケートは当サイトに掲載してある。
 〇「東日本大震災出動即応予備自衛官・予備自衛官アンケート集」
 http://www.jpsn.org/free/tokusyu/05_3.11/questionnaire/

 活動に参加した彼等の士気は極めて高く、現職自衛官に伍して存分の活躍をし、その有用性を実証したと云える。雇用企業主も激励して送り出してくれたと彼等は異口同音に話している。

(3)今後の方向性について
 また、平成25年12月に閣議決定された「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」「Ⅴ3 人事教育」項において、「航空機の操縦等の専門的技能を要するものを含む幅広い分野で予備自衛官の活用を進めるとともに、予備自衛官等の充足向上等のための施策を実施する」ことが明記されている。(アンダーラインは3項との関係で注目)

(4)今後の課題について
 ア (3)項の早急な具体化
 イ 長期化複雑化する国家防衛作戦においては、縦深戦力としての質の高い即応戦力の保持が必要である。我が国の予備戦力は、必ずしも十分であるとは言い難い。
 現役自衛官と予備自・即自を含めたトータルとしての防衛力(戦力)は、果たして列国に比して妥当であるか、現役と予備との比率は果たして適正なのかを十分に検討する必要があろう。
 ウ 予備自・即自に対する十分な処遇と雇用主への対応
 予備自・即自は、平素は企業等に勤務しつつ、訓練召集に応じ、必要により召集されて実任務にも従事するので、その負担は計り知れないものがある。十分な処遇がなされるべきである。更に、そのことにより不利益を蒙ることがないような対策が取られるべきだ。
また、彼等を雇用している企業主が、訓練召集やその他の召集に際して激励して送り出すようなそのような国家的体制の構築も必要である。

5 再任用制度について
(1)制度概要
 再任用制度は、定年後においても引き続き隊員として働く意欲と能力のある者を改めて採用する制度である。本制度により、高齢だが有為な人材の積極的活用や雇用と年金との連携を図ることができる。防衛省・自衛隊は、この制度に基づき、12(同24)年3月末現在759名を再任用している。また、一般の公務員より早く定年を迎える自衛官が安心して職務に専念する環境を醸成するとの観点から、自衛官の再任用制度については、60歳前においては3年以内の任期を可能としている。



(2)今後の課題等
 シニアパワーの活用は、現代社会における最優先課題伴っている。ベテランが有するノウハウを後継世代に伝承することは重要であり、それは自衛隊においても同様である。安易に再任用することは望ましくはないとしても、如何なるノウハウを伝承するのかを見極めることが必要であろう。
 如何なる職域を再任用職域とするか、自衛隊の精強性維持の観点から慎重に考察されるべきであると考える。

(了)