山下塾第5弾

山下 輝男

第十七話「一元化・統合化は必然か?」

 運用の一元化(第2及び12話参照)と同時に目玉とされる施策が実施されようとしている。調達、取得、研究そして計画作成等に係る諸機能を集約統合しようとする防衛装備庁の発足である。軍事的合理性や不祥事等対策としての一元化・統合化である。既に情報が統合され、運用と装備に係る統合化が完成すれば自衛隊の統合化は概ね完成することになるのだろう。本話では装備に係る統合化の状況を見てみたい。



1 一元化・統合化の歴史

 防衛省(庁)の組織変遷の歴史は、統合化・一元化の歴史でもある。陸海空自衛隊がそれぞれに行ってきたものを軍事的合理性の観点から統合化・一元化し、施設庁や調達実施本部等の不祥事や談合事件を受けての対策の一環としての統合と移管の歴史である。それを以下に瞥見する。

 ①情報本部の設置(1997年1月)
 外国の軍事情報を収集分析していた防衛局調査第1・2課、陸上・海上・航空の各幕僚監部調査部及び各自衛隊の専門部隊等を
 DIAの組織を参考に設置された。
 ②統合幕僚監部  第2話参照
 ③防衛施設庁の廃止に伴う機能の統合移管(2007年9月)
 談合事件を受けての改革の一環としての施設庁の廃止と機能の統合・移管
 ④調達実施本部→契約本部→装備本部→装備施設本部(2007年)
 背任事件を受けて、契約と原価計算の分離、或いは新設或いは既存組織に移管・統合
 ⑤防衛装備庁の新設(2015年の改編)
 防衛省内の調達、研究開発等に係る装備取得関連部門(内部部局、各幕僚監部、技術研究本部、装備施設本部)を集約・統合


2 防衛装備庁新設の背景等

「総合取得改革に係る諸施策について (平成27年度予算案)」と題する平成27年2月付の防衛省資料によれば、次図の通りである。



 新たな脅威に対応する技術的優位の確保、厳し財政的制約を克服するための調達改革、先般認められた装備移転3原則への全体最適対応及び防衛産業基盤の維持・育成と説明される。
 ①陸海空自衛隊が個々に装備品を調達している現状を改め、研究・開発から調達そして廃棄に至るまでを一元化することによりコスト削減
 ②陸・海・空自衛隊の組織を跨いだ一括購入や購入計画の立案が可能となり、無駄の削減が可能



3 主な機能

 説明資料にある主な機能は次の通りである。

 ①プロジェクト管理機能
 統合的見地を踏まえ、主要装備品に係るライフサイクル全般を通じた一元的な管理
 (装備品のライフサイクル(構想、開発、量産、運用・維持、廃棄)について、各プロセス(過程)をシームレスかつ組織
 横断的に管理できるよう、プロジェクト管理手法を導入)
 ○ 量的拡大
 ○ 質的拡大 ・構想段階から廃棄までの各段階における統合的見地を踏まえた、一貫した管理の実施 ・代替手段分析(費用
 と性能のトレードオフなど)の強化 ・国内外の技術情報の収集・提供 ・各段階での仕様書作成への関与
 ○ 組織的基盤の整備(事務局的機能の整備、装備関係会議の運営、各種分析など)
 ○ 大臣に対する補佐体制の強化(適宜報告し指示を受け業務を進める)

 ②装備協力・武器技術管理機能
 海外への装備品移転の案件の増加に伴う技術管理、国際共同開発・生産、民間転用等
 各国との防衛装備・技術協力を進展させるとともに、防衛装備移転三原則を踏まえた取組を推進。
 ・国際装備協力
  戦略的機能の強化(どの国と、どの程度の装備協力を行うかなど)
  諸外国との交渉・協議・調整等(覚書、価格、教育プログラム、維持整備など)
  海外移転に関する制度の検討・整備(装備品の安全証明、日本版FMS、保全措置など)
  機微技術の厳格な管理
  海外拠点の整備(連絡官の有効活用等)

