山下塾第5弾

山下 輝男

第十八話「平和安全法制の概要(1)全体像について」

 昨年5月の安保法制懇の報告書提出、7月に閣議決定され、爾来自公の与党協議が間断なく行われ、さる5月12日には合意に達し、これを受けて政府は、14日「平和安全整備法」と「国際平和支援法」を閣議決定し、国会に提出した。成立時期は未定であるが、今般の法律が成立すると、自衛隊は更に大きく変わることは必定である。
 解りにくいと云われるこれら平和安全法制について可能な限り、数回に分けて、解り易く説明したい。



1 平和安全法制の全体像

 日本の防衛法制には、幾つもの切れ目が存在していた。今般の平和安全法制の整備の眼目は、この切れ目をなくし、あらゆる事態にシームレスに対処して、我が国の国家と国民を守る防衛体制を構築することである。
 安倍晋三首相は閣議後に記者会見し、北朝鮮による核・ミサイル開発などを挙げ「厳しい現実から目を背けることはできない。日本人の命と平和な暮らしを守るため、あらゆる事態を想定し、切れ目のない備えを行う」と法制化の必要性を強調した。
 この法制が解りにくいのは、平時の状態から事態の強度が高い状況まで、また我が国及び国民にかかわる事項から国際社会にかかわる事項までを包含し、関係する個別法も多岐にわたるからであろう。
 これらを整理すると次図のようになる。(政府作成資料から転載)


 赤字は新設、青字は拡充である。尚、所謂グレーゾーン事態対応については、法整備に関わらないので、本図には記入されていない。 本図から解るように今般の安保法制整備が、内容も範囲も、正に歴史的なものである。


2 平和安全法制の構成

  法制整備を個々の法律と云う観点から見てみると「平和安全法制整備法」と「国際平和支援法」という二本建てとなっている。
  即ち、安保関連法案は多岐にわたるため、既存の法律10本を一括して改正するための「平和安全法制整備法」と、国際平和
 共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動に関する「国際平和支援法」の新規制定法案である。

(1)平和安全法制整備法
 10本の法律と夫々の法律における主要な改正事項は以下の通りである。
 ①自衛隊法
 ・在外邦人等の保護措置
 ・米軍等の部隊の武器等の防護関連
 ・米軍に対する物品役務の提供等
 ・国外犯処罰規定(隊法122条の2)
  (以下に係る罰則について国外犯処罰規定を整備する。① 上官の職務上の命令に対する多数共同しての反抗及び
   部隊の不法指揮② 防衛出動命令を受けた者による上官命令反抗・不服従等)
 ・自衛隊の任務の項「直接侵略及び間接侵略に対し」を削除、防衛出動に「存立危機事態」を追加
 ②国際平和協力法(所謂PKO協力法)
 ★法律概要
   PKO(国連平和維持活動)や人道的な国際救援活動に協力を目的に,停戦合意,紛争当事者の受入れ同意,中立,
  独自判断による撤退,隊員の生命・身体防護に限定した武器使用の5条件を前提として,自衛隊員・部隊を派遣し,
  平和維持軍(PKF)本隊に自衛隊の部隊が参加する場合は国会の事前承認を要することなどを定める。 
  平成4年(1992)成立。
 ★改正事項
 ・国連PKO等において実施できる業務の拡大(いわゆる安全確保、駆け付け警護)、業務に必要な武器使用権限の見直し
 ・国連が統括しない人道復興支援やいわゆる安全確保等の活動の実施
  (国際連携平和安全活動(非国連統括型)の新設)
 ・国際連合平和維持活動の拡充
 ・業務の拡充、武器使用権限の見直し、国会承認、隊員の安全確保、その他

 ③周辺事態安全確保法
 ★法律概要
   そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の
  平和及び安全に重要な影響を与える事態(「周辺事態」)に対応して我が国が実施する措置、その実施の手続
  その他の必要な事項を定め、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」
  という。)の効果的な運用に寄与し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。
  平成11年(1999)成立。
 ★改正事項
 ・我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態における米軍等への支援を実施すること等、改正の趣旨を
  明確にするための目的規定の見直し
 ・日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行う米軍以外の外国軍隊等に対する支援活動を追加
 ・支援メニューの拡大
 ・名称を「重要影響事態安全確保法」に変更
 ・重要影響事態の定義変更(周辺事態の定義から我が国周辺の地域における)を削除)
 ・支援対象(外国軍隊も対象)、対応措置等、一体化の回避、国会承認
 ・外国領域での活動可能に、武器使用権限は自己保存型のみ

