山下塾第5弾

山下 輝男

第十六話「次世代兵士はガンダムか?」

 ネット上で一時期話題になった「自衛隊にガンダム登場」ですが、その根拠は、技術研究本部が進める将来装備システムにあるようです。今回は次世代兵士について取り上げてみましょう。小生は所謂歩兵で、近代的な装備やIT時代の兵士から最も遠い職種でしたが(現職の普通科の皆さん済みません。)、将来戦においては主役を果たす可能性を秘めています。



1 自衛隊ガンダムの出現

 今なお子供達に根強い人気を誇るテレビアニメ「機動戦士ガンダム」を目指したとされる「先進個人装備システム」が展示・公開されたのは、2007年(H19)11月7日~8日、市ヶ谷のグランドホテル市ヶ谷で行われた「平成19年度研究発表会~防衛技術シンポジウム2007~」であった。このシンポジウムを機にネット上で大いに話題になった。

2 「技本の研究開発の現状と軍事技術の方向性」

 標記のタイトルの資料がある。平成23年㋄付の、防衛省経理装備局技術計画官名の資料である。瞥見したい。
(参照:http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/seisan/sonota/pdf/05/005.pdf

(1)情勢の変化等
 科学技術の動向、防衛環境の変化及び運用環境の変化を踏まえて将来必要とされる取組分野を摘出し、取組方向を導きだした。この中では中長期技術見積りを踏まえた運用構想と将来の装備品に運用可能な有望な民生技術を明らかにしているが、運用構想例は次図のようなものである。



(2)ゼロカジュアリティとNCW(Network Centric Warfare)
 近代民主主義国家においては、兵士そのものが最も高価な兵器である。従って、現在も将来においても、ゼロカジュアリティ(1人の犠牲者も出さない)が基本的な姿勢であるべきだ。米軍においては、(可能な限り)無人爆撃機等のロボット兵器へ切り替えている模様である。また、アフガン及びイラクでの米兵の死因の多くが、路肩爆弾のIED(即席爆発装置)による被害であり、これを回避してゼロカジュアリティを達成する為の兵器製造が重視されており、我が国も当然ながらそのような方向性を目指すべきだろう。国際貢献活動が更に活発化すれば、IED対処がより重要となることは必至だ。また、頻発する非対称戦闘にも対応すべく所要のシステムを構築する。
 発達した情報通信技術を活用して、戦車、航空機等のプラットフォームの火器に加え、無人機や」偵察衛星等の多用なセンサーからの情報をネットワークで結合し、直接確認できない遠距離目標に対して火力の指向を可能とするNCW(Network Centric Warfare)を目指す。


3 将来装備システム技術

 技術研究本部のHPに掲載されている中長期技術見積りから将来装備システム技術を簡単に示そう。(http://www.mod.go.jp/trdi/data/pdf/youyaku.pdf
 ①ロボット・無人機
 〇地上ロボット技術:複数のロボット群にてシステム運用可能なロボットシステム
 〇UAV(無人航空機)技術:長時間滞空性、空中自律行動・戦闘、小型可能性
 〇UUV(無人水中航走体):水中自律行動、周辺の知覚、目標の識別、判断、通信、攻撃等プラットフォームとのネットワーク化
  USV(無人水上航走体):遠隔操作、自律走行、高速化、耐航性

 ②個人装備:個人装備システム技術
 様々な脅威からの隊員防護、火力システムの情報化、高機能化、戦場情報の検知、リアルタイム把握

 ③NBC対処装備:NBC防護・検知・除染技術
 NBC兵器、特にBからの防護、迅速な検知・識別、地域・隊員の安全な除染

 ④精密攻撃武器
 〇誘導弾システム技術:超高速で飛来する小型超高速目標の長~近距離迎撃
 〇誘導弾要素技術:超小型化、地形-位置データ整合、光波マイクロ、セミアクティブミリ波、パッシブ電波シーカー、高能力推進装置、高安全推進薬
 〇弾薬技術
 知能化、誘導化等の多機能・高精度化、終末制御、高安全性
 〇指向性エネルギー兵器技術
 高出力レーザー、マイクロ波等の照射による直接・間接的破壊

 ⑤M&S、システム・インテグレーション
 〇統合シミュレーション技術:仮想空間上に対象の各種装備システムを中心とした戦闘場面を創造し、模擬戦闘を実施可能とする統合シミュレーション
 〇航空機システム・インテグレーション技術:小型高性能機のシステム・インテグレーションの技術基盤維持・向上、実機による先進技術の飛行実証

 ⑥プラットフォーム
 〇車両技術:遠隔操縦、追随走行、軽量化防御、ステルス性、電気駆動、車両用発電、電磁懸架、航続距離延伸
 〇艦艇技術:低速から高速域まで広い耐航性、電波・光波、音響、電磁波に対する高ステルス化、水中脅威への高残存性、対処能力、大パルス負荷に安定供給可能なエネルギープラント
 〇航空機技術(戦闘機):高空力特性かつ高ステルス性機体、超音速巡航を可能とするエンジン、推力偏向機構、統合化アビオニクスシステム
 〇航空機技術(ヘリコプター):搭載性、耐衝撃性、全天候性、高性能かつ高経済性