 防衛装備移転3原則に係る輸出可否の判断は、昨年末設置された国家安全保障局(NSC)が行うが、防衛装備庁が対外交渉
 窓口になると共に、NSCの判断材料を提供する役割を担うことになるのだろう。

 ③研究開発機能
 運用ニーズを適切に反映した研究開発、技術動向の分析、先端技術研究を行う機関への資金援助等
 ・国内外先進技術動向の把握と、これを踏まえた研究開発戦略の策定
 ・ファンディング等の各種施策を通じた大学、研究機関等との連携強化、先進技術の発掘
 ・これまでの技術成果である知的資産の管理運営機能の強化

 ④装備品等の調達機能
 より現状に適した契約制度の検討等による調達業務の効率化等
 ・調達改革へのより効果的な対応 
 ・新たな契約制度の検討(コスト補償型、長期契約など)
 ・より効果的な補給体制の検討(特に緊急時・有事における補給・調達の行い方)

 ⑤調達改革の実現と防衛生産・技術基盤の維持・育成の両立
 ・防衛産業に関する戦略の検討・実行
 ・防衛産業・企業の実態把握やニーズの汲取り



4 防衛装備庁の組織(概要)

 防衛装備庁は、防衛省の外局として、事務次官級の長官をトップに1,800人規模となると想定される。内自衛官は約400名であり、事務官・技官等が主力である。




5 組織新編に当たり留意した事項

(1)監察機能の強化
 過去、何回か不祥事が発生したこともあり、防衛省監察本部と相俟って装備庁内部にも約20人体制の監察・評価官
 制度を設けることとになっている。
(2)防衛大臣の直轄の機関とすることにより、政治家の直接監督機能を担保する。
(3)国際共同開発に積極的に対応する。
(4)プロジェクト管理の導入



6 今後の課題

(1)不祥事防止対策の徹底  調達業務等は、防衛省に限らず、不祥事の起きやすいセクションである。不祥事防止対策に万全を期して欲しい。
 監察制度や相互牽制システム等の性悪説に基づく対応策も重要だが、隊員教育や補職管理も重要だ。専門家を重宝
 し過ぎることによる長期同一補職には陥穽がある。

(2)人材育成
 プロジェクト管理等は、初の試みであり、それを適切に運用しうる人材が重要だ。人材育成が急務である。
(3)現場ニーズの汲み上げの徹底
 前述の資料によれば、部隊の運用ニーズについて装備面への円滑・迅速な反映を防衛装備庁設置の目的の一つに挙
 げているが、それをどのように行うのか?現場ニーズを汲み上げる方向性は正しい。しっかりとやって貰いたい。

(4)防衛基盤、技術優位の確保を
 防衛装備庁設置目的に、・新しい領域(防衛装備品の一層の国際化、先進技術研究への投資等)における積極的な
 取組 ・防衛生産・技術基盤の維持・育成の両立が掲げられている。誠に結構なことである。この目的を如何に達成
 するか、防衛装備庁の鼎の軽重が問われよう。真剣なる努力を強く求めたい。美辞麗句は聞き飽きた、掛け声だけは
 御免である。産官学の連携にも一筋の光明が見え始めたようだ。
 産経WEB(1月16日)東大が軍事研究解禁 軍民両用技術研究容認 政府方針に理解
 http://www.sankei.com/politics/news/150116/plt1501160003-n1.html