 ④船舶検査活動法の拡充
 ★法律概要
   周辺事態が発生した際に、日本が商船に対して行う検査活動について定めた法律。平成12年(2000)12月公布。
  船舶検査活動は、周辺事態に対応するために必要な措置として周辺事態法に規定された活動の一つで、日本の
  領海または周辺の公海において、自衛隊の部隊等が、民間の船舶の積み荷や目的地を検査・確認し、必要に応じて
  航路や目的港などの変更を要請する。
 ★拡充 国際社会の平和と安全のための船舶検査活動を可能に

 ⑤事態対処法の改正
 ★法律概要
  武力攻撃事態等への対処について定めた法律。武力攻撃事態・武力攻撃予測事態について定義し、国・地方公共
  団体・指定公共機関の責務、国民の協力、および事態対処法制の整備について規定 平成15年(2003)施行
 ★改正事項
 ・事態対処法の武力攻撃事態等に「存立危機事態」を加え、対処基本方針等を修正
 ・国会承認について :原則事前承認(現行規定と同じく)

 ⑥米軍行動関連措置法を改正
 ★法律概要
   武力攻撃予測事態および武力攻撃事態において、自衛隊と共同作戦を実施する米軍が我が国内にあって作戦行動
  する際に、自衛隊と同様の措置をとることができるように国内法的な保証を与えるものである。
   具体的には ①政府として、関係する地方自治体との連絡調整 ②米軍から応急措置としての道路の工事にかかわる
  連絡を受けた場合に、防衛大臣は自衛隊法の規定に準じて通知 ③自衛隊が保有する物品(弾薬を含む)を米軍に
  提供 ④防衛出動を命じられた自衛隊は米軍に役務の提供を実施可能 物品・役務には次のものが含まれる――補給
  (武器の提供を行う補給を除く)、輸送、修理もしくは整備、医療、通信、空港もしくは港湾に関する業務、基地に
  関する業務、宿泊、保管、施設の利用または訓練に関する業務(これらの業務にそれぞれ附帯する業務を含む)。
 ★改正事項
 ・名称を米軍等行動関連措置法に変更
 ・米軍のみならず日本防衛のために行動する外国軍隊に対する支援を可能とした。
 ・存立危機事態における外国軍隊に対する支援を追加

 ⑦特定公共施設利用法
 ★法律概要
  武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用について、的確かつ迅速な対処を図るために必要な事項を事前に定めたもの。
 ★改正事項
 ・武力攻撃事態等における米軍以外の外国軍隊の行動を利用調整の対象に追加

 ⑧海上輸送規制法
 ★法律概要
   武力攻撃事態の際に、日本の領海または日本周辺の公海で、防衛出動を命じられた海上自衛隊の部隊が、敵国の軍用品を
  海上輸送している船を停船検査し、または回航措置をとることができるよう、そのために手続きを定め、また外国軍用品
  審判所を設置し(防衛省所管)、そこでの審判手続きを定め、敵国がその軍用品を取得できないようにするもの。
  2004年(平成16)6月14日成立
 ★改正事項
 ・存立危機事態においても適用する
 ・実施海域を我が国領海、公海及び同意がある場合には当該外国領海

 ⑨捕虜取扱い法
 ★法律概要
   武力攻撃事態における捕虜等の拘束、抑留その他の取扱いに関し必要な事項を定めることにより、武力攻撃を排除する
  ために必要な自衛隊の行動が円滑かつ効果的に実施されるようにするとともに、武力攻撃事態において捕虜の待遇に関する
  ジュネーヴ条約その他の捕虜等の取扱いに係る国際人道法の的確な実施を確保することを目的とする。
  2004年(平成16)6月14日に成立
 ★改正事項
 ・存立危機事態おいても適用

 ⑩国家安全保障会議法の改正
 ・審議事項として、存立危機事態への対処、重要影響事態への対処及び国際平和共同対処事態への対処を定める。
 ・必ず審議しなければならない事項として、領域国等の受け入れ同意の安定的維持等に関する4項目を規定