 ⑦情報収集・探知装備
 〇センサー技術:滞空型無人機や偵察用航空機等にも搭載可能な電波/光波センサーシステム
 〇ソーナー技術:浅海域でも使用可能なソーナー

 ⑧電子攻撃防御装備
 〇情報電子戦技術:セキュリティ向上・秘匿通信による指揮通信システム、通信の安全性に係る情報電子戦システム
 〇電磁波攻撃防御技術:電磁波攻撃に対する防御

 ⑨指揮統制・通信装備
 〇ネットワーク技術:ソフトウェア無線機、広帯域高出力デバイス、高抗堪性大容量野外デジタル通信ネットワークシステム


4 個人装備システムの概要

 ゲリラ・特殊部隊攻撃対処等において、予測できない脅威に迅速に対応し、様々な脅威から隊員を効果的に防護し、火力システムの情報化、高機能化を行い、戦場情報や個人の状況をリアルタイムで把握し、迅速かつ柔軟な個別戦闘を可能にする装具システムを実現する技術と説明される。

 (右の図は http://www.mod.go.jp/trdi/news/1210.html から転載)
 更に、①将来的には、電力貯蔵技術、パワーMEMS技術及びカーボンナノチューブ技術を各種機器用電源、被服内蔵情報通信電子機器に適用することにより、装備の小型・軽量化による隊員の身体的負担軽減、連続運用による作戦の柔軟性向上等の効果が期待できる。
 ②力増幅技術を適用することにより、兵士の重労働の補助・軽減及び兵士の高速移動の補助が可能となり、可操作荷重、機動性、作業能率が向上し、作戦の俊敏性、体力損耗の低減、携行火力の増加や防護力の付与等の効果が期待できる。とされる。

 戦場に展開している複数・異種のロボットや無人機等の各種センサー等の情報のうち必要な情報はリアルタイムで各個人のヘルメットのモニターに表示される。兵士が保有するモニターの情報等を指揮官や本部でも共有できる。目では見えない敵の位置が判明し、個人では無理としても同行する戦闘車両からは当該敵に対して射撃が出来る。敵に見られずに射撃を出来れば、ゼロカジュアルティは実現できる。
 戦闘服の防護性能も更に向上しているだろう。軽量防護衣が開発されている筈だ。
 当然各人の位置や行動はモニターされ、バイオデータも当然モニターされている。
 個人装備が重くなる可能性があり、この解消のため、パワーアシストが用いられよう。上下肢、下肢型のパワードアシスト即ちパワード・スーツを着用することになろう。隊員の運動能力や運搬能力は飛躍的に向上する。
 更には、隊員が必要な機器を軽易に駆使できるようになるものと考えられる。


5 SFを実現するためには

 『正にガンダムや宇宙戦士の世界が目の前に来つつあるのだ。』と、単純に喜んではおられない。中長期見積りではこれらの技術課題の解明見込みが概ね5~10年とされているが、厳しい財政状況の中で、資源の集中が出来るかが問題である。
 先進諸国は競ってこれらの技術開発を急いでいよう。日本もそうしたいのは山々だが、研究開発に投入している経費は各国に比して余りにも少ない。
 その状況は下図の通りである。(第9話に掲載済み)

主要国の国防研究開発費の状況を、「技本の研究開発の現状と軍事技術の方向性」(平成23年5月 防衛省経理装備局技術計画官)から引用する。

《中国は我が国の4倍、ロシアは約2倍、韓国は我が国を抜いて約1800億円(2007年)(国防費の約5%)→2012年までに7%、2012年までに10%に引き上げる目標》

国防研究開発費の増加は喫緊の課題であるが、大幅な増大には是非とも国民の幅広い理解が欠かせない。


6 人間の役割は

 戦場がロボットや無人機の多数展開とIT技術の進展によって、戦闘様相が従来とは全く異なるものになる。人工知能が更に高まれば人間不在のロボット同士が戦うというロボット代理戦争が起きるのではないかと空想したくなる。
 人工知能搭載のロボット「東ロボくん」は、2016年度までに大学入試センター試験で高得点を取り、2021年度に東大入試を突破することを目標にしている。
 ロボットや人工知能(AI)の進化はめざましく、ロボットが進化して人間の仕事を代替すること世界が出現するのではと危惧している識者もいる。
 戦場の様相は複雑極まりなく、センサーや人工知能が発展しても人間の判断には及ばないだろう。デジタル化できないような危険察知能力や瞬時の相違発見能力(勘的なもの)などは機械には無理だろう。
 そこに人が介在する意義がある。
 2015年1月3日(土)~ 2月8日(日)全5回放映されたNHKスペシャル「NEXT WORLD 私たちの未来」(総合テレビ)を視聴した。ビジネス、医療、娯楽など私たちの身の回りで日々出現する新たなテクノロジーをかみ砕き、5回に渡って、それが私たちの未来をどのように変えていくのかを探っていくと云うものであったが、将来戦という観点からも参考になった。
 元陸上自衛官普通科隊員としては、テロやゲリラ・コマンドウ対処、あるいは更に活発化する国際貢献活動での行動上の脅威等を考えると小型ロボットやNBC対処装備等にも関心があるが、それらは小生の能力を超えるので割愛する。指向性エネルギー兵器などもスター・ウォーズ、アニメの世界だけではなくなるだろう。だとしても、ターミネーターの時代は当分有り得ないだろう。何れにしても、科学技術の進展が戦いの様相を一変させる可能性を秘めている。大変な時代が到来する予感がする。アイディアも能力もある日本だが、それを実現させるべき国家意思の希薄さと国民理解の不十分さが気に懸る。

(了)