山下塾第5弾

山下 輝男

第十二話「シビリアンコントロール?悪名高き12条の改正と政治優先原則」

 我が国を巡る安全保障環境の激変や自衛隊の任務・行動の拡大等もあり、防衛大臣の運用面の補佐をどのように行うべきかは、我が国安全保障上の長年の課題であった。統合幕僚監部の創設、防衛参事官制度の廃止を経て、今般の防衛省設置法の改正により、制服と背広が車の両輪として、防衛大臣を補佐する体制が整った。そして、今求められるのは政治家の識能の涵養だ。内局高級官僚にお任せしてきたツケが回ってきている。
 3月6日に閣議決定がなされたので、特段の事がない限り法案も成立するのだろう。



1 防衛大臣補佐体制の現状と課題

(1)防衛省設置法第12条→文官統制の根拠
 (官房長及び局長と幕僚長との関係)
 第十二条  官房長及び局長は、その所掌事務に関し、次の事項について防衛大臣を補佐するものとする。

一  陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊又は統合幕僚監部に関する各般の方針及び基本的な実施計画の作成について防衛大臣の行う統合幕僚長、陸上幕僚長、海上幕僚長又は航空幕僚長(以下「幕僚長」という。)に対する指示
二  陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊又は統合幕僚監部に関する事項に関して幕僚長の作成した方針及び基本的な実施計画について防衛大臣の行う承認
三  陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊又は統合幕僚監部に関し防衛大臣の行う一般的監督

 従来は、防衛大臣の下に、防衛参事官がおかれ、「防衛省の所掌事務に関する基本的方針の策定について防衛大臣を補佐する」という大きな権限が与えられてきた。そして、官房長・局長は防衛参事官をもって充てるものとされ、幕僚監部が作成する諸計画に対する指示・承認、並びに、幕僚監部に対する一般的監督について、防衛大臣を補佐する権限を与えられてきた。これが文官統制と云われるものの根底である。

(2)防衛参事官制度の廃止等
 防衛参事官制度に関する批判が高まり、2007(H19)年12月に総理大臣官邸に設置された「防衛省改革会議」は2008(H20)年7月15日に報告書をまとめ、その中で、防衛大臣を中心とする政策決定機構の充実として、防衛参事官制度を廃止し、防衛大臣補佐官を設置すること、防衛会議を法律で明確に位置づけることが盛り込まれた。
 この報告書の内容を条文化する作業がまとまり、「防衛省設置法等の一部を改正する法律案」が2009(H21)年2月17日に閣議決定、同日国会に提出され、この中で防衛参事官を廃止することが盛り込まれた。この法案は同年5月27日に成立し、6月3日に「防衛省設置法等の一部を改正する法律」(平成21年法律第44号)として公布され、2009(H21)年8月1日に施行された。
 防衛参事官の廃止後、官房長・局長には防衛書記官が充てられた。また、官房長・局長に充てられない防衛参事官3人の枠を活用して、新たに防衛大臣補佐官(3人以内)が新設された。なお、官房長・局長に充てられていない防衛参事官の職を引き継ぐポストとしては、防衛政策局の次長を1名増員して防衛参事官(国際担当)の任務を引き継いだほか、大臣官房審議官を2名増員した。


2 文民統制と文官統制について

(1)意義
 文民統制(シビリアン・コントロール)とは、文民の政治家が軍隊を統制するという政軍関係における基本的な考え方である。即ち、政治が軍事に優先することを意味する。政治統制、政治優先というべきであって、「文民」の語彙が「文官」と曲解されて、文官統制を文民統制と何となく理解されてきた。文民統制と文官統制とは似て非なるものである。
 シビリアンコントロールにおける「シビリアン」とは、日本語訳で文民、つまり一般国民代表たる政治家であり、防衛省の事務官(背広組)を含めた官僚ではない筈だ。即ち、政治・行政の区分の下では、軍人(自衛官)も事務官も共に行政の領域に属する以上、民主主義を制度化する国家においては、双方とも政治による民主的な行政統制の下に置かれるべきものである。
 シビリアンコントロールにおいては、職業的軍事組織は軍事アドバイスを行い、これを受けて国民の代表が総合的見地から判断・決定を行い、その決定を軍事組織が実施するということが原則となる。国防・安全保障政策の基本的判断や決定は、選挙で選出された国民の代表が行う。これは、彼らが軍人より優秀ということではなく、国民の代表という正当性を体現するからである。そして、何よりも国民の代表は、国民に対し説明責任を持ち、したがって、国民は、彼らの決定に不服があれば、選挙を通じて彼らを排除出来るからである。