(2)国際平和支援法の制定について
 ア 目的
   国際平和共同対処事態(① 国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、② その脅威を除去するために国際社会が
  国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、③ 我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に
  寄与する必要があるもの)において、当該活動を行う諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等を実施して、国際社会の
  平和及び安全の確保に資する
 イ 要件
   次の国連決議(総会又は安保理)があること
  ①支援対象となる外国が国際社会の平和及び安全を脅かす事態に対処するための活動を行うことを決定し、要請し、
   勧告し、又は認める決議 
  ②①のほか、当該事態が平和に対する脅威又は平和の破壊であるとの認識を示すとともに、当該事態に関連して
   国連加盟国の取組を求める決議
 ウ 対応措置
  ① 協力支援活動
   諸外国の軍隊等に対する物品及び役務の提供
   補給、輸送、修理及び整備、医療、通信、空港及び港湾業務、基
   地業務、宿泊、保管、施設の利用、訓練業務、建設(※)武器の提供は含まず
  ② 捜索救助活動
  ③ 船舶検査活動(船舶検査活動法に規定するもの)
 エ 国会承認
  例外なき事前承認、7日以内の各議院の議決努力義務等


(3)その他
 (1)項で示した法律以外にも、以下のような法律も所要の改正を行う必要があるとされる。
  ①道路交通法
  ②国際機関等に派遣される防衛省の職員の処遇に関する法律
  ③ 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律
  ④ 武力紛争の際の文化財の保護に関する法律
  ⑤ 原子力規制委員会設置法
  ⑥ 行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
  ⑦ サイバーセキュリティ基本法
  ⑧ 防衛省設置法
  ⑨ 内閣府設置法
  ⑩ 復興庁設置法



3 平和安全法制閣議決定に関する安倍首相談話及びマスコミの反応等

(1)安倍首相閣議決定後の記者会見
 ・今般の安保法制の整備に必要性等について力説
 ・アメリカの戦争に巻き込まれることは絶対にない。日本が危険にさらされたときには、日米同盟は完全に機能する。
  抑止力が更に高まる。
 ・戦争法案などといった無責任なレッテル貼りは全くの誤りである。
 ・そのためにあらゆる事態を想定し、切れ目のない備えを行うのが今回の法案である。
 ・海外派兵が一般に許されないという従来からの原則も変わらず。
 ・これまでの自衛隊の活動は間違いなく世界の平和に貢献し、大いに感謝されている。
  こうした素晴らしい実績と経験の上に、今回PKO協力法を改正し、新たに国際平和支援法を整備することとした。
  我が国の平和と安全に資する活動を行う、米軍を始めとする外国の軍隊を後方支援するための法改正も行います。
  しかし、いずれの活動においても武力の行使は決して行わない。

(2)主要マスコミ各社
 〇産経新聞:安全保障法制 国守れぬ欠陥正すときだ 日米同盟の抑止力強化を急げ
 (5月15日)
   日本は国民の命と平和な暮らしを守りきれるかどうかの岐路に立っている。現状では日本国民を救う活動を行う
  米軍が攻撃を受けても、助けることができない。法制上の欠陥を、これ以上放置しておくことはできないという
  首相の認識は極めて妥当である。

 〇読売新聞 安保2法案決定 的確で迅速な危機対処が肝要  日米同盟強化へ早期成立を図れ(5月15日) 
   東西冷戦の終焉後、我が国は、様々な安全保障上の矛盾や課題に直面してきた。それらを克服し、日本と世界の平和を
  確保するうえで、重要な前進だと評価できよう。
   政府が、新たな安全保障関連2法案を閣議決定した。集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊の国際的な役割を拡大するものだ。

 〇朝日新聞:合意なき歴史的転換 (5月15日)  
   集団的自衛権の行使を認めた昨年7月の閣議決定は、憲法改正手続きを素通りした実質的な9条改正である。
  法案の成立は行政府の恣意(しい)的な解釈改憲を立法府が正当化し、集団的自衛権の実際の行使へと道を開くことになる。
  そうなれば、もう簡単には後戻りできない。この一線を越えてはならない。

 〇東京新聞:安保法制閣議決定 専守防衛の原点に返れ(5月15日) 
   安全保障法制が閣議決定された。海外での武力の行使に道を開く危うい法案だ。戦後貫いてきた「専守防衛」の原点に、
  いま一度返るべきではないか。

