山下塾第5弾

山下 輝男

第二十話「平和安全法制の概要(3)国際平和協力法の改正」

 我が国は、1992(H4)年に成立した所謂「PKO協力法」に基づき、PKO、人道的な国際救援活動及び国際的な選挙監視活動を行う枠組みが整えられ、また国際的な要請もあり特措法を制定して国際平和協力活動を行ってきた。
 この20年余りの経験を通じて、現行の枠組みにおける問題点も指摘され、その解決が強く求められている。如何なる問題点があり、何をどのように変えようとしているのかを見てみよう。



1 国際平和協力業務の概要

  1992(平成4)年6月、国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(以下PKO協力法)を制定し、同年のカンボジア
 暫定機構(UNTAC)への陸上自衛隊の派遣を皮切りに、モザンビーク、ルワンダ等々12件のPKO派遣、5件の「人道的な国際救
 援活動への協力」及び8件の「国際的な選挙監視活動への協力」を行ってきた。
  また国際緊急援助隊法(JDR法)に基づき、被災国や国際機関の要請に基づき国際緊急援助活動を行ってきた。更には、イラク
 特措法やテロ特措法、新テロ特措法に基づく人道復興支援等の活動をも行ってきた。
  また、ソマリア沖やアデン湾での海賊行為から付近を航行する船舶を護衛する為に、当初は海上警備行動により、海賊対処
 法が成立後はそれに基づき水上部隊及び航空部隊が派遣されている。


2 国際平和協力活動の実施状況等

  我が国が行っている(きた)自衛隊による国際平和協力活動は下図の通りである。









業務内容 主要活動 根拠法規 実績 備考
国際平和協力業務 国連平和維持活動
(注1)
PKO協力法 9件(うち継続中1件)
人道的な国際救援活動(注2) 5件
国際的な選挙監視活動 選挙監視等単独10件 自衛隊からは派遣されていない
上記のための物資協力
国際緊急援助活動 医療、輸送、給水等 国緊隊法(JDR法) 14件
イラク特措法に基づく活動 イラク特措法 1件 2009年終結
補給支援特措法に基づく活動 テロ特措法次いで補給支援特措法 1件 2010年終結

注1:国連決議に基づき、武力紛争当事者間の武力紛争再発防止に関する合意の遵守の確保、武力紛争の終了後に行われる
   民主的な手段による統治組織の設立の援助、その他紛争に対処して国際の平和と安全を維持するために国連の統括の
   もとに行われる活動
注2:国連決議または国連などの国際機関の要請に基づき、紛争による被災民の救援や被害の復旧のため、人道的精神に
   基づいて国連その他の国際機関または各国が行う活動



3 PKO 法の改正

  2度にわたり改正されたが、その概要は次の通りである。
 ① 平成10 年6 月
   国連平和維持活動と人道的な国際救援活動に、新たに地域的機関の要請等に基づき実施される国際的な選挙監視活動
   を追加、人道的な国際救援活動のための物資協力については、停戦合意が存在しない場合であってもこれを行うことが
   できることとした。
  また、武器の使用について、原則として個人の判断によるとしていたものを、原則として上官の命令によることとした。
 ② 平成13 年12 月
   PKF(平和維持隊)本隊業務の凍結を解除した他、武器使用における防衛対象について、「自己又は自己とともに現場に
  所在する他の隊員」のみならず、「自己の管理下に入った者を防衛」へと拡大した。更に、自衛隊法第95条(武器等防護の
  ための武器の使用)も適用可能とした。



4 現行枠組みの問題点は

(1)参加5原則について
  PKO協力法には、PKOに参加するための基本方針が示されているが、これが参加5原則と呼ばれている。それは以下の
  通りである。
  ①紛争当事者の間で停戦合意が成立していること。
  ②当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の
   参加に同意していること。
  ③当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
  ④上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
  ⑤武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。

  このうち第5原則の武器の使用に関する項目において「要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られる」と
 ある事については、自衛隊の参加実績が積み重なるに連れて、実態と乖離していると指摘されるようになり、基準の変更が
 議論されるようになっている。例として、襲撃を受けた民間人を保護するため、自衛官を派遣した場合でも武器を用いること
 ができないなど、現場の実態に即していない状況がある。これを解決するために、現在、NGO等の民間人が攻撃された場合、
 これを救助することを可能にする「駆け付け警護」の許可など、使用基準の緩和が議論されてきた。
  また、第4原則の状況により撤収するという原則も、日本独自の考えであり、国際社会の理解を到底得られないだろう。