(2)文民統制に関する新統一見解
 中谷元防衛相が3月6日の衆院予算委員会で示した文民統制に関する政府統一見解は次の通りである。

『文民統制とは、民主主義国家における軍事に対する政治の優先を意味するものであり、わが国の文民統制は国会における統制、国家安全保障会議を含む内閣による統制とともに、防衛省における統制がある。
 そのうち、防衛省における統制は、文民である防衛大臣が自衛隊を管理、運営し、統制することだが、防衛副大臣、防衛政務官等の政治任用者の補佐のほか、内部部局の文官による補佐も、防衛大臣による文民統制を助けるものとして重要な役割を果たしている。文民統制における内部部局の文官の役割は、防衛大臣を補佐することであり、内部部局の文官が部隊に対し指揮命令するという関係にはない。』


3 12条をめぐる今までの動き

 日本では、建前上軍隊が存在しないこととなっており、欧米諸国で盛んに議論されてきた政軍関係(civil-military-relationship)の研究は余り進展しなかった。
 防衛庁長官(防衛大臣)の責務は非常に高いにも拘らず、大臣にそのような識能は望むべくもなく、大臣を支えるべき政務次官ですら同様であったので、彼等の代用(というと語弊があるかも知れないが・・)として高級事務官を就任させるという制度化がなされた。防衛省(庁)の高級事務官には、行政官の枠を超えた極めて政治的な役割が、実態面のみならずそもそも制度的にも期待されていたと云われている。制度的・慣習的に内局が幕僚監部より優位に立ち、いわゆる「文官優位」、ないし「文官統制」が固定化されてきた。
 然しながら、統合運用の必要性の高まり、軍事専門性の要求度の高まり、軍令と軍政の分離、そしてあるべき政軍関係から、文官優位制度の改善を求める動きが表面化してきた。

(1)統合運用体制の発足
 2006(H18)年の統合幕僚監部の設置等は、いわば制服間の権限役割の再調整という側面が強く、内局との運用の基本に関する役割分担等についてまでは踏み込んでおらず、将来的な検討課題とされた。

(2)防衛参事官制度の廃止
 2006(H18)年の統合幕僚監部等の新設後検討が進められていた「防衛省改革会議」の2008(H20)年7月15日の報告書に基づき、防衛大臣を中心とする政策決定機構の充実として、防衛参事官制度を廃止し、防衛大臣補佐官を設置すること、防衛会議を法律で明確に位置づけることが盛り込まれた。
 2009年(平成21年)6月3日に公布された「防衛省設置法等の一部を改正する法律」(平成21年法律第44号)において、防衛参事官を廃止することが盛り込まれ、2009(H21)年8月1日に施行された。

(3)内局運用局の存廃
 防衛参事官制度の廃止後も、その象徴たる内局運用企画局が存続し、運用や行動の基本について大臣を補佐することとなっていた。
 2013(H25)年、文民統制の象徴とされてきた官僚による運用企画局(「自衛隊の行動の基本」を所掌)を廃止し、自衛隊運用を幹部自衛官で構成された統合幕僚監部に一元化する方針が決定した。
 然しながら、本決定は日の目を見ることなく、翌年度以降に持ち越しとなった。


4 改正案と効果

(1)防衛省設置法12条の改正へとの報道
 2015(H27)年2月23日の各種報道によれば、「防衛省が内部の意思決定に際し、内局官僚(背広組)が自衛官(制服組)より優位だと解釈される根拠となってきた同省設置法12条を改正する方針を固めたことが23日明らかになった。同法改正により、背広組と制服組を同等と位置付ける。自衛官の地位向上を背景に制服組が発言力を強めた結果と言え、文民統制(シビリアンコントロール)の観点から論議を呼びそうだ。(以下略)」とのことである。
 本報道の最終パラグラフには納得しかねるが、それは後ほど述べよう。

(2)改正概要


(左図は、http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2015022202000060.htmlから転載)