 〇毎日新聞 5月15日
   安保法案 国会提出へ  大転換問う徹底議論を
   日米安保条約の改定に匹敵し、専守防衛の本質を変え、本来なら憲法9条の改正手続きを踏まなければならないほどの
  戦後の安全保障政策の大転換だ。私たちは、安全保障環境の変化に応じ、必要な法整備を検討すること自体は理解する。だが、
  今回の安全保障法制は内容も進め方も問題が多すぎ、とても同意できない。「専守防衛」に反する。国民の納得には程遠い。
 
 〇日本経済新聞:具体例に基づく安保法制の議論を (5月14日)
   戦後の安全保障政策を大きく転換する法案が、国会に提出される。どんなに趣旨が正しくても、国民の支持を伴わない政策は
  長続きしない。世論の理解につながる論戦を深めてもらいたい。中国軍の台頭や武器の拡散など、日本を取りまく安保環境は
  厳しくなっている。米国が世界の警察を独りでは担えないなか、日本は米国や他の国々と協力し、自国と地域の安定を保って
  いく必要がある。新法案はそのためのものであり、趣旨は理にかなっている。問題は、自衛隊が「どんな時に、何を、
  どこまで」やるのか、法案をみても明確なイメージがわかないことだ。世論調査では、今国会での法案成立を支持する
  回答は、半数以下にとどまっている。自衛隊の海外派遣が際限なく広がりかねない。そんな不安から反対している人も
  少なくないだろう。
   なかでも、丁寧な説明が欠かせないのが、集団的自衛権や重要影響事態法案をどのようなときに使うかだ。危機にすばやく
  対処するため、この2つについては国会承認が事後になることも例外的に認めている。その分、政府の判断基準がより
  厳しく問われる。朝鮮半島や中東に加えて、南シナ海でも緊張が高まっている。たとえば、南シナ海で何らかの危機が
  起きたら、集団的自衛権行使や重要影響事態法案の適用対象になるのか。それはどのようなケースなのか。政府は具体例を
  あげて、説明すべきだ。
   一方、議論を深める責任は、野党側にもある。ただ反対するのではなく、より良い代案を示すことも大事だ。政府・与党側も
  議論次第では、法案の修正を排除すべきではない。メディアとしても、複雑な法案をかみ砕いて伝える努力を重ねたい。

(3)その他の批判等
 ①集団的自衛権を認めれば、自衛隊員の犠牲に直結するので認めるべきではない。
 ②集団的自衛権の行使容認は、憲法第9条に違反する。
 ③解釈変更ではなく憲法を改正すべき
 ④個別的自衛権や警察権でも対応が出来るのではないか?
 ⑤徴兵制が復活するのではないか?
 ⑥戦争をする国にするのか?地球の裏側まで戦争に行くのか?



4 評価と今後への期待

 今般の安全保障法制の整備は、我が国の安全保障にとって歴史的とも云える改革であり、戦後70年の安全保障政策を本来の姿に戻す大きな転換点である。今般の整備によっても未だなお不十分な面もある事は事実であるが、それは次なる課題である。
 速やかな国会審議を要望したい。然しながら、野党は、法律10本の一括改正は可笑しい、閣議決定された「平和安全法制」について、「平和」と冠するのは欺瞞だとか、十分な審議が必要或いは極小政党までも委員として認めろ等々、入り口論、手続き論に終始し、首相の米国議会演説にまでケチをつけて審議を殊更に遅らせようとしている。野党の引き延ばし戦術に乗せられるべきではない。と云って、中央突破は国民の理解を得にくいだろう。与野党共に、この課題は喫緊の課題であるとの認識を共有して、成熟した政策論議、実りある審議を尽くして欲しい。
 また、本稿で説明した通り、法整備が多岐にわたり、馴染みのないことが多く、一般の国民には中々理解し難い面が多々ある事も事実であり、それらをしっかり説明して頂きたい。



5 次回以降の説明事項(案)

(1)グレーゾーン事態対処
(2)PKOを含む国際社会の平和と安全のための活動
(3)従来の周辺事態、新「重要影響事態安全確保法」について
(4)集団的自衛権の限定的行使容認について
(5)日米同盟の強化について
(6)「武力行使との一体化」論の呪縛
(7)自衛隊の海外における活動の国際法上の正当性
(8)自衛隊の行動に係る国会承認
(9)安全の確保のための規定
(10)武器使用について
(11)その他



(了)