7 参考事項

 前述の「平成27年度予算案における総合取得改革に係る取り組みのポイント」と称する防衛省の資料のうち、興味ある事項を紹介する。

(1)長期契約の追求
 財政法の規定により5箇年度を上限とされている国庫債務負担行為に関し、5箇年度を超える長期契約を可能とする  立法措置を行ない、自衛隊の装備品等の調達及び整備をより効率的かつ安定的に実施し、確実な防衛力整備を実現
 ○ 複数年度一括調達の推進により、企業側の製造能力等に関わる固定資産の効率的な使用、スケールメリットの追求等を
  可能とし、コストダウンを促す。
 ○ 防衛生産・技術基盤の維持・強化やコスト低減の実現可能性といった観点から、取得に長期を要する装備品等の一括
  調達については、5箇年度を超える長期契約の導入を検討。
 5箇年度を超える長期契約の導入(複数年度一括調達の推進)
 ・確定的な中長期的計画に基づいた経営・操業の実現⇒ 将来の予見可能性が高まることで、設備投資や人事配置の安定
 化・効率化が可能。
 ・長期契約によるスケールメリット⇒ 部品・材料等について、将来の調達数量の確約や、一定数量まとめての発注により、
 価格低減が可能。
 ・長期契約を実現するための法案(財政法第15条に定める
 ○5箇年度を超える国庫債務負担行為の年限を定める立法措置が必要)について第187回国会(臨時会)に提出するものの、
 衆議院において審議未了のため廃案。
 ・当該法案について次期国会(常会)に提出すべく調整中。

(2)民間海上輸送力の活用
 ①導入の必要性
 ミサイル発射事案や離島周辺への領域侵入が生じ、安全保障環境が急速に変化する中、国民の生命・財産と我が国の領土
 ・領海・領空を守りぬくため、部隊を迅速かつ確実に展開できるよう、海上における機動展開能力の向上が不可欠
 また、緊急対応時や大規模災害時においても相当量の海上輸送力の確保が必要
 他方、平素からこれら輸送力を自衛隊独自で確保するには、厳しい財政状況の中多大な財政負担が発生
 そのため、民間海上輸送力を効果的かつ効率的に活用できる仕組みの早期導入が重要
 ②背景と趣旨
 ・民間事業者の資金や知見を長期安定的に最大限活用できるPFI方式による事業について、平成27年度末までの契約締結を
 目指し、27年度予算案にて約250億円(11年間)を計上。
 ・平素の自衛隊訓練時や災害発生等の緊急対応時、 自衛隊に対する迅速な運航サービス提供態勢の維持
 ・有事における危険地域運航の際、自衛隊に対して船舶 本体のみを提供
 ・有事での危険地域の運航は、提供を受けた船舶を、 招集された予備自衛官が自衛官として運航を念頭
 ③民間海上輸送力の活用に係るPFI事業
 ・26年度は、自衛隊が必要な時に、民間フェリー(2隻)が72時間以内に出航できる態勢維持のための契約を締結。これに
 より、平素の自衛隊訓練や災害発生等の緊急対応時に、迅速な活用が可能(有事の活用は想定せず)
 ・27年度においても、同様の態勢を維持するための事業として、27年度予算案にて約15億円を計上

(3)ファンディング制度(安全保障技術研究推進制度)の導入
 ①趣旨
 防衛装備品への適用面から着目される大学、独立行政法人の研究機関や企業等における独創的な研究を発掘し、将来有望
 である芽出し研究を育成するために、技術的提案や研究課題解決手段を広く公募し選考評価の上、外部の研究者等に直接
 研究を委託する制度を創設する。
 ②本制度のメリット
 1.[効果的・効率的な技術の活用]本制度により、先端技術を効果的かつ効率的に装備品に適用できる。
 ・防衛用途として期待される新たな技術領域を萌芽的段階から育成することで、早期に有望技術の見極めが可能。
 ・将来の発展性が見込める技術を積極的に発掘することで、国内の技術基盤を最大限に活用。
 2.[防衛技術基盤の拡大]当該制度の活用により、これまで防衛分野でつながりが無かった大学や企業等が参入する端緒
 になる可能性があり、効果的に我が国の防衛技術基盤の拡大に貢献しうる。また、技術の民間への波及効果も期待できる。
 ③概要
 ◆対象者:大学、独法、企業等に所属する研究者
 ◆制度規模:年間60億円(27年度要求:20億円)
 ◆採択件数:10~20件程度(想定)
 ◆研究期間:3年(1年毎に更新)
 ④防衛省としての対応
 ・将来の防衛装備品の能力を飛躍的に向上させる可能性が見積もられる技術であるものの、成熟度が低い、あるいはリスク
 が高い等の理由により、これまで直接投資が困難だった研究分野へ資金提供を行い、当該技術を積極的に育成
 ・防衛装備品への適用が期待できる最先端技術を早期に見出すため、外部研究者の独創的・革新的なアイデア及び技術


(了)