 改正後の12条は以下の通りである。

「第十二条官房長及び局長並びに防衛装備庁長官は、統合幕僚長、陸上幕僚長、海上幕僚長及び航空幕僚長(以下「幕僚長」という。)が行う自衛隊法第九条第二項の規定による隊務に関する補佐と相まつて、第三条の任務の達成のため、防衛省の所掌事務が法令に従い、かつ、適切に遂行されるよう、その所掌事務に関し防衛大臣を補佐するものとする。」

 尚、隊法9条2項は「幕僚長は、それぞれ前条各号に掲げる隊務に関し最高の専門的助言者として防衛大臣を補佐する。」と定めている。


(3)評価
 ア この改正により、自衛隊の運用は統合幕僚監部に一元化され、迅速な意思決定、軍事的合理性を重視した運用面での大臣補佐機能が強化される。結果的に抑止力が高まる。
 今般の改正に至る前には、設置法12条そのものを削除し、制服組のみが大臣を補佐するようにすべきとの論もあったが、侃々諤々の議論を経て(?)、内局と幕が対等、両輪の立場で補佐する内幕対等に落ち着いた。制服のみでは政策的政治的な補佐は基本的には無理だ。それは背広組が軍事的事項に関して補佐するのが無理なのと同様である。餅は餅屋である。
 所謂軍政を担う背広組(内局)と軍令を担う制服組(統幕)の役割分担が明確になり、夫々が専門的立場から防衛大臣を補佐し、文民統制(政治優先)のシステムが齟齬なく機能することとなる。
 今迄は不当に低く評価されてきた制服自衛官が具備する軍事専門性が至当に評価されることとなり、自衛隊の士気が高揚する。
 イ 第12条の改正と同時に、内部部局の所掌事務規定も改正された。余り注目されていないが、留意しておく必要がある。防衛省設置法第8条は、内部部局の所掌事務を規定しているが、第7号として「内部部局の総合調整機能」を明記した。総合調整権は全ての省庁の組織令に規定されており、特別なものではない。が、この規定をどう見るか、内局と運用サイドが相互に調整するという趣旨ではなく、内局が主体的に総合調整権を有するものと解釈することも可能ではある。
 何れにせよ、徒に権を競うのではなく、相互がそれぞれの持ち味を発揮して大臣を補佐することが肝要である。


5 批判とそれへの反論

(1)批判
 ①戦前の軍部の政治介入により国策を誤らせた反省は何所に行ったのか、反省がない。即ち、歴史の教訓を忘れるなとの批判である。制服の暴走を止める役割を内局が担ってきた筈だ。
 ②運用上の補佐に当たっても、政策的判断が必要であるが、制服組にそのような識能があるか?
 ③内局の相対的地位の低下による士気低下

(2)反論と今後への提言
 ①制服組の暴走歯止め論に対して
 自衛官は、政治的活動に関与せずとの服務の宣誓をしている。そして何よりも、OBを含め現役自衛官の全てが政治優先原則の正当性を十分に認識しており、制服が暴走することは絶対に有り得ない。
 日本では未だに、「制服(軍人)は暴走するものだと決めつける傾向が顕著であるが、それは『羹に懲りて膾を吹く』と同じである。
 ②制服組が優位になったのではなく、背広組と制服組が対等の立場になったのであり、本来の姿になったと云うべきだ。それぞれが専門性を遺憾なく発揮することこそが肝要であり、何れかが士気低下すると云うのはナンセンスだ。
 ③制服、背広何れもそれぞれの専門性を発揮して、大臣を補佐し、大臣をはじめ政治任用された政務グループが適正に判断することとなる。
 ④大臣の所で、運用上の必要性と政策判断上の可能性や制約等が集約されて、大臣が政治判断することがそもそもの政治優先である。
 従って、問題は大臣はじめ政治家が少なくとも軍事専門家の具申や意見を理解し得る識能を持っているかどうかが重要である。日清・日露の時代までは、政治家は幕末から明治維新の激動期を乗り切った者であり、軍事的素養も充分であり、軍人の具申を適切に判断できたのだろう。制服と同じレベルの軍事的識能は望むべくもないが、最小限の素養は欲しい。
 大所高所から適切な判断が出来るような人材、リーダーを如何に育成するかが、我が国の極めて重要な課題である。スキャンダルや粗探しばかりをするような政治家ばかりでは日本の将来はない。

(了)