(2)PKO本体業務の解除と実施業務の不整合等
   平成13年に、所謂PKFの凍結が解除された。これにより、本体業務と云われる
  ①武力紛争の停止の遵守状況、軍隊の再配置・撤退、武装解除の監視、②緩衝地帯などにおける駐留、巡回、③武器の
  搬入・搬出の検査、確認、④放棄された武器の収集、保管、処分、⑤紛争当事者が行う停戦線など境界線の設定の援助
  ⑥紛争当事者間の捕虜交換の援助などが実施できることとなったが、それが規定化されていない。また、真にその必要性が
  あれば、躊躇わずに引き受けるべきであるが、どうも、躊躇しているとしか思えぬ。
   また、国連PKOは近年従来型のPKOから第4世代と呼ばれるPKOになってきているが、日本はそれに対応できていない
   ように見受けられる。
  参考:第4世代PKO=2000年台後半には紛争終結後の人道支援や復興支援の重要性がますます高まり、PKOは人道支援や
     開発支援を専門とする他の国連機関との連携が模索されるようになった。そこで誕生したのが「統合ミッション」
     という枠組みである。これは、PKOミッションと「国連カントリーチーム」(国連機関の国別チーム)を
     「一つの国連」として一体的に運用することを意図し、停戦監視~平和構築~人道支援を効果的に行えるように
     するものである。

(3)武力行使との一体化論の観点から実施できない業務等の存在
   国連PKO等の参加においては、本体業務ではない後方支援業務を実施して、国際社会から高い評価を得てきた。然し
  ながら、その後方支援についても、治安維持に任ずる歩兵部隊や多国籍軍に対する輸送、戦闘による負傷者等の
  輸送・治療等をはじめ
   補給・整備等の後方支援を求められた場合でも、「武力行使との一体化」という日本独特の論理に該当する恐れが
  ありとして、それを回避してきた。

(4)武器使用に制約
   駆け付け警護や任務遂行のための武器使用の禁止が足枷となっており、十分な任務遂行に支障をきたして居る。国際
  社会からの信頼も得られない。
   外国軍隊に助けて貰うことは有っても危機に陥っている邦人やNGO等の外国人を助けることが出来ないのは不合理である。

(5)国連の指揮下でのみの活動では不十分
   近年では、国連機関や地域機関の要請等によって行われる国際的な平和協力活動も増えている。例えば、アチェ監視
  ミッション(2005年欧州連合の要請)やソロモン地域支援ミッション(2003年豪州等15か国・地域が参加)がある。
  これらは、国連が統括しない活動ではあるが、趣旨としては全く同じであり、我が国としてもこれらの活動に参加
  して、国際社会の一員としての責任を果たす必要がある。



5 今回の改正事項

  上記の問題点を解決するために国際平和協力法を改正することとした。
(1)PKO参加5原則に第5原則(武器使用)への追加
   武器使用は要員の生命等の防護のための必要最小限のものを基本とする。受入れ同意が安定的に維持されていることが確認
  されている場合、いわゆる安全確保業務及びいわゆる駆け付け警護の実施に当たり、自己保存型及び武器等防護を超える武器
  使用を可能とした。

(2)国際連携平和安全活動(非国連統括型)の新設
   参加5原則を満たした上で、次の何れかが存在する場合
 ① 国際連合の総会、安全保障理事会又は経済社会理事会が行う決議
 ② 次の国際機関が行う要請
 ・国際連合
 ・国際連合の総会によって設立された機関又は国際連合の専門機関で、国際連合難民高等弁務官事務所その他政令で定めるもの
 ・当該活動に係る実績若しくは専門的能力を有する国際連合憲章第五十二条に規定する地域的機関又は多国間の条約により設立
  された機関で、欧州連合その他政令で定めるもの
 ③ 当該活動が行われる地域の属する国の要請(国際連合憲章第七条1に規定する国際連合の主要機関のいずれかの支持を受けた
  ものに限る。)

(3)その他
  ①業務の拡充
   停戦監視、被災民救援等に加え、いわゆる安全確保業務、いわゆる駆け付け警護、司令部業務等を追加、統治組織の
   設立・再建援助の拡充
  ②武器使用権限の見直し
   所謂安全確保業務、所謂駆け付け警護の実施に当たっては、所謂任務遂行のための武器使用を認める
  ③国会承認
   自衛隊の部隊等が行う停戦監視業務、いわゆる安全確保業務については事前の国会承認が基本(閉会中又は衆議院が
   解散されている場合の事後承認可)
  ④隊員の安全確保
   安全配慮規定、業務の中断及び危険を回避するための一時休止その他の協力隊の隊員の安全を確保するための措置を
   定めた実施要領の策定を規定
  ⑤その他
  ・ 自衛官(司令官等)の国際連合への派遣
  ・ 請求権の放棄
  ・ 大規模な災害に対処する米軍等に対する物品又は役務の提供
  ・ 国際的な選挙監視活動の協力対象の拡大など



5 評価

  日本のPKOは国際的に高い評価を得ており、国民にも受け入れられている。今回の改正により、任務が多様化し、
 国家再建にも深く関わるようになってきた国際平和協力に、日本も更なる積極的な協力が出来るようになる。
  安全配慮規定が設けられるが、言わずもがなの規定であるとしか思えない。国家として、派遣された自衛隊の部隊の
 安全確保に充分に留意するのは当然である。事態に応じ、必要があれば撤収等を決断することもあって然るべきである。
 その際には他の参加国との十分な連携が必要であることは言うまでもない。

